事例名称 |
広島新交通システムの橋桁落下 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1991年03月14日 |
事例発生地 |
広島県広島市 |
事例発生場所 |
広島市高架式軌道「新交通システム」工事現場 |
事例概要 |
広島市の「新交通システム」工事現場において、横取り降下工法で箱型橋桁を降下作業を行っていたが、主桁を支えていたジャッキと受台がはじき飛ばされたため、桁が県道に落下し、その結果、信号待ちしていた車両11両を押しつぶし、23人の死傷者を出した。 |
事象 |
平成3年3月14日14:05頃に、広島市高架式軌道「新交通システム」工事現場において、長さ63.4m、重さ60トンの鋼製箱桁が、10m下の県道に落下して、民間人10人を含む15人が死亡し、8人が重軽傷を負う大惨事となった。 |
経過 |
・ジャッキ受台は、H型鋼を3段同じ方向(通常は井桁状)に積み重ねた。また、H鋼には補剛材がついていなかった。 ・補強されていない部分が直接ジャッキを受けたため、桁が変形した。 ・主桁を支えていた3台のジャッキのうち2台のいずれかで支点反力が変化し、その瞬時、いずれかで耐荷力を超えた。 ・残りの1台も反力を支えきれなくなり、2台のジャッキの受台がほぼ同時に倒壊した。 ・橋桁は橋軸回りに半回転しながら、県道に落下し、信号待ちしていた11台の車両を押しつぶした。 |
原因 |
・ジャッキの仮受台に、H型鋼を3段同じ方向に積み重ねて使用した。(致命的原因) ・集中荷重が作用する部材箇所に、剪断補強リブを配置していなかった。剪断補強リブを配置していない箇所に、ジャッキをあてがった。 ・横取り時は、桁の転落防止用のワイヤを設置していたが、降下作業時はこの対策を取っていなかった。 ・元請会社の施工管理体制の問題が根本要因であった。 |
対策 |
・荷重支持部材として、H型鋼を同じ方向に積み重ねない。 ・集中荷重が作用する部材箇所には、剪断補強リブを配置する。 ・転落防止用のワイヤを取り付ける。 |
知識化 |
・H型鋼は同じ方向に、「絶対に!」積み重ねるな!!! ・!!!しかし、再び、同じ失敗をする可能性が大きい!!! ・この現状を、どこまで深刻に受けとめるか、建設分野の課題である。 ・「安全は文化」 ・安全は日々の積み重ねである |
背景 |
この事故の背後には、杜撰な安全管理が問題視されている。 ・まず、下請会社の選定や指導が杜撰だった。一次下請会社は、橋本体の架設工事で契約したことがなく、本件工事に携わった社員は、半分近くが20年以上の作業経験があるベテランだったが、橋の架設工事の経験はほとんどなかったのに、元請会社の事前指導もなかった。 ・施工管理体制の問題点として、橋脚上では元請会社の社員はだれも監督せず、全体の監督者として務めたのは、一次下請の事務系社員であった。また、元請会社が作成した施工計画書では、作業に対して十分な検討が行われず、横取降下工法について添付図面中の「架設要領」において「3(d)横取り」と記載されているのみであった。 ・本件事故の5台のジャッキ架台のうち、4台を設置した二次下請会社の作業員は、30年を超えるとび職の経験はあったが、高所での架台の組み方については全く作業経験がなかった。 ・この工事は、平成3年2月20日に開始されたが、3月1日までは作業に従事する予定のとび職人が遅れてきたり、全く来なかったりする日が続き、作業は遅れがちであった。3月2日以降、作業員人数はほぼ一定したが、高所作業経験のない作業員が多かった。他の現場では、作業開始前の朝礼で、その日の作業内容を説明したり、KY活動を通じて危険予知のための留意点を確認したりしたが、この現場では、3月13日横取作業の直前に作業内容の説明等が行われた他、危険予知活動はなく、朝礼は一度も行われなかった。 |
後日談 |
現場付近の道路が一日に車両15,000台程度の交通量があったため、全面通行止めはせず工事をしていたが、事後後工法変更を行い、迂回路を設け架設地点(県道)を全面通行止めにして、両側よりベントを設けトラッククレーンで直接架設した。 ・事故の犠牲者の遺族らが求めた損害賠償請求訴訟において、広島地裁は98年3月24日、元請会社、一次下請会社及び本件工事の発注者である広島市の過失責任を認め、損害賠償を命じた。本件判決において、広島地裁は広島市の予見可能性及び注意義務を肯定し、注意義務違反による損害賠償責任を認めた。 ・一方、刑事訴訟では、元請会社の現場代理人には禁固2年6ヶ月実刑判決、橋梁工事部長及び現場代理人補佐に対してはそれぞれ禁固2年執行猶予3年と禁固2年6ヶ月執行猶予4年が言い渡された。 ・元請会社には、行政処分として指名停止、営業停止など厳しいペナルティーが科された。 |
よもやま話 |
事故発生後、事故再発防止対策の一環として安全衛生関連法令の改正が施行された。主な内容として、危険度の高い橋梁架設には、作業主任者を設け工事計画書の届出義務も規則に追加した。 |
データベース登録の 動機 |
何度も!何度も!!同じ間違いを繰り返さないため。!!! |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、調査・検討の不足、事前検討不足、作業・工程検討不足、定常操作、誤操作、H型鋼の同方向積み重ね、定常操作、誤操作、ジャッキ設置箇所に補強リブ未設置、破損、変形、座屈、身体的被害、死亡
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情報源 |
判例タイムズ 九八八号二一五頁
日経コンストラクション編 建設事故-重大災害70例に学ぶ再発防止策 pp14-19
失敗知識データベース整備事業建設分野研究委員会提出資料
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死者数 |
15 |
負傷者数 |
8 |
物的被害 |
車両11両が圧壊 |
社会への影響 |
この事故は、テレビ放映もされ、建設現場での杜撰な管理体制を露呈するとともに、社会に与えた影響は計り知れない。 |
備考 |
広島地裁の判決に対し、広島市は不服として控訴したが、元請会社から賠償金の全額を受け取って早期解決を望んだ遺族らが広島市に対する請求を放棄し、控訴審は実質的な審理に入らなかった。請求放棄により、一審判決において広島市に関する部分は効力を失うことになる。 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
國島 正彦 (東京大学)
宋 虎斌 (東京大学)
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