事例名称 |
トンネル内歩行中にダンプカーに轢かれる |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年07月01日 |
事例発生地 |
宮城県柴田郡川崎町今宿 |
事例発生場所 |
道路トンネル建設工事 |
事例概要 |
被災者(29才)は、20tダンプ運転手として、トンネル切羽でズリの積み出し・搬出に従事していた。15時45分頃、積み込み完了したので切羽から120m付近の右壁側にダンプを駐車し、ダンプを降り、次の作業である支保工組立てのため、歩いて再び切羽に向かった。その途中、空車待機中の別の運転手に、残りのずり(トンネル工事で掘り出された岩石、土砂)の積込みに向かうよう指示をしたようにみえた。加害運転手(26才)は指示に従ったつもりで、バックで切羽に向かって進行したところ、65mほど先を歩いていた被災者を轢き死亡させるにいたった。 |
事象 |
被災者は被災直前まで20tダンプトラックでずり運搬をしていた。切羽でずり積み込みオペレーター I が、被災者にあらかじめ定められた方式でずり出し終了の合図をした。この合図方法は、1サイクル分の最後のずり積み終了時、ずり積み込み機(ずり積み込み用ホイルローダー)運転手がクラクションを1回鳴らすとともに手振り合図するものである。(両腕で大きく×を示す)合図を受けた被災者は、ずり出し終了を他の2人(加害者とF)のダンプトラック運転手に同様合図を使用して伝えた。合図を受けた2人は、被災者に対しクラクションをならし、当該サイクルにおけるずり出しの終了を確認した。被災者は2名のダンプトラック運転手からの合図復唱を確認した後、ダンプトラックを坑口に向け約40m走らせた後、ずりを積んだまま坑口に向かって左側に駐車した。一方Fは空車のダンプトラックを運転し、ずっと坑口に近い個所まで移動した。移動途中の走行中、Fは被災者がダンプトラックから降りるのを目撃している。被災者は歩いて切羽に向かって移動した。引き続き、切羽にて鋼製支保工建て込み作業に従事することになっていたからである。加害者は、ずり出し終了の合図を受けたので、所定のダンプトラック方向転換場所で坑口方向に向きを変え、坑口近くにあるダンプトラック駐車場所に向かおうとした。そこで、この合図に従うため、加害者のダンプトラックは、バックのまま切羽に向かって走行した。その途中で何かを踏んだような気がして停車し、被災者が倒れているのを発見した。 |
経過 |
1 関連作業概要 工事は複線道路トンネルで工期は36か月であった。掘削断面は底部が約10m、ほぼ半円形をしている。災害当時切羽位置は坑口から約1250mであった。トンネル地質は硬質な花崗閃緑岩であり、補助ベンチ付きの全断面発破工法を採用した。掘削、ずり運搬作業手順は、発破終了後、ずりをホイルローダー(サイドダンプ式2.8m3)にて20tダンプトラックに積み込み、坑外に運び出す。ダンプトラックの坑内走行は、制限速度を厳守し、また、走路は日常的に整備、排水を行い、良好な状態を維持していた。坑外に搬出したずりは、仮設ヤードに設けた仮置き場に一時仮置きし、後日所定の土捨て場に二次運搬する。ずり積み込み作業中は当該作業員以外の立入を禁止し、充分な照明と換気のもとで作業を行う。切羽部分からのずり搬出作業終了後、バックホウ(0.4m3)、大型ブレーカー(0.7m3級ベースマシン油圧式1300キログラム)を用いて飛来落下災害を防止するための浮石落し(こそく)と鋼製支保工のクリアランス確保を目的とする根掘りを行う。以上の作業が終わったあと、切羽では鋼製支保工の建て込みに移る。 2 現場の状況 坑内照明としては500W水銀灯を11mピッチで天井に取り付け、坑内の通行に支障をきたさない明るさを確保し、また切羽および坑内作業箇所においては、1KWの水銀灯あるいはハロゲンランプを局所的に照明していた。坑内の換気は排気方式を採用し、コントラファン(800KW×2連)に切羽付近の粉じんを含んだ空気を、坑内に風管を通して強制排気し、新鮮な外気をトンネル坑道を通じて吹き込み、補助ファンを使って切羽に供給していた。坑内は狭いため、片側に歩行者通路を設置し、歩車道の境界はプラスチックチェーンと支柱と区分していた。以上のように、工事現場は整然としており、管理も行き届いておりトンネル工事現場としては優良な職場であった。 |
原因 |
原因としては次のことが考えられる。ただし、被災者が加害者に「もう1台」と指示したことが事実であれば、である。この場合は当然、被害者が切羽にずりが残っていることをどのようにして知りえたか、という疑問が残る。 ・被災者がダンプトラックより降車した後、徒歩で立ち入り禁止地域に入ったこと。そして、そこは「もう一台」と指示した被災者本人ならば当然予想できるダンプトラックのバック走行個所であった。 ・加害者が後方を注意せずバックで切羽に向かったこと。 |
対策 |
1 作業主任者を作業の見渡せる場所に常時配置する。作業主任者、重機オペレーター全員に無線機を携帯させ、これを使用して指示、報告を確実に行う。 2 指揮命令と確認の系統を一層明確にする。 3 運行基準を改善し、社員・作業員に徹底する 4 全ての重ダンプトラックに後方視認用モニターカメラを取り付け死角をなくす。ディスプレイは運転席に配置する。 5 ずり搬出作業エリアへの立入禁止掲示は電光掲示板とする。 |
