事例名称 |
過酸化ベンゾイルの爆発・火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1990年05月26日 |
事例発生地 |
東京都 板橋区 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
高純度の過酸化ベンゾイル(BPO)をメタノール洗浄後、メタノールを蒸発乾燥させた後の小分け中に爆発した。乾燥残のメタノールが蒸発し、作業者からの静電気火花で着火し、さらにBPOの爆発になった。BPOの無許可大量貯蔵は、事故の規模を拡大したことには大きく寄与しているが、直接の原因ではない。ただ、このような違反行為を知りながら見過ごした管理者の体質が、間接的に事故を導いているといえる。 |
事象 |
過酸化ベンゾイル(BPO)の製造装置において、高濃度製品の小分け作業中に爆発火災が起こった。工場全体が破壊されて、近隣の一般民家にまで被害が及んだ。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
充填・小分け |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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物質 |
過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)、図3 |
メタノール(methanol)、図4 |
事故の種類 |
爆発・火災、健康被害 |
経過 |
1990年5月26日08:30 作業開始。隣接の乾燥室で乾燥したBPOを手作業でゴミ等をとり、台車で小分け室に運んだ。 09:30 小分け作業を開始した。 作業開始前に床面を水で濡らし静電気対策とした。 運び込まれたファイバードラム(直径40cm, 高さ70cm)に入った粉末状BPOをビニール袋にプラスチック製のシャベルで詰め替える作業である。 10:40 作業中に発火・爆発した。最初に小分け室で小火災が起こり、順次拡大していった。 |
原因 |
最初に爆発した小分け室はほぼ跡形もなく全壊し、作業員4名全員が死亡している。そのため小分け作業が通常どおりに行われることを前提に、各種の調査、実験を行った。それをもとに最初の爆発原因は以下のように推定された。 “BPOの乾燥残のメタノールが気化し、可燃性混合気を作り、BPO小分け作業者の静電気放電により、着火した。引き続きファイバー缶内のBPO粉じん、次いでBPO本体にこの火が移り爆発した” 周辺建物などに保管されているBPOが誘爆し、火災が拡がり、被害が拡大した。 |
対策 |
1.危険性の極めて高いBPOの取り扱いについて、安全作業標準を整備し、教育を徹底する。 2.着火源として考えられる電気火花対策としては防爆構造の採用。 3.BPO自体の発火性に対して取扱い器具、床などに軟質性で導電性のものを採用する。 |
知識化 |
危険性既知の物質の取扱いに際しては、安全作業標準の整備と、安全作業に関する教育が重要である。 |
背景 |
1.拡大したのはBPOの潜在危険性と大量の保管による。 2.発生原因の項で記されている推定のように、乾燥残のメタノールが蒸発し、作業者からの静電気放電で着火、とすると乾燥の基準とか作業者の帯電防止といった最も基本的なことが守られていない。この事故以前にも複数の先行事故もあり、本質的には企業の安全軽視体質があった、あるいは無知であったことが最大要因ではないだろうか。 |
後日談 |
当該事業所内の食添工場、製品倉庫などに危険性の極めて大きい過酸化ベンゾイルを長年にわたり組織ぐるみで大量に無許可貯蔵していた。しかも、その違反事実を関係者は、十分に周知しており、極めて悪質である。本違反行為は所轄警察に告発された。関係法令は遵守しなければならない。 |
データベース登録の 動機 |
溶剤から有機過酸化物への2段着火による事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、組織文化不良、隠蔽体質他、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、不注意、理解不足、リスク認識不足、計画・設計、計画不良、プロセス設計不良、定常操作、誤操作、乾燥不充分、二次災害、損壊、火災・爆発、身体的被害、死亡、8名死亡、身体的被害、負傷、18名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額1.5億円、補償金7億円、社会の被害、社会機能不全
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情報源 |
消防庁、危険物に係る事故事例-平成2年(1991)、p.66-67
東京消防庁予防部調査課、近代消防、No.470、p..95-101(2000)
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死者数 |
9 |
負傷者数 |
17 |
物的被害 |
小分け室がほぼ全壊.工場建物7棟と隣接する事業場の建屋1棟計902平方m焼損.周辺のマンション等33棟で一部窓ガラスが割れる等の被害.車19台破損. |
被害金額 |
1億5,000万円(消防庁による). |
全経済損失 |
1億5440万円(12月27日、発災社と遺族側の間で、補償総額約7億円で示談成立.) |
社会への影響 |
付近刺激臭により住民ら目の痛みなど.付近住民ら一時避難. |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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図4.化学式
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備考 |
事故後工場付近の樹木の葉の変色が見出されている。有機過酸化物は環境中に排出後は速やかに反応して残留しないと考えられる。そのほか残留性の化学物質は生じていないと考えられる。 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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