事例名称 |
軽油中圧水素化分解装置における反応器出口の特殊な形状のフランジ部よりの漏洩物の火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2002年10月27日 |
事例発生地 |
千葉県 市原市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
製油所で軽油の中圧水素化分解装置の運転条件を変更し、反応器の運転温度を下げた後に、反応器出口のスペーサー付きフランジから内部流体が漏洩し火災になった。周辺の配管を破損して大きな火事になった。温度降下時にスペーサーは収縮し、ボルトが収縮しないで、フランジの締め付け力が落ちたことが直接原因である。フランジの平行度が十分でなかったこと、スペーサーの使用そのものが、真の原因と考えられる。 |
事象 |
製油所で、重質軽油と減圧重質軽油を脱硫、分解する中圧水素化分解装置で平常運転中、突如反応器出口にある特殊形状のフランジ部より高温高圧の内部流体が漏洩し、火災になった。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
反応 |
水素化脱硫 |
物質 |
水素(hydrogen)、図2 |
軽油(gas_oil) |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
2002年10月27日 通油量を下げ、反応器運転温度を370℃から320℃に下げた。 22:30頃 反応器出口のスペーサーフランジ部から漏洩、発火した。(実際は少量の漏洩から小火災を発生し、その火炎により、フランジボルトが熱膨張し、さらに漏洩量が増加した。さらに架台上の水素配管、蒸気配管、燃料油配管を順次破損し、燃料油の吹き出しで火災が拡大した。) 10月28日05:03 鎮火を確認した。 (装置の歴史) 1962年 重油間接脱硫装置として建設し、運転を開始した。 1983年 反応器を増設し、重質軽油類の水素化脱硫・分解装置に改造した。 2002年10月27日 発災した。 |
原因 |
事故前日の温度降下により、スペーサー付きフランジのスペーサーは、温度降下分収縮したが、ボルトは温度降下分だけ収縮しなかったので、スペーサー両端のガスケットへの締め付け力が不足し、漏洩した。着火源の記載はないが、噴出時の静電気か自らの温度であろう。 スペーサー付きフランジ: フランジの間に、円環状の配管部品を差し込んで、フランジの面間を大きくした特殊なフランジのこと。スペーサーの両端にガスケットを入れ、ガスケット2枚とスペーサーを一緒に締め付ける。締め付けも難しくなるが、スペーサー内面は流体に直接接触しているので、プロセス温度に近くなるが、ボルトはスペーサーの外面から離れて締め付けるため、プロセス温度の変化に対して、温度の追随は鈍くなっている。その上通常のボルトより長いボルトを使用することになるので、温度変化に対しては厳重な注意が必要になる。 |
対処 |
1.発災装置の緊急停止を行い、各機器の脱圧と窒素置換を行った。 2.製油所内の他装置を停止した。 3.自衛消防隊の活動があった。公設消防が出動した。 4.従業員30人は爆発にも耐えうる構造の計器室内に避難した。 |
対策 |
設備対策: 1.不要なスペーサーやフランジの撤去 2.フランジ面の傾きの修正 3.ボルトの材質変更 4.大幅な運転条件変更となる操作の洗い出しと点検内容の強化 設備信頼性向上と運転員教育: 1.経年劣化に対する組織横断的で体系的な設備管理 2.外部情報の活用 3.リスク管理、変更管理の徹底と強化 |
知識化 |
1.長期運転後の装置では、思いがけないところに経年劣化が起こっている可能性がある。たかが配管と思わずに、形状変化などを注意すべきである。 2.スペーサー付きフランジは、長いボルトで同時に3つの部品を組み付ける。締め付け管理も大切だが、通常のフランジより、温度変化への追随性が少ないことを考えるべきである。 |
背景 |
1.2001年の定期整備時にすでに上下フランジに傾きを生じていたと考えられる。事故後にスペーサーを外すと8mmのフランジ間隙間差があり、これは配管の歪みにより生じていた。要するに平行であるべきフランジ面が既に平行でなかった。これをボルトで強引に締め付けていた。そのため温度降下したときに出た締め付け力のアンバランスがより強く出た。 2.なぜ、スペーサー付きフランジを、しかも、8cmと長いスペーサーを使用したか?発災社の報告では、運転と保全の必要上使用とあるが、具体的には、反応器を開放する場合の配管取り外し上の理由ではないかと推定される。それならば、フランジ箇所が1箇所増えるが、短管を挿入すれば良いのではないかと思う。技術的理由より、コスト面からの理由ではないかと推測する。 上記の様に考えると、長年月を経過したプラントの管理の問題と、設計時の考え方の2点が基本要因であると推測する。 |
よもやま話 |
☆ 筆者が新入社員の頃のことであるが、配管からくる歪みで面の合わないフランジを、チェーンブロック等で強引に引っ張り、無理にボルトで止めていることがあった。もしこの様な作業が今でも行われているなら、この事故と同じような事故、あるいは関連したフランジの許容強度不足などが起こるのではないか。現実はどうだろうか? |
データベース登録の 動機 |
スペーサーを有する特殊な構造のフランジからの火災例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、不注意、注意・用心不足、取扱い不適、調査・検討の不足、事前検討不足、スペーサー付きフランジへの配慮、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、フランジのゆがみ、機能不全、ハード不良、延びの不均一、二次災害、損壊、漏洩・火災、組織の損失、経済的損失、直接被害額8,600万円
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情報源 |
産業と保安、Vol.19(No.36)、p.12-13(2003)
産業と保安、Vol.18(No.43)、p.2-3(2002)
消防庁、平成14年中の危険物に係る事故の概要(2003)、p.26
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
水素配管、高圧蒸気配管、燃料油配管破裂。 |
被害金額 |
8,600万円(消防庁による) |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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