失敗事例

事例名称 鋼3径間連続単弦ローゼ橋の箱桁内において4名の塗装工が有機溶剤中毒に罹る
代表図
事例発生日付 1999年07月01日
事例発生地 大分県大分市大津留
事例発生場所 自動車道路の橋梁架設現場
事例概要 ・鋼箱桁とアーチリブ内の塗装の最終点検と補修を、塗装工3名が規定の装備をせずに実施していたところ、箱桁内部で有機溶剤中毒に罹り、自力で脱出できなくなった。
・急遽救助に入った塗装作業責任者もまた中毒に罹り、途中で動けなくなった。
・結局4名は、4時間半後にレスキュー隊によって救出されたが、結果は比較的軽度の中毒症であった。
事象 平成11年7月1日、鋼3径間連続単弦ローゼ橋(全長260m)の箱桁内部で塗装面の最終点検と補修を行っていたが、14時頃に、橋梁端部から68m入った中間橋脚付近で4名の塗装工が有機溶剤中毒に罹り動けなくなった。
経過 ・事故は、工事も完成に近づき最終の塗装面点検とその補修作業中に発生した。
・塗装工3名は、午前中アーチリブの頂上付近から中間橋脚に向かって塗装の点検と補修作業を進めていった。
・13時になって塗装工3名は、昼食をとるため箱桁内の中間橋脚付近に塗装材料を置いて外に出ていった。
・塗装工3名は、14時頃に箱桁内を中間橋脚まで入って作業を再開したが、間もなく有機溶剤中毒に罹った。
・16時30分頃、塗装工の一人が自力で這い出してきて、塗装作業責任者に状況を報告した。
・塗装作業責任者は救助のため箱桁内に入ったが、報告してきた塗装工も箱桁内に入ってきたので途中で止めて一人で現場に行き、動けなくなっている二人を確認した。
・塗装作業責任者は箱桁内から携帯電話で現場監督員に救助を依頼するとともに、二人を搬出しようとしたが、自身も保護装備をしていないため中毒に罹り動けなくなった。
・電話連絡を受けた現場監督員も救助を試みたが、現場の者では救出は不可能と判断してレスキュー隊に救助を依頼した。
・レスキュー隊による救出作業は18時30分頃から始まり19時30分に終了した。
原因 ・箱桁内部での塗装(有機溶剤を使用)作業で強制換気を行わず、また防毒マスクの着装もしていなかった。
・点検と補修塗装を短時間で終わる作業と安易に考え、換気装置や防毒マスクの使用をしなかった。(本体塗装時は換気や防毒マスクの着装を行っていた)
・救助の際、塗装作業責任者等も防毒マスクをしていなかった。
・塗装工は昼食時に有機溶剤を外に持ち出さず、また蓋をせず、箱桁内部に置いたままとしていた。
対処 現場内部の者だけでは救出が不可能と判断しレスキュー隊に救助を依頼した。
対策 ・軽微な作業であっても、箱桁内での塗装作業に際しては強制換気を行うとともに、防毒マスクを使用すること。またこれらの実施徹底のため、始業前に現場監督員立会いのもとで、装備点検を行うこととした。
・さらに作業中は、桁の両端に監視員を配し、換気装置の監視や塗装工の動向把握のための定期連絡を行うこととした。
知識化 ・有機溶剤は蒸発し、箱桁内では滞留するため、必ず換気しなければならない。
・塗装作業等で箱桁内へ入るときは、強制換気の他に防毒マスクを使用しなければならない。
・塗装作業責任者は、作業ミーティングやKYKの際に換気の実施と防毒マスクの使用を指示し、また作業時は実施状態を監視することが必要。
背景 ・最終点検と補修塗装作業を安易に考え、必要装備である換気装置と防毒マスクの使用を怠った。
・事前の作業打合せに基づく作業指示書で、換気と防毒マスクの使用が指示されておらず、作業前ミーティングやKYKでも指示していなかった。
・塗装作業責任者も、換気や防毒マスクの使用について指示や監視する役を果たしていなかった。
・中間橋脚付近の箱桁内部はダイヤフラム等が多く配置され、ガス等が滞留しやすい構造となっている。
後日談 ・現場には、他に床版工が11名と現場監督員4名がおり、箱桁内の塗装作業責任者から携帯電話で要請を受けてそれぞれ救助に向かったが、防毒マスクをつけていなかったため途中で引き返している。
・桁の架設中は、1箱桁に対しマンホールが6箇所あり、ハンドホールも多数あったが、床版コンクリート打設により殆どが塞がってしまったことに対し、換気等、有機溶剤対策が不十分であった。
よもやま話 現場監督員の有機溶剤に対する危険意識が薄いことから、後日、塗料メーカーによる教育を実施したが、有機溶剤の溜まっている所での携帯電話は、爆発の危険があることを教えられた。
当事者ヒアリング ・塗装工は仕事柄、有機溶剤(シンナー)に強く、一箇所に留まらない点検や補修塗装程度だったら大丈夫と判断し、換気や防毒マスクの使用をしなかった。
・現場監督員も本体塗装の時は換気と防毒マスクの使用指示をしていたが、やはり点検補修塗装作業については安易に考えていた。
データベース登録の
動機
いかなる軽微な作業であっても、密閉された場所での作業には、換気装置や防毒マスク等、適当な設備や保護具の使用を怠ってはならない。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、作業者の不注意、手順の不遵守、手順無視、保護具着装無視、環境変化への対応不良、使用環境変化、作業環境変化、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、定常操作、手順不遵守、設備不良、定常動作、危険動作、危険場所立入り、不良行為、規則違反、安全規則違反、身体的被害、発病、中毒、起こり得る被害、潜在危険、機能障害
情報源 失敗知識DB推進委員会建設分野研究委員会、(社)日本橋梁建設協会提出資料
死者数 0
負傷者数 4
分野 建設
データ作成者 鍋島 肇 (社団法人 日本橋梁建設協会)