失敗事例

事例名称 地下ピットに溜まった雨水を排水作業中に一酸化炭素中毒
代表図
事例発生場所 鉄骨・鉄筋コンクリート造の文化ホール建築工事現場
事例概要 鉄骨・鉄筋コンクリート造の文化ホール建築工事現場において、小ホール脇のドライエリア下部にある非常に狭い地下ピットに溜まった大量の雨水を排水するため、2人の作業員が2台のガソリンエンジン付ポンプを使って排水作業中、一酸化炭素中毒により2人が死亡し、救助に行った7人が次々と一酸化炭素中毒の症状にかかった。
事象 午前10時30分頃、鉄骨・鉄筋コンクリート造の文化ホール建築工事現場において、非常に狭い地下ピット内でガソリンエンジン付ポンプにより、排水作業中、一酸化炭素中毒にかかり、2人が死亡し、7人が休業になる程度の中毒症状を起した。
経過 ・当日、午前8時から、小ホール脇のドライエリア下部にある地下ピットに、台風の影響で大量に流れ込んでいた雨水を作業員AとBの2人で排水することになった。
・ドライエリア内には、雨水排水作業に用いるガソリンエンジン付ポンプ1台が設置されていたが、予想以上に大量の雨水が溜まっていたので、作業員AとBの2人は、午前10時にガソリンエンジン付ポンプをもう一台追加して、排水作業を続けた。
・休憩後の10時30分から、作業員AとBの2人が排水作業を再開した。
・昼休みになっても作業員2人がピットから戻らないので、作業指揮を行っていた職長Cが現場に行ったところ、2人がピット内に倒れているのを発見した。
・作業員Cはピット内に降り、ガソリンエンジン付ポンプのエンジンを停止し、作業員の体を揺すってみたが反応がないので、すぐに救助を求めにドライエリアから出て、元請や他の下請の作業員に応援を求めた。
・救助に入った作業員らは次々と気を失って(一酸化炭素中毒症状を起し)、ピットの底部に転落したり、気分が悪くなってドライエリアの外で横になったりした。一酸化炭素中毒で2人が死亡し、7人が休業を伴う程度の中毒症状を起した。
原因 ・ドライエリア内は、十分な空間がないにも拘らず、作業能率だけを考えて、排水用の排水ポンプ2台を使って作業を行ったこと。このため、ドライエリア内の酸素が欠乏し、ガソリンエンジンによる一酸化炭素がドライエリア内に充満したこと。
・狭いピット内の換気を換気装置により行うことなく作業を続けたこと。
・多くの作業員が一酸化炭素中毒にかかったのは、救助に入った作業員達が一酸化炭素がピット内に充満していることを予知できず、倒れていた2人の作業員の救助に次々と入ったため、自分自身が一酸化中毒にかかったこと。
・作業開始前に酸素濃度の測定を行い、その濃度を確認していなかったこと。
対処 送風機により、十分な換気を行った後、救助隊による救助を実施した。
対策 ・自然換気が不十分な場所においては、ガソリンエンジン付排水ポンプを使用せず、必ず、電動式水中ポンプにより排水を行うこと。
・止むを得ず内燃機関付排水ポンプを使用する場合には、送風機等によりピット内部の換気を十分に行い、酸素濃度の測定を行って、酸素濃度が作業に適した状態であることを確認した上で、作業にとりかかること。
・事前に作業計画を立て、具体的な作業方法の指示のもとに作業を行わせること。
・救急処置や救助訓練の方法、対策を実践すること。
・作業員に対する一酸化炭素中毒などの安全衛生教育を実践し、作業時における危険認識、安全意識の高揚を図ること。
知識化 ・自然換気が不十分な場所における内燃機関付排水ポンプ及び電動式水中ポンプの使用基準を文章化し、作業員に周知徹底する。
・換気装置の設置基準及び使用基準を明確に文章化し、関係作業員に周知徹底する。
・作業計画の提出を義務付け、具体的な作業指示方法を文章化し、関係者に周知する。
・酸素濃度測定方法、換気方法、酸素欠乏症、一酸化炭素中毒の危険性等についての安全衛生教育を徹底する。
・緊急時の救急処置、救助訓練方法を文章化し、周知徹底する。
背景 ・当日の午前8時の朝礼、作業打合せがあったときに、職長Cが当日のピット内の清掃作業についての作業内容、安全上の注意事項、予定人員の発表をしていたが、ピット内の雨水の排水作業は3日目でもあり、作業員に対して特に細かく作業内容や安全上の指示を行っていなかったこと。
・10時30分までの休憩中に排水がかなり進んだ時点で電動式の水中ポンプに切り替えて水出し作業を行うよう職長Cが指示していたにも拘らず、取り替えていなかったこと。
後日談 救助の途中から送風機が運び込まれ、スイッチを入れたが動かなかった。
よもやま話 ・作業方法を変更したことについての指示命令系統がはっきりしていなかった。
・救助体制や救急処置訓練を想定し、実践していなかった。
当事者ヒアリング 朝礼や安全上の注意事項が同じようなことばかり言っており、マンネリ化していた。
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動機
同種及び類似の労働災害を発生させないために!
シナリオ
主シナリオ 企画不良、戦略・企画不良、作業内容・工程・環境不良、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、安全教育・訓練不足、リスク認識不良、定常動作、危険動作、危険場所立入り、不良行為、規則違反、法規違反、使用、運転・使用、機器・物質の使用、機械の運転・操縦、二次災害、環境破壊、環境汚染、不良現象、化学現象、異常反応、身体的被害、発病、中毒、身体的被害、死亡
死者数 2
負傷者数 7
物的被害 不明
被害金額 不明
全経済損失 不明
社会への影響 一酸化炭素中毒、酸素欠乏症等の職業性疾病の発生は、元請及び下請の管理責任に対する社会的な不信を招くとともに、発注者、近隣住民などからの現場における危険性、管理不在の状況への不安感と不信感を増大させる。
備考 負傷者数は休業者数
分野 建設
データ作成者 狩野 幸司 (建設業労働災害防止協会)