失敗事例

事例名称 国分川分水路トンネル水没事故
代表図
事例発生日付 1991年09月19日
事例発生地 千葉県松戸市21世紀が丘戸山町
事例発生場所 国分川分水路建設工事現場
事例概要 台風18号の影響で、国分川が氾濫し、隣接のトンネル工事内へ流入した。トンネルには仮締切が設置してあったが、濁流の水圧の為、仮締切は決壊し、トンネル内で作業していた作業員7名が水死した。
事象 建設中の分水路トンネルに坑口の仮締切が決壊したため、濁流が流れ込み、坑内にいた7人全員が死亡した。
経過 ・午後4時30分頃、台風18号の影響で、国分川が氾濫し、濁流が仮設道路を越えて仮締切前面にあった掘削地に流入しはじめる。
・午後4時52分頃、S建設の工事担当者が、T県国分川建設課長に「仮設道路を越えて水が入ってきた。水の勢いが強くて簡単に停められない」という内容の電話連絡した。
・午後4時55分頃、県の建設課長がT建設現場代理人に「上流の水門工事現場のほうで廻りに有る土手(仮設道路)が崩れて水門工事現場に水が流れ込んできている。S建設の方が土嚢を積んでせき止めている。」などと電話で伝える。
・トンネル施工中のT建設の現場代理人は同社の従業員にトンネル内から作業員をあげるよう指示した。
・午後5時頃、県の建設課長がT建設の現場代理人に「今後はS建設と直接連絡を取り合ってほしい。まだ大丈夫ですから、切羽の吹き付けをしてください。」という電話連絡をする。
・午後5時頃、県の建設課長の電話をうけて、T建設の現場代理人は、先ほどの「トンネル内から作業員を上げるよう」という指示を撤回して、「切羽の吹き付け作業をするよう」という指示に変更した。
・午後5時18分頃、濁流の水圧で仮締切が決壊して、トンネルが水没。トンネル内で作業していたT建設の従業員など7名が水死した。
原因 ・危険が迫っているにも拘わらず、作業中止を決定せず(企業者=県)、むしろ、作業実施(切羽の吹き付け)を指示した。また、請負業者の責任者(=T建設現場代理人)は、一旦は作業中止を指示しながらも、企業者からの指示には逆らえないとして、作業継続指示をしたが、請負業者の責任者(=T建設現場代理人)としては、「危険をしりつつ、県の課長の大丈夫ですからという言葉を信じてしまった。本当に危険と感じて、安全を考えたのなら、県の指示に抗しても、作業中止すべきであった。」
・仮締切が設計者(コンサルタント)の意図通り出来なかった。いいかえると、コンサルタントの担当者が現場の状況を知らずに設計していた。そのため、施工会社S建設が施工できるよう、設計変更したが、ボルトの強度は、元の設計より弱いものとなっていた。
対処 ・T建設と同社の現場代理人は労働安全衛生法違反で送検され、94年9月に刑が確定している。
・T県建設課長について、裁判所は「作業継続を指示したことが過失でなく、緊急時でありながら、退避させなかった(退避の指示を出さなかった)ことが過失であると」判断している。
対策 ・台風など、異常天候時には、異常事態が発生する可能性がある。通常作業は中止して、異常事態に対処するような体制とする必要がある。
・異常事態が発生すれば、直ちに、現場から作業員を引き揚げ、作業員の人命確保第一の対策をとり、どうしても実施しなければならないとしても、異常事態が完了してからにすべきである。
・仮設の設計などでは、ボルトを使うことが多いが、「せん断応力」で、抵抗するような設計にすると、現場状況は設計意図(せん断応力で抵抗できるという意図)でない場合が多く、むしろ、曲げが掛かったりして、仮設構造物が崩壊することが多い。この仮締切のような、人命にかかわる仮設の設計は単に計算過程が正しいばかりでなく、現場状況と合致した上で、安全性の高い構造であるよう慎重な配慮が要求される。
よもやま話 千葉地方裁判所の1審は、「T県課長は仮締切の決壊という危険性を全く予想せず、漫然と作業継続という不適切きわまりない指示をだした。」として、禁固1年6ヶ月の実刑判決を出した。それに対して、被告は上告した。しかし、東京高等裁判所の第2審は「被告人の電話の内容がどのようなものであったかどうかは、過失の成否自体に影響ない、作業継続指示が過失に当たるのでなく、緊急時に退避させなかったことが過失である」との判断を示し、禁固2年の実刑に被害者の遺族に被告が見舞金を支払っていることの理由で執行猶予3年つきとなった。しかし、被告は再度上告している。
シナリオ
主シナリオ 未知、異常事象発生、台風で川が氾濫、誤判断、誤った理解、設計者の現場の状況の未把握、設計意図と乖離した仮締切の構造、調査・検討の不足、仮想演習不足、調査・検討の不足、事前検討不足、氾濫した濁流の流れ込み、誤対応行為、連絡不備、異常時の判断の不備、情報の伝達不備、非定常行為、非常時行為、誤判断、状況に対する誤判断、非定常行為、変更、撤収から作業続行への指示変更、坑内で作業員が吹き付け作業、破損、大規模破損、仮締切の決壊、濁流のトンネル内への流れ込み、身体的被害、死亡
情報源 重大災害70例に学ぶ再発防止策―建設事故―、日経コンストラクション
死者数 7
負傷者数 0
分野 建設
データ作成者 前川 行正 (日本技術開発株式会社)
北嶋 正義 (前田建設工業株式会社)