事例名称 |
LPGタンクのドレン弁が低温のため閉止できずにLPGが漏洩して爆発した大事故 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1966年01月04日 |
事例発生地 |
France Feyzin |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
フランス南部リヨンの郊外にある石油精製工場のLPGタンクのドレン切り作業中にドレンバルブが凍結して、LPGが大量漏洩した。漏れたLPGの一部は蒸発・拡散し、50~60m離れた構外の道路に拡がった。通行規制が間に合わなかった県道を通行中の乗用車のエンジンにより、引火・火災になった。発災タンクがBLEVE現象で破裂・爆発を起こし、周辺のLPGタンク4基を破壊し、さらに原油やジェット燃料などの常圧タンクを燃焼させ、製油工場は壊滅的な打撃を受けた。 原因はドレンバルブの不適切な操作と考えられる小さなヒューマンエラーであるが、当時の設備の不十分さが拡大要因となって巨大な災害になった。 現在のLPGタンクの規制の原点とも考えられる重要事故である。 |
事象 |
LPG(プロパンと思われる)タンクのドレン切り作業中、凍結によりバルブが閉止できずLPGが大量に漏洩した。拡散したLPG蒸気が拡散し、通行中の自動車により着火・爆発した。発災タンク他多くのタンクが焼損し、製油所はほぼ壊滅的な被害を受けた。 ドレン切り作業;タンクなどの容器や配管の底部に貯蔵あるいは通過する物質中の重質分が分離して、溜まることがある。この溜まった重質留分を取り出す作業を言う。この事象だけでなく、LPGや軽質の炭化水素などでのドレンは凝縮水・同伴水であることが多く、凍結が起こりやすい作業である。 LPG:Liquified Petroleum Gasの略で、液化石油ガスの意味である。具体的な化学物質としてはプロパン、ブタンのパラフィン系炭化水素が主体であるが、プロピレンやブテンのようなオレフィンを含むことがある。LPガスとも呼ばれる。 |
プロセス |
貯蔵 |
単位工程 |
その他 |
物質 |
プロパン(propane)、図2 |
事故の種類 |
漏洩、爆発 |
経過 |
1966年1月4日06:30 タンクの水切り作業を開始した。 06:45 作業終了し、バルブの閉止を試みるが止まらなかった。 07:05頃 製油所内にアラームが鳴った。多分ガス漏洩検知器であろう。 同じ頃 製油所外の自動車専用道路の交通制限を開始した。県道は制限されなかった。 07:30 県道に乗用車がさしかかり、爆発。ほぼ同時に発災タンクは火で覆われた。 08:45 隣接するタンク2基が爆発、さらに2基の球形タンクと石油タンクが火災になった。 翌日朝に鎮火した。 |
原因 |
1.漏洩原因は、タンクの水切り作業時にLPGがフラッシュによる蒸発で低温になり、そのため水分が凍り付いたため、球形タンク底部にあるドレンバルブが閉まらなかったことによると推定される。 2.着火原因は県道を走っていた自動車のエンジンの火と見られる。 3.LPGタンクの爆発は後にBLEVEと呼ばれるようになった現象で、タンク上部の鉄板の一部が炎に曝されて高温になり、その部分で強度が不足し破裂した。その噴出した蒸気が周辺の火炎から着火し爆発した。 |
対処 |
漏洩時のガス検出器によると思われる警報により、社有消防車の出動と自動車専用道路の交通規制を行った。 |
対策 |
1.バルブ凍結防止については、バルブのニ重化とその間隔の適正化、さらに適切なバルブ使用法の教育・訓練の徹底を行う。 2.LPGタンク関係の設備対策 2-1 防液堤の設置、漏れたLPGの拡散の防止 2-2 タンク上部からの散水冷却設備 タンク外壁面に沿って水を流すことによる火災時のタンク壁面の過熱防止 2-3 タンク支柱の耐火構造 2-4タンク間距離の確保など 3.タンク設置位置 特に道路や人が集まる公共施設との距離の確保 |
知識化 |
1.LPGは火災で危険とされる軽質炭化水素の中でも、最も危険なものである。簡単に低温になること、蒸気の密度が空気より重いので地表に沿って拡散すること、無色・無臭のため覚知しにくいことなどがその原因である。 2.危険な物質を貯蔵するには、十分な設備が必要であり、安全確保には隔離距離を十分に確保することが最重要である。 |
背景 |
