事例名称 |
長さ77.1m、重さ210t、の鋼トラス桁が架設中に40m下の谷に落下 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1997年08月10日 |
事例発生地 |
北海道静内郡静内町 |
事例発生場所 |
一般道路静内・中札内線の橋梁建設現場 |
事例概要 |
・一般道路静内・中札内線の橋梁建設現場で、架設中のトラス桁が40m下の谷に落下した。本橋梁は橋長141mで、両側径間の単純I桁と中央径間の単純トラス桁で構成されており、単純トラス桁をケーブルクレーン直吊り工法で架設していた。 ・事故当日は、トラス桁の最終部材(トラス中央部の上弦材)を架設し閉合するため、事前の調整作業として、バックステーケーブル(56φ)に装備した調整装置で鉄塔頂部のセットバックを行っていたが、同作業中にメインケーブルが鉄塔頂部の固定用ワイヤクリップ部で滑り、吊り支持していたトラス桁が40m下の谷に落下した。 |
事象 |
・平成9年8月10日の16時45分頃、長さ77.1m、重さ210tのトラス桁が架設中に落下、桁上で別の作業をしていた作業員4人がトラス桁と共に墜落し、1人が死亡、3人が重軽傷を負う惨事となった。 |
経過 |
・当日は、トラス桁の最終部材を架設閉合してしまい、翌日から夏季(お盆)休暇に入ることとしていた。 ・架設作業前に最終部材取付け部の計測を行ったところ、間隔が狭いことが判明した。このため、鉄塔を外側に傾け調整(セットバック)することにより、吊り支持しているトラス桁を持ち上げて、上弦材中央の閉合部間隔を広げることとした。 ・午前中にA1側鉄塔を所定の350ミリ傾け、午後に機材を移動して、A2側鉄塔を所定の250ミリに対し20ミリ程度傾けた時、下流側メインケーブルのワイヤクリップ止め(鉄塔頂部で12個のワイヤクリップを使用)部が滑り、吊り支持していたトラス桁は下流側に回転しながら、40m下の谷に落下した。 ・その時、P2橋脚付近で手すりの復旧をしていた作業員4人が、トラス桁と共に墜落した。 |
原因 |
セットバック作業時にメインケーブルがワイヤクリップ部で滑ったことが直接の原因であるが、 ・メインケーブルのワイヤクリップ固定部は鉄塔頂部にあり、架設途中で一度増し締めを行っているものの、足場の悪い所での増し締め作業であり不十分であった。 ・また作業員が巻き込まれたのは、調整している桁上で別作業を同時にしていたためである。 |
対処 |
被災者救出及び二次災害防止のための点検と応急処置に全力をあげた。 |
対策 |
トラス桁を新規に製作し直し、半年後に同じケーブルクレーン直吊り工法で架設したが、その際、以下の事について考慮をした。 ・同工法に詳しい技術者を3人増員し、作業員も同工法経験者に入れ換えた。 ・メインケーブルの鉄塔頂部のクリップ止めをソケット止めに変更した。 ・バックステーのクリップ数は1箇所当たり11個を15個に増やした。 ・直吊りハンガーをターンバックルからチエーンブロック(20t吊り)に変え、調整をし易くした。 ・架設途中でカウンターウエイトを載荷し、支点上の回転を抑制するようにした。 ・事故前の架設では、直接本支承に据付けたが、再架設時は支承上で垂直回転変位ができる仮沓を製作し使用した。 |
知識化 |
・ケーブルは張力の増加とあいまって伸びが生じ、断面も変化することから架設の進捗に伴い、ワイヤクリップの増し締めを確実に行うことが重要。 ・増し締めは、技術者が立ち会って直接確認する。 ・架設時の調整を閉合直前に集中して行うのではなく、早い段階から適時行う。 |
背景 |
下請け会社の監督技術者は、ケーブルクレーンの経験が豊富で自信をもって施工していたが、逆に油断が生じたことも確かである。 ・関係作業員は同工法の経験者が少なく、監督の指示に従うのみであった。 ・作業員全員が宿舎に泊り込みの生活であることから、翌日からのお盆休みをひかえ、トラスの架設閉合作業を早く終えたいというあせりがあった。 ・ワイヤクリップの増し締め確認は、塔頂部(地上30m)でゴンドラに乗っての作業であり確実性に欠けた。 |
後日談 |
・桁の落下と同時に4人の作業員が墜落し、谷の斜面に止まった2人は軽傷ですんだが、下まで落下した2人のうち1人が重傷を負い、他の1人は増水した谷川を流されて行方不明となり、ただちに捜査隊を編成して連日捜索した結果、約1ヶ月後に遺体が発見された。 ・遺族の補償に関する話し合いや関係官庁への報告等、全力を挙げて対応した。 ・桁の製作と現場施工は異なる会社の請負であるが、製作会社に依頼して直ちに再製作し、約半年後に同じ工法で架設することができた。 |
よもやま話 |
・現場は大型クレーンの進入できないところであり、落下した橋桁を撤去し片付けを行うのに手間取った。 ・落下桁撤去後、メインケーブルを張り直し、足場等も整備して万全の体制で架設を完了させた。 |
当事者ヒアリング |
・下請けの工事会社は、この規模の橋梁架設は何度も経験して施工には自信を持っており、また担当支店も近年は無災害であり、安易に考えていた。 ・事故後安全管理の強化を図るため、従来の安全本部の中に安全技術部を新設し、施工計画の事前チェックや現場での施工確認及び技術的ヒヤリングを行うことを義務付けた。 |
データベース登録の 動機 |
教訓として、橋梁会社にとって橋桁を架設中に落下させることは最大の恥である! |
シナリオ |
主シナリオ
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企画不良、戦略・企画不良、作業環境不良、組織運営不良、構成員不良、作業員経験不足、製作、ハード製作、ワイヤクリップ固定部増し締め、機能不全、諸元未達、性能未達、破損、大規模破損、トラス桁落下、身体的被害、人損、作業員墜落、身体的被害、死亡、組織の損失、社会的損失、橋梁架設技術への信用失墜
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情報源 |
日経コンストラクション編「建設事故 重大災害70例に学ぶ再発防止策」
失敗知識データベース整備事業建設分野研究委員会提出資料
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
3 |
社会への影響 |
事故の情報は新聞やテレビで報道され、橋梁架設技術を失墜させた社会的責任は大きい。 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
柴原 英正 (社団法人 日本橋梁建設協会)
國島 正彦 (東京大学)
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