失敗事例

事例名称 大地震により原油の浮き屋根タンクのリング火災2日後、他の浮き屋根タンクで日本初の全面火災発生
代表図
事例発生日付 2003年09月26日
事例発生地 北海道 苫小牧市
事例発生場所 製油所
事例概要 震度6弱の地震により、容量33,000klの原油浮き屋根タンクが、スロッシングにより漏洩した油でリング火災を起こした。さらに2日後、地震により浮き屋根が沈下し、浮き屋根上にナフサが全面滞留したナフサタンクが、ナフサ表面を泡で覆う準備をしている間に全面火災を起こした。これらのタンクを含め、大きな漏洩を起こしたタンクは旧法タンクであり、新法タンクではぬぐい去れる程度の漏れしか起こしていない。
事象 マグニチュード8で、震度6弱の地震に襲われた製油所で、浮き屋根式の33,000klの原油タンクおよび付属配管で火災が起こった。この火災は約7時間で鎮火した。その2日後、地震で損傷を受けた浮き屋根式33,000klのナフサの貯蔵タンクで火災が起こった。この火災は地震で浮き屋根が沈み、ナフサが浮き屋根上全面に滞留したものに引火し、日本で初めての地震によるタンク全面火災となった。消火まで44時間を要し、泡消火剤も不足し、日本全国から集められた。
プロセス 貯蔵(液体)
物質 ナフサ(naphtha)
原油(crude oil)
事故の種類 火災
経過 2003年9月26日04:50頃 地震発生、ほぼ同時に最初の火災が発生した。
12:09 鎮火した。2回目の火災を起こしたタンクは浮き屋根が沈下して、屋根上にナフサが滞留した。そのナフサの蒸発防止のために、消火泡によるシール作業を準備していた。
9月28日10:49頃 ナフサタンクで滞留したナフサに引火した。
11:07 タンク内のナフサの他タンクへの移送を開始した。以後断続的に移送を行う。
11:41 固定泡消火設備により泡放射を開始した。
12:15 大型高所放水車4台による一斉泡放射を開始した。以後放水車、泡放射砲による泡放射、冷却放水など懸命な消火作業が行われた。
9月30日03:50頃 火勢が納まり、ほぼ炎が見えなくなった。
06:55 鎮火を確認した。
原因 直接原因の記述は見あたらない。最初の火災は地震によるスロッシングに起因する衝撃、摩擦等による火花ではないかと推定されている。2回目の引火原因も不明である。
対処 発災社の応急措置は記述がない。装置の停止は行ったが大きな地震に対する一般的な措置である。公設消防による消火活動に、自衛消防隊なども参加した。
対策 公的には、タンクの構造他について全面的な再検討がなされている。直ぐに取りうる手段としては、旧法タンクの新法タンクへの改造、貯蔵量を下げる等の手段があるが、現実には難しい。
知識化 安全上の規則が変わって、構造の変更を求められている場合は、可能な限り早く改造すべきであろう。特に日本全国どこでも、いつでも大地震に襲われても不思議はないのだから。
背景 1.浮き屋根式タンクの弱点が露呈したものと推測する。地震の震動で、浮き屋根が揺動(スロッシング)し、そこから原油が漏れたのが原因であろう。2回目の火災では浮き屋根が沈下している。これも地震動による影響であろう。また、タンク壁を拘束するものが底板しかない。固定屋根タンクでは、屋根がタンク壁を拘束している。この点も何らかの原因になっている可能性がある。
2.長周期の地震動により想定以上にスロッシングの揺れが大きいとの指摘もある。
3.同地区には同製油所以外にも多数の浮き屋根式タンクがある。いわゆる新法タンクでは、浮き屋根上への僅かな洩れ以外の被害は出ていない。漏れの大きい被害のあったタンクは全て旧法タンクであることも指摘されている。
後日談 従来の消防法では、リング火災(スロッシングによる漏れも小さく、リング状に燃える火災。)の想定であったが、浮き屋根が沈下しての全面火災は想定外であって、関係者は大きな衝撃を受けた。これを受けて、消防防災対策が検討されている。
よもやま話 ☆ 大量の泡消火剤が必要となり、北海道だけでは不足し日本全国から集められた。不足した理由の一つに、大型タンク上面を消火泡で覆う作業の困難性がある。風や火炎で泡が巻き上げられて、なかなか有効に覆うことができない。泡の散布方法も要検討事項であろう。
☆ 発災時に、原因も分からないうちに、社長が「天災だ。」と言ったのを、技術担当常務取締役が「我々技術陣は天災と考えていない。」と反論している。
データベース登録の
動機
地震によるスロッシング被害と新規制への改造の必要性
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、組織文化不良、都合の悪いことに誠意ある対応ではない、未知、異常事象発生、スロッシングでの浮き屋根沈下は想定外、誤判断、状況に対する誤判断、使用、輸送・貯蔵、貯蔵、非定常行為、非常時行為、想定外事象への対応、破損、破壊・損傷、浮き屋根の沈下、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、復旧費等で100億円、組織の損失、社会的損失、信用失墜
情報源 危険物等事故防止技術センター、Safety & Tomorrow、No.92(2003)、p.17-27
北海道庁、平成15年(2003年)十勝沖地震対策・被害状況 I石油H製油所災害予防対策現地本部設置後の対応状況、北海道庁ホームページ、(2003)
森田武、近代消防、No.511(2003)、p.23-25
産業と保安、Vol.19(No.41)(2003)、p.9-12
火災、No.266(2003)、p.5-7
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 原油貯蔵タンク及び配管焼損。ナフサ貯蔵タンク1基全壊。
被害金額 10月8日まで、太平洋フェリー(名古屋)、川崎近海汽船(東京)、商船三井フェリー(同)、東日本フェリー(札幌)の定期フェリー4社は、I社に対し、苫小牧西港が2度目の火災で43時間閉鎖され約20便のフェリーが欠航などしたことによる損害賠償請求する意向を伝えた。総額は1~2億円の見込み。
I石油H製油所の火災事故による損害額がタンク復旧などで約100億円に上る(11月19日、新聞報道による)
社会への影響 苫小牧市周辺に油の臭いや、すす、消火剤の泡が飛散。多数の住民や小中学生などが体調不良を訴えた。
9月29日22:30から2時間、火災現場から約3km離れた3カ所でベンゼン、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒドの大気中濃度を測定した結果、ベンゼンの値が一時、1立方mあたり最大8.2マイクログラムと環境基準の3マイクログラムを上回った。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)