失敗事例

事例名称 ビスフェノールAの溶解槽への投入中の粉じんによる爆発・火災
代表図
事例発生日付 1990年11月05日
事例発生地 千葉県 市原市
事例発生場所 化学工場
事例概要 ポリカーボネート製造装置への粉体の原料ビスフェノールAをフレコンから受け入れていた。マニュアルに従わない不安全な操作により、ホッパー内の窒素パージ雰囲気中に想定以上の量の空気が流入した。ビスフェノールA粉体をホッパーに投入した時に粉じん爆発火災が発生した。
事象 ポリカーボネート製造装置のビスフェノールA溶解槽の投入ホッパー付近で、ビスフェノールAの爆発火災が発生し、作業中の協力会社従業員が負傷した。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 ビスフェノールA(bisphenol_A)、図3
事故の種類 爆発・火災
経過 1990年11月5日08:30 協力業者の作業員が現場で作業指示書に基づき作業を開始した。
08:45頃 爆発火災発生、直ちに当該装置の緊急停止操作に入った。
      現場指揮所設立、防災活動を開始した。
08:50 放水を開始した。
08:55 公設消防隊が現場に到着した。
08:55 負傷者を救出し病院へ搬送した。
08:56 火災の鎮圧を確認した。
原因 いつもの作業で、ビスフェノールAをホッパーに投入中、ホッパーの投入口付近で静電気を着火源とする粉塵爆発が起こり、ホッパー内外に爆発が伝播し火災となったと推定される。ホッパー内部は窒素でパージされていたが、以下の不完全な操作のため、空気が流入し限界酸素濃度以上の酸素が存在していたものと推定される。
1.フレコンをセット後仕切弁を開ける、とのマニュアルの手順に対し、フレコンのセット前に仕切弁を開放していた。
2.フレコンの吊り上げ位置が、通常より約30cm高く、投入口との隙間が開いていた。
対処 火災発生、直ちに当該装置を緊急停止
対策 ホッパー内部の酸素濃度の上昇を防止するため
1.マニュアルの充実と協力業者作業員の技能教育の徹底を図る。
2.ホッパー投入口に、新たに窒素注入設備を設ける。
3.ホッパー内に酸素メーターを常設する。
知識化 1.可燃性粉体は粉じん爆発の潜在危険があるため、取り扱いには細心の注意が必要である。
 この事故では、協力業者がマニュアルを励行しなかった点は大きな問題である。
2.多少の操作ミスがただちに事故に結びつかないような装置とすることも重要と考える。
 例えば、窒素注入装置の増強、酸素メータの設置などが考えられる。
背景 マニュアルに従わない不安全な操作により、窒素雰囲気中に想定以上の量の空気が流入したことが最大の事故要因である。
1.窒素雰囲気にあるという認識からか、静電気の発生、蓄積に注意が払われていないのと思われる。
2.安全に対する過信があったと思われる。
よもやま話 ☆ 容器内に窒素を投入すれば容器全体が窒素雰囲気で安全と考えるのは思い違いだ。窒素を投入し、どこかで抜くところがあれば、流れが出来る。流れが出来れば、均一の雰囲気などあり得ない。
データベース登録の
動機
作業指示からのちょっとした逸脱が、何年も問題のなかった作業で爆発を起こした例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、作業管理不良、価値観不良、組織文化不良、下請け任せ、不注意、理解不足、リスク認識不良、定常操作、誤操作、マニュアル違反、不良現象、化学現象、発熱・発火、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失、被害金額1,000万円
情報源 産業と保安、Vol.7(No.22)、p.9-11(1991)
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.196-199
死者数 0
負傷者数 1
物的被害 建屋6階の角型折板(外壁),窓枠,窓ガラス,扉破損.
被害金額 1,000万円(消防庁による)
マルチメディアファイル 図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)