知識化 |
コミュニケーションの究極の形は2人の間に交わされるものであろう。なかでも、災害の発生につながる可能性の強いのは、重機の運転者と周囲の人との間の意思がうまく伝わらない時である。バベルの塔の故事ではないが、意思の疎通を欠けば、生産活動に齟齬が生じることは疑いも無い。その結果、災害が発生することもありうる。現場では、機械に接近しようとする人とオペレーターとの合図として、さまざまなことがらを取り決めている。たとえば「グッパー運動」、これは、オペレーターと周辺の人との間でジャンケンの「グー」と「パー」をそれぞれが出すことによって、2人の間に「近づきたいから機械を止めてくれ」「よし、わかった」という意思の伝達が成立するという実にたわいも無い方法である。一種の手話であるといっても良かろう。さて、古くから、無線交信では誤解や思い違いを回避するための知識化を進めていた。 |
背景 |
被害者が加害運転手に訴えようとしたのは全然別なことだったのではなかろうか。被災・加害両運転手とも災害発生時点で、このサイクルにおけるずり出しは間もなく終了する、という共通認識は持っていたはずである。そして、1サイクル中での掘削が終了したことを明確に確認しあっている。従って、その後、再度指示した、とされている被災運転手が、どうして変更情報を知りえたのか、何でわざわざ自分の車から降りて、歩いて「もう1回」を伝えに来たのか、冷静に考えれば不思議なことで、疑問に感じてもおかしくはない。あとで考えれば。しかし、最後の1杯が追加になることは、切羽ではままあることである。運転手グループではこれまでにも何度か経験している事柄に違いない。被害者の言動を「おかしい」と感じる暇もなく、条件反射的に頭と体が動いてしまったのが、この時の加害者ではなかろうか。むしろ、「前の合図を撤回するのだから、降りて来て丁寧に頼むのもおかしくない」と全く逆の捕らえ方をしたかもしれない。そして、もし、被害者の訴えたことが全然別な事柄に関したものであり、加害運転手の受け取り方が以上の推理のように移行していったのであれば、引き続きとった加害・被害両者の行動はさほど不自然ではない。まず、被害者の切羽方向への単独歩行だが、この区間は「ずり出し中」は「歩行厳禁」であるが、本人は「ずり出しは終了している。」と信じきっていたとすれば、「歩行厳禁」は解除されたもの、と判断した、という推定を立てられる。少なくともずり運搬ダンプの走行は当分ない、と信じてトンネル内を切羽に向かって歩いていたのであろう。一方、加害ダンプのオペレーターの方は、「ずり出し継続中」との認識を持続していたと判断するのが自然だろう。とすれば、ルールによりトンネル切羽までの間に歩行者はいないはずであるから、バックする際の注意も対物中心に傾斜していたと考えられる。(勿論このことで、後方不注意の責務を免れるものではないが。) |
よもやま話 |
工事現場は整然としており、管理も行き届いておりトンネル工事現場としては優良な職場である。被災者・加害者とも同一の一次下請に雇用されていた。また、加害者は親子でいっしょに働いている、真面目な青年であった。 あくまでも推定に過ぎない部分もあるが、聞き違いや思い込みが災害の原因となったと思われる、他の事例をあげる。トンネル工事に使用した、シールドマシンの解体工事を二人で行っていた際、可動足場のゴンドラをレバーブロックで可動足場フレームに固定しないまま、ゴンドラの駆動チェーンを切断したため、ゴンドラが下方にズリ落ち、別の作業をしていた被災者がそれに巻き込まれ受傷した。ゴンドラの駆動チェーンを切断する前に、切断作業員は直接見えない個所にいた同僚(被害者)に、「××を止めたか?」と大声で確認したところ、「止めた」という返事が返ってきた。後で判明したことであるが、切断作業員は、チェーンを切断してもゴンドラが落ちないよう「固縛を施したか?」と確認の意味で聞いたつもりであった。一方、被災者の方は、直前に電気系統のスイッチを切っており、切断作業員の問いかけをスィッチのことと受け取ってこのように答えたものである。 |
データベース登録の 動機 |
相互のコミュニケーション不足により、複数当事者の行動がバラバラになり、行違いが生じることは、実生活の中ではしばしば生じる。しかし、その多くは、笑い話の種を提供する程度で終わってしまうものである。実害は生じ無い。ところが、大きなエネルギーを扱う現場という世界では、この例のように悲劇の基となることもある。日々の生活から抜け出し生産現場へ移った場合には、頭を切り替えなければならないのに、それができない現実が引き起こした災害であり、身につまされ、それだけに印象的であったからである。 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、立入禁止区域進入、不注意、注意・用心不足、後方不注意、使用、運転・使用、ダンプカー後進、身体的被害、死亡
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死者数 |
1 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
中野 正之 (社団法人 日本土木工業協会)
國島 正彦 (東京大学)
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