失敗事例

事例名称 樹脂中間原料製造装置の反応缶において混入物が触媒となって内容物の爆発
代表図
事例発生日付 1996年06月10日
事例発生地 福岡県 北九州市
事例発生場所 化学工場
事例概要 プラスチックの中間原料の製造装置において、反応缶に原料を仕込んで撹拌しながら加熱中、混入物により原料の爆発的な分解反応が起こり反応缶が爆発し、火災となった。前々ロットでの減圧蒸留工程でのバルブ操作の誤りにより、排ガスの中和用に使っていた水酸化ナトリウムが反応缶に逆流し、これが触媒となって異常反応を起こした。
単なるヒューマンエラーが原因か、それともアルカリ混在の危険性が認識されなかったか、どちらかが真の原因と思われる。
事象 エポキシ樹脂の中間原料を製造するため、反応缶に原料を仕込み加熱・撹拌をしていた。反応缶内で混入物が触媒となって異常反応が生じて昇温し続け、ついには反応缶が爆発し火災となった。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
反応 重合・縮合
物質 無水マレイン酸(maleic anhydride)、図3
メチルテトラヒドロ無水フタル酸(methyl-1,2,3,6-tetrahydrophthalic _anhydride)、図4
水酸化ナトリウム(sodium hydroxide)、図5
事故の種類 爆発・火災
経過 1996年6月9日朝 前々ロットの製造工程で、バルブを閉め忘れた。
 これにより反応缶内に水封タンク側から水酸化ナトリウム水溶液あるいは配管に付着した水酸化ナトリウムを吸い込んだ。(後日判明)
10日 21:50 反応缶を撹拌しつつ、加熱を開始した。内圧は2KPaGだった。
23:30 反応缶の昇温速度が通常よりも大きいと気付いたが、原料が少ないためと解釈し、加熱を続けた。
23:35 反応缶の温度が規定の202℃に達したので様子を見に行った。
 上部のパッキンからガスが漏れており、0.5MPaGの圧力計が振り切っていた。
 直ちに、ジャケットに冷却水を流して冷却したが、昇温は止まらず206℃となっていた。ガスが充満してきたので20m離れたボイラー室に避難した。
23:42 ドーンと音がして爆発し火災となった。
23:45 消防に通報した。22台95人が出動した。
11日00:06 火災を鎮圧した。
原因 1.前々ロットの製造工程で真空蒸留した際、配管のバルブの一部を閉め忘れていたため、反応缶も減圧した。この減圧により反応缶からの分解ガスの排ガスラインの途中にある水封タンクから中和処理用の水酸化ナトリウム溶液の一部、あるいは、排ガスラインに付着していた水酸化ナトリウムが反応缶に逆流した。
2.この水酸化ナトリウムが触媒となり、原料の1つの無水マレイン酸が爆発的に分解した。
対処 1.加熱設備の停止
2.操業停止
3.放水消火
4.消防活動により、メチルイソブチルケトン装置への延焼を回避
対策 1.施設と設備の再点検
2.従業員の防災教育
3.防災訓練の徹底
4.バルブを開閉したら、別人がこれを確認する。
知識化 1.化学物質の火災では、物質の性状や水による消火の可否などの事業者からの情報が不可欠である。日頃から事業者と消防との情報交換体制の確立や災害時の即時対応体制の充実が望まれる。
2.水封は入口と出口の圧力差が規定以上になると、水分が低圧側に流れる。もし流出して水位が下がってしまうと、水封の機能までも失われる。
背景 無水マレイン酸がアルカリ下で爆発する危険性を安全管理者が把握しておらず、それを作業員に教育できなかったと思われる。もし、アルカリ混入の危険性を理解していれば、水封タンクからの逆流にも注意を払い、バルブ開閉のダブルチェックとか、使用前点検を行い状況の確認が徹底できたであろう。それとも、単なる不注意によるヒューマンエラーかも知れない。
後日談 燃えている物質と水による消火の適否についての情報が事業所から消防隊に伝えられた。
平成8年7月にこの施設は廃止された。
よもやま話 ☆ 従業員は異常反応に気付いた時に、冷却等マニュアルに基づいた操作を行ったが、回避できなかったとの報告がある。異常条件の設定が十分でなかった可能性がある。設計時の反応解析だけでなく、運転異常の条件についてHAZOP等の手法により解析しておくことの重要さを感じる。
データベース登録の
動機
真空作業中にバルブを全閉としなかったために水封が破れ事故になった例
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、勉学不足、価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不良、不注意、注意・用心不足、作業者不注意、計画・設計、計画不良、設計不良、定常操作、誤操作、バルブ閉を確認せず、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、負傷、2名負傷
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例-平成8年(1997)、p.428-429
死者数 0
負傷者数 2
物的被害 第6工場プラント東側及び3、4階全壊.爆発の飛散物が半径350mの範囲内に飛散、付近のアパートや事務所のガラスなどが破損.
被害金額 29万円(消防庁による)
社会への影響 「空がオレンジ色に染まっている」などの119番通報殺到.
マルチメディアファイル 図3.化学式
図4.化学式
図5.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)