事例名称 |
架設途中の片側アーチ部材(長さ41m、重さ100t)が50m下の谷に落下 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1992年12月04日 |
事例発生地 |
広島県尾道市 |
事例発生場所 |
高速道路の橋梁架設現場 |
事例概要 |
高速道路の橋梁鋼逆ローゼ橋のアーチ部分をケーブルエレクション斜吊り工法で架設中、閉合する前に片側のアーチ部材が突然約50m下の谷に落下した。アーチ上にいた作業員3名が部材とともに墜落したが、直下のワイヤブリッジにより谷底への墜落は免れたものの重軽傷を負った。なお、本橋梁は上下線同タイプの2橋あったが、上り線は架設を完了していた。 |
事象 |
1992年12月4日の14時頃、ケーブル盛替中のアーチ部材が落下し、アーチ上にいた作業員3名が部材とともに墜落したものの、下部に設置してあったワイヤブリッジにひっかかり、谷底への墜落は免れたが重軽傷を負った。 |
経過 |
・当事故は、アーチ部材を斜吊り鉄塔後方にある本橋の橋台にアンカーを取り、鉄塔上部から斜めに張ったワイヤで支えながら谷の両側から1ブロックずつ張り出す架設作業中に発生した。 ・前日までに両側から4ブロック分の張り出しを終え、当日は左側のアーチ部材の斜吊りワイヤを第2格点から第4格点に盛り替え作業をしていた。 ・午前中に東側のワイヤの盛り替えを完了し、同様に西側ワイヤを第2格点からはずそうとしたとき、突然斜吊り鉄塔が前方に傾きアーチ部材と共に崩壊した。 |
原因 |
・後方索ワイヤ端部固定のワイヤクリップ8個が当初30cmで締め付けていた間隔が事故後は狭まっていた。 ・後方索は切断しておらず、滑りにより5mほど緩んでいたことから、後方索のワイヤクリップの締め付けが不十分であった。 |
対策 |
落下したアーチ部材を新規に製作し、同工法で架設を行った。その再発防止対策として、 ・後方索ワイヤクリップは締め付け個数を増やし、架設段階ごとに増締めなどの作業に対して、監督者が目視点検管理を行った。 ・斜吊り鉄塔の鉛直管理、張力管理のため、後方索に調整装置を設けた。 ・前方斜吊りワイヤは、盛り替えをしない多点吊り構造に変更した。 ・増締め作業がしにくい前方索ワイヤ端部をワイヤクリップを止めてから、合金ソケット止めに変更した。 ・管理監督者、作業員ともに十分な技術・技能と経験を有した者を配置し、磐石な管理体制を敷いて施工した。 |
知識化 |
・ケーブルは、張力を導入することにより伸びが生じ断面積が減少することから、負荷した段階でワイヤクリップの増締めを確実に実行すること。 ・増締めは、管理監督者が立会い直接確認すること。 ・増締め作業用の足場は、計画段階から考慮し常時使用可能とする。 |
背景 |
・山間部の高速道路架橋工事で、地形の関係で一般工法である「トラッククレーン工法」が採用できず、難易度の高い「ケーブルエレクション斜吊工法」を採用した。 ・上り線の架設も同様の工法架設を行い完了していることから、油断を生じ安易な管理が行われていた。 ・現場代理人は経験20年のベテランだったがこの工法は初めてであった。 |
後日談 |
元請会社の工事部長他3名、一次下請会社1名、二次下請会社4名が業務上過失傷害の疑いで、またケーブルクレーンを無資格運転させていた下請会社と同社の現場責任者が労働安全衛生法違反の疑いで書類送検された。 |
よもやま話 |
ケーブルエレクション工法は、閉合に向けて作業全員の意識は、架設先端部に集中しがちである。そこで、管理者などは、責任を持っておろそかになりがちな後方確認をすべきである。 |
当事者ヒアリング |
下請を信頼して設備や機械、作業員の力量も含めて任せていた。今後は本来の元請としての立場を自覚して自社の技術力や現場管理体制を強化していきたい。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、経験不足、不注意、注意・用心不足、マンネリ、価値観不良、安全意識不良、特性認識不足、組織運営不良、構成員不良、構成員経験不足、定常操作、誤操作、中途半端、定常動作、不注意動作、手順の間違い、破損、大規模破損、崩壊、身体的被害、人損、落下・転落、身体的被害、負傷、重傷、組織の損失、社会的損失、信用失墜
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情報源 |
・日経コンストラクション、建設事故重大災害70例、p28 ・失敗知識DB推進委員会建設分野研究委員会、日本橋梁建設協会提出資料
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
3 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
鍋島 肇 (社団法人 日本橋梁建設協会)
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