1.漏洩の原因はバルブ操作の誤りである。ドレンバルブは直列で2個配置されていた。LPGをフラッシュさせれば、蒸発熱で低温となり水分の凝縮や水和物の生成がある。そのためにバルブが閉止できず、後刻それらが溶解してタンクからLPGが漏洩することがある。そのためバルブを二重化し、1次側(上流側)バルブは全開にし、2次側(下流側)バルブの開度を調節する。この操作で1次側バルブではフラッシュ蒸発が起こらないので、温度低下がなく凍結することはない。両方のバルブが低温状態になったと考えられる。あるいは両バルブを隣接して配置したため、2次側バルブの低温が1次側に伝播したことも考えられる。 2.構外の道路の通行遮断が間に合わなかった。これはLPGタンクの設置場所が公道から50~60mほどしか取っていなかった工場のレイアウトの問題と地域自治体あるいは住民との広報の問題もある。 3.爆発原因はBLEVE現象である。LPGが存在するタンク下部ではLPGの蒸発熱により吸熱が起こるので、温度は上昇しない。タンク上部の内部にLPGがないところでは、火災時に火炎に曝されて非常に高温になる。このためタンクの構造材の鉄板の強度が極端に低下して、内圧に耐えられずに破裂した。さらに拡大したのはタンク間距離の不十分なことなどが考えられる。 4.他タンクへの拡大 タンクの支柱が鉄製で耐火被覆がなかったため、熱で強度が落ち、タンクが崩落した。隣接タンクとの距離が短かった。 以上は現在の知識から考えられる主要な原因であり、当時一般的に理解されていたかはよく分からない。少なくともBLEVE現象はこの大事故から学ばれた概念である。 |
後日談 |
日本のLPGタンク規制は、ほぼこのフェザン事故の拡大原因をなくす方向で行われている。 |
よもやま話 |
1.LPGの巨大事故はこの後も何件かあるが、管理の杜撰さから起こっている例が多いようだ。日本でも、非常に危険な要素をもっているLPGは一般家庭でも大量に使われている。幸い大きな事故は起こってないようだが、これからも安全確保のためのPRが必要であろう。 2.この事故に関し数多くの報告、解説がある。事故の発端が、”LPGタンクの底部にあるバルブを開けて作業していたら、漏洩した”はどれも共通であるが、プロパンとブタン、水分の氷結かハイドレート生成と説が異なっている。また被害者数も資料によって違っている。 |
データベース登録の 動機 |
LPG事故の危険性を表した事故例で、現在の日本国内のLPGタンクの規制の原点とも考えられる重大事故 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、安全教育不足、不注意、理解不足、リスク認識不足、調査・検討の不足、事前検討不足、危険性に応じた設計ではない、計画・設計、計画不良、安全対策不足、定常動作、不注意動作、バルブ操作不良、不良現象、化学現象、凍結、二次災害、損壊、漏洩、爆発、破損、大規模破損、タンク多数損壊、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失、製油所破滅的被害
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情報源 |
Frank P.Lees、Loss Prevention in the Process Industries、PAGE890,898-899(1980)
北川徹三、試料採取弁の閉止不能によるLPガスの漏洩、爆発災害の解析、PAGE161-164(1980)
東京海上火災保険株式会社・三浦徹、LPG圧力貯蔵タンク事故に学ぶ、高圧ガス、No.237、PAGE29‐33(1990)
化学工業協会、事故災害事例 LPG球形タンク、事故災害事例と対策 化学プラントの安全対策技術4、PAGE230-231(1979)
建設省都市局・日本都市センター、資料1.コンビナート災害事例、京浜臨海部防災遮断帯整備基本調査及び京浜臨海部防災遮断帯防災効果調査報告書、PAGE158-160(1973)
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死者数 |
18 |
負傷者数 |
81 |
物的被害 |
球形タンク1基爆発、周囲の球形タンクに燃え移り5基破裂。原油やジェット燃料などの常圧タンク多数被災し、製油所は壊滅的な被害を受けた。 |
被害金額 |
1,810万ドル(東京海上火災保険による)(1990年換算7,000万ドル) |
社会への影響 |
ハイウエーや県道にLPガス拡散 |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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図3.タンク周辺図
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図4.BLEVE説明図
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備考 |
WLP関連教材 ・化学プラントユニットプロセスの安全/貯蔵 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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