失敗事例

事例名称 アクロレイン製造プラントの反応器の腐食により熱媒と原料が接触し異常反応による漏洩、火災
代表図
事例発生日付 1998年12月23日
事例発生地 愛媛県 新居浜市
事例発生場所 化学工場
事例概要 メチオニン・アクロレイン合成装置のトラブルの影響で山林火災があった。熱交換器型反応器の胴側流体である冷媒の硝酸塩の流量を設計値の半分以下に落とした。硝酸塩冷媒が偏流して、部分的に高温箇所を生じた。そのため熱交換器中心部の鋼製の伝熱管が腐食開孔した。冷媒の硝酸塩とアクロレインが混触反応を起こし、破裂板から高温物質が噴出して山林火災となった。なお、冷媒とはいえ硝酸塩の温度は500℃を超えたと推定する。
事象 メチオニン・アクロレインの合成の熱交換器型反応器を定常運転中、熱交換器の伝熱管が開孔した。冷媒(硝酸塩)が洩れ、とアクロレインが接触して異常反応を生じ、破裂板が作動してその通気管から高温物質が噴き出し、工場に隣接した山林が火災となった。
プロセス 製造
単位工程 反応
反応 酸化
化学反応式 図2.化学反応式
物質 アクロレイン(acrolein)、図3
硝酸塩類(nitrates)
事故の種類 漏洩、火災
経過 1998年2月 冷媒の目視点検をしやすくするため、冷媒の流量を100%から55%に減らした。
12月23日 00:19 反応器内の反応管に穴があき、反応器の入口の圧力が低下した。
00:22 冷媒硝酸塩のタンクから煙がでた。
00:26 反応管内の温度上昇により警報が発報され、インターロックを作動させた。
00:27 反応器の破裂板が作動し、内容物の一部が通気管から噴出した。
00:29 反応器が破裂し工場内で火災が発生した。
 通気管から高温物質が噴出し、山林火災が発生した。
00:35 自衛消防と共同消防計6台30人が出動した。工場内の火災を消火設備により初期消火した。山林火災を認めた。
00:43 消防に通報した。26台126人が出動し、架構に散水を実施した。
01:50 工場内火災の鎮火を確認した。
04:20 山林火災を鎮圧した。
原因 1.冷媒(熱交換器型反応器の胴側)の流量を設計値のほぼ半分としたため、反応器内除熱に偏差が生じ、冷媒が高温となる中心部で腐食が進んだ。
2.腐食により破損した箇所から冷媒が漏れ、アクロレインと接触し異常反応を起こした。
対処 1.消火設備により初期消火をした。
2.架講に散水した。
3.下草、枯れ草、伐採木に放水した。
対策 1.プロセスの安全対策を行う。
2.反応器内の温度測定点の増設する。
3.プラント周囲の雑木を伐採し、山林火災を防止する。
4.安全運転マニュアルの再教育を行う。
5.管理体制の充実強化を図る。
知識化 1.過酷な温度環境下では腐食が促進される。
2.熱交換器は処理量増加の時は能力、振動など十分に検討されるが、処理量低下時も過剰な能力や流量が低下しすぎての偏流等があり、増加時と同様に慎重な検討が必要である。
3.破裂板、安全弁などの放出先は必ず安全な場所に導かなければ、そこで事故を起こすことがある。
背景 熱交換器で胴側の流量を落としすぎて偏流を起こし予想外の高温部を生じ腐食が進行した。検討時点では未知な領域かも知れないが、冷媒の硝酸塩の腐食傾向からもっと慎重に影響を見定めながら、運転条件の変更を行うべきだった。社内の検討では予測出来なかった。因みに冷媒硝酸塩の腐食は500℃を越えると大きく加速され、年間2mmを越える。
後日談 山林が急傾斜であり山道もなかったので、消火活動に手間取った。
よもやま話 ☆ 処理量を増加させるときは慎重に検討されるが、減少させる時はおざなりなことが多い。大は小を兼ねない設備があることを考えておくべきである。
データベース登録の
動機
設計値より大幅に流量を落として、偏流させた熱交換器の腐食の例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、事前検討不足、腐食・流動、無知、知識不足、勉学不足、酸化反応、計画・設計、計画不良、操業計画不良、非定常行為、変更、流量変更、不良現象、熱流体現象、温度上昇、破損、減肉、腐食、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、損害額1.6億円
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例‐平成10年(1999)、p.418-420
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧‐平成11年版‐(2000)、p.149
産業安全研究所資料(非公開)
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 アクロレインプラント2階約36平方m焼損.
被害金額 1億6,000万円(消防庁による)
社会への影響 プラント北西に位置する山林約1000平方m焼損.
マルチメディアファイル 図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)