失敗事例

事例名称 製鉄所のガスホルダーの爆発・火災
代表図
事例発生日付 2003年09月03日
事例発生地 愛知県 東海市
事例発生場所 製鉄所
事例概要 製鉄所で臨時に使用していた乾式のコークス炉ガス(COG)ホルダーで突如爆発・炎上を起こした。さらに9日後、被害を受けた別のCOGホルダーの外壁を切り取り中に内蓋のゴムに着火し、さらにシール用グリースが着火して火災になった。原因や対策の記述は殆ど見あたらない。
事象 製鉄所の10万立方mの乾式コークス炉ガス(COG)ホルダーの工事のため、別の乾式の4万立方mのホルダーを使用していた。その4万立方mのホルダーがタンク側壁外部で燃焼後爆発した。その後ホルダー内部のピストン部分の潤滑剤であるグリースに着火炎上した。この爆発により、10万立方mのCOGホルダー、10万立方mの高炉ガス(BFG)ホルダーと工場建物を破損させた。この事故の爆風で15名が負傷した。さらに9日後には事故当時点検中だった10万立方mのCOGホルダーの側板を切り取る工事中に火災が起こった。
プロセス 貯蔵(ガス・液化ガス)
物質 コークス炉ガス(coke_oven_gas)
潤滑油(lubricating_oil)
事故の種類 爆発・火災
経過 2003年8月30日~9月11日 10万立方mCOGホルダー工事につき、4万立方mのCOGホルダーの使用を開始した。
9月3日19:42頃 4万立方mCOGホルダーが爆発、炎上した。
9月4日03:26 鎮火した。
9月12日10:50頃 10万立方mCOGホルダーで火災が起こった。
     12:40 鎮火した。
原因 1.最初の爆発は”ガスホルダー内で一酸化炭素と酸素が反応して爆発炎上”と消防庁の9月4日09:15付けのホームページに記載されている。
2.2回目の火災は、側板切り取り中に溶断の火花でタンク内側をシールするゴムに着火し、グリースが燃えたことによる。
対処 公設消防の出動、自衛消防隊は冷却散水を行った。
対策 入手した報告書に記述がなく、再発防止対策は不明である。2回目の事故では発注者側が工事対象物件の構造・状況を正確に把握し、元請け業者に対して火気使用上の注意を喚起する必要があったのではないかと思われる。
その後の情報に因ればガスホールダー内部と外観を監視するモニターが設置されたとのことである。
知識化 なぜ2回目の火災が起こったか、最初の大きな事故にばかり注意を向けずに、後始末で失敗を繰り返さない注意が必要である。なお2005年に発行された重大事故の舞台裏(日経BP社)によれば1回目の事故原因はタンク内部材の腐食により、内部構造物が落下し、タンク外壁が開口したものとされている。
【追補;2010年3月】
・法律の整備充実を行い、就中、爆発性ガスを扱っている設備・装置についての整備と充実が望まれる。
背景 最初の爆発に関しては資料が少なく推定も不可能である。2回目の火災は内蓋のゴムやグリースに対しての発注者からの注意喚起がなかったか、あるいは構造的に燃えるものがないと発注者が考えていたので火災を起こしたのかもしれない。安全意識の欠如があった可能性がある。
後日談 【追補;2010年3月】
消防庁特殊災害室の調査によれば、人的被害15名負傷、そのうち1名重症、14名軽症(全て事業所職員)ということであった。
よもやま話 【追補;2010年3月】
・一酸化炭素は、空気中爆発限界が12.5%から74%に及び、上限は水素と同様の危険な気体である(水素の空気中爆発限界は、4.0%から75%)。身近にあるガスなので中毒には大いに配慮されているが、爆発事故には、案外無頓着な場合がある。この事故の場合にも、アセチレン、ベンゼンを扱っている化学プラント並の点検、操作マニュアルがあれば、この様な大きな事故は起こらなかったであろう。
・企業には、自社の不都合が隠蔽される風土があり、事故連絡に関するマニュアル、法的な整備も充実させていくべきである。
データベース登録の
動機
2003年に頻発した大型事故の一例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、不注意、注意・用心不足、企画者不注意、使用、輸送・貯蔵、貯蔵、非定常行為、変更、使用タンクの変更、二次災害、損壊、火災、身体的被害、負傷、15名負傷、組織の損失、経済的損失、復旧費だけで15億円、社会の被害、社会機能不全、産業界の需給バランス、社会の被害、人の意識変化、企業、行政への不信
情報源 危険物等事故防止技術センター、Safety & Tomorrow、No.92、p.17-27(2003)
2003年8月・9月に起きた大規模火災、火災、No.266、p.5-7(2003)
N社N製鐵所火災、消防庁ホームページ(2003)
死者数 0
負傷者数 15
物的被害 コークス炉ガス(COG)ホルダー屋根全損。高炉ガス(BFG)ホルダー屋根3分の1破損。COGホルダー一部損傷。工場建屋ガラス1000枚破損、壁・トタン破損。
工場敷地外で、住宅等38件の窓ガラス破損・ドア変形(3km以内)、住宅等8件の窓ガラス破損(3km超)(9月9日17:00現在・消防庁による)
被害金額 2003年9月5日、N社N製鉄所は、爆発事故で損傷したガスタンク3基の新設費用が約15億円となる見通しを発表。
社会への影響 20:35、県警捜査一課と東海署は有毒ガスの拡散と再爆発の恐れがあるとみて、構内にいた従業員約600人を敷地外へ避難させ、タンクから半径1km以内を立ち入り禁止にした。
マルチメディアファイル 図2.タンク構造図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)