事例名称 |
高温ポンプ補修後のスタートアップ中のメカニカルシールフラッシュ液クーラーの破裂 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1997年11月11日 |
事例発生地 |
大阪府 堺市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
高温のポンプのメカニカルシールフラッシュ線クーラーの破裂である。通常は冷却媒体としてスチームを使用する。補修中に生成したスチームの凝縮水が使用開始で再び蒸発し、バルブを閉められたため高圧になり破裂した。スチームの発生が予測されるので、いずれかのバルブを開けておかねばならなかった。バルブの閉止の指示が不明確だった。 |
事象 |
製油所の減圧蒸留装置の減圧蒸留塔塔底付近で破裂があった。減圧蒸留塔塔底油ポンプの補修後のスタートアップ中に、フラッシングオイルクーラータンク内に溜まったドレン水が加熱蒸発し、発生したスチームによりタンク内圧力が上昇し,破裂した。 フラッシングオイルクーラー: スタート時のフラッシングオイルを冷却するためのクーラーのこと。この装置では、ポンプのメカニカルシールの焼き付き防止用に外部より流す冷却用の油をフラッシングオイルと言っている。通常は同塔の留出油の減圧軽油をフラッシングオイルとして使い、スタート時のみ、塔底油を使用する。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
蒸留・蒸発 |
物質 |
水(water)、図2 |
重油(fuel oil) |
事故の種類 |
破裂 |
経過 |
1997年11月11日14:00頃 塔底油ポンプの軸封部からオイル漏れが発生し、予備のポンプに運転を切り替えた。この時、フラッシングオイルクーラー内の塔底油が固まらないように、スチームを流し続けた。 20:10頃 補修作業を終え、主ポンプと予備ポンプを併用運転しながら徐々に主ポンプの単独運転に切り替え、ポンプの運転が通常時に近づいた。 ポンプが停止している間、フラッシングオイルクーラータンク内では加熱用に吹き込んでいたスチームが凝縮して溜まっていた。 温度上昇に伴いクーラータンク内のドレン水の蒸発によるスチーム発生量が増加し、吹き出し量も増加したため、運転責任者が入口側の仕切弁を閉めるつもりでバルブの閉止を指示したが、運転員はスチーム出口側のバルブを約1/4回転閉めた。 20:15頃 オイルタンク内のドレン水がコイル内の油により加熱されてスチームとなり、タンク内圧が上昇、タンクの溶接部が破断した。 タンク本体、高温の油、配管などが飛散した。 |
原因 |
1.補修作業中に重質重油が固化しないようにスチームを送っていたためクーラータンク内にドレン水が溜まっており、そのドレン水が加熱されて再びスチームとなった。フラッシングオイルの入口温度が325℃と高いため、再発生したスチームの圧力が通常受け入れているスチームの供給側圧力0.95MPaGより高くなる能力があり、出口弁を絞ったため、タンク内圧力がタンク強度を上回り破裂した。タンクの耐圧は1.1MPaGであった。スチームは、フラッシングオイルの冷却のために受け入れていたので、スチームの圧力は0.95MPaGより上がらないはずだが、入口バルブが微開のためタンク内圧が上がったと推定する。ある資料では、水蒸気爆発があったとしてある。フラッシュオイルの入口温度が325℃と高いため、急激なスチーム発生があったのだろう。 2.仕切弁の開閉の指示が不明確であったため、スチームの入口弁を閉止するところを、出口弁を絞るという誤操作が原因であることは間違いないようだ。 |
対処 |
装置の緊急停止および脱圧を行い、自衛消防隊などで放水活動を行った。公設消防が出動した。 |
対策 |
1.タンク内圧が大気圧を超える場合には安全弁などの安全装置を設置する。 2.タンク内温度、圧力を監視し、異状を検知した場合に緊急停止を可能とする。 3.バルブの誤操作防止措置、非定常作業の手順の説明、バルブ操作などの明確な指示。 |
知識化 |
1.不明確な指示は事故を招く。 2.運転員自身が考えることも必要ではないか。 |
背景 |
バルブ操作に関する指示の不明解さと実行者の誤判断が原因と推定する。いずれもヒューマンエラーであろう。クーラータンクの仕様変更の際に安全性の検討が不足していた。なお、タンクのドレン弁は閉まったままだった。これではタンクに溜まったドレン水を抜き出しようがなく、そのためスチームが発生している。高温のオイルを流す前に、なぜドレン水の溜まりをチェックしていないか。高温の油を流せば、スチームの発生は自明の理であろう。発災に至ったバルブ操作より、事前準備が不足していたことが、本当は問題かと思う。 |
よもやま話 |
☆ 事象欄では、ある情報源資料に記載された内容から記した。スペアのあるポンプ1基の停止では装置は停止しない。ではなぜフラッシングオイルに通常使う留出油の減圧軽油ではなく、スタート時専用の塔底油を使ったか。見た範囲の資料では記載がなく、不明である。いずれにせよ理解に苦しむ事故である。 ☆ 当該タンクの通常の使用法では、タンク内圧は受入スチームの圧力を超えることはない。したがって、受入スチームの圧力が上昇しない保証があれば圧力安全弁を設置する必要は本来ないが、運転法を間違えたため、よけいな負担をすることになっている。 ☆ 対策に記入したのはある情報源資料に書かれていたことの要旨である。考えるに、発災したタンクはタンクとは名ばかりで、通常の使用時はスチームが通過して温度が少し上がるだけの配管の感じで管理していたのではないだろうか。本来持っている危険性を管理者やエンジニアが正しく理解し運転員に伝えることが必要と感じる。 |
データベース登録の 動機 |
指示系統の失敗が事故につながった例 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、注意・用心不足、作業者不注意、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、定常操作、誤操作、不操作、不良現象、化学現象、蒸発、破損、大規模破損、破裂、身体的被害、負傷、3名負傷
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情報源 |
中央労働災害防止協会、災害発生状況の詳細
消防庁、危険物に係る事故事例‐平成9年(1998)、p.526-527
中央労働災害防止協会安全衛生情報センター、労働災害事例 No.100216、中央労働災害防止協会ホームページ
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
3 |
物的被害 |
フラッシングオイルクーラー1基及び周辺の非危険物配管破損 |
被害金額 |
1万円未満(消防庁による) |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
和田 有司 (独立行政法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 開発安全工学研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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