失敗事例

事例名称 吊りチェーンが外れ片持ち梁が落下して負傷
代表図
事例発生場所 鉄骨工場建設現場
事例概要 工場建設工事で、鉄骨建方中、取り付け終了直後の片持ち梁等が落下し、乗っていた2名の鳶工が、約6m下の地面に墜落し、危うく死ぬところだった。
事象 鉄骨の落下と共に作業員が墜落し重傷を負った。
経過 被災者Aと被災者Bは鉄骨建方作業のうち、2階の張り出しスラブ部分の鉄骨を移動式クレーンを使用して取り付けていた。
・片持ち梁を仮ボルトで取り付けた。当初本締めボルトを始めから使う方法によって建方を進めていたが、メーカーの製作中断により本締めボルトが間に合わず、途中から仮ボルトを使用後本締めボルトを使用する方法に変更した。吊る前には、4本取り付けていたが、実際にはガセットプレートにボルトを締めた跡が、上に1本下に2本しかなく、1本は落としたか緩んでいた可能性がある。
・両先端にフック、中間にレバーブロックを備えたチェーンを用い、一方の端を鉄骨柱のタラップ部分に、もう一方の端を当該片持ち梁先端側に取り付けたクランプ部に、各々先端フックを掛けて仮吊り補強した。
・梁を吊り込み、仮ボルトで取り付けた。
・吊っていた梁から玉掛け用のクランプを外した。
・吊りチェーンが外れ、およそ10秒後、突然片持ち梁の柱側の仮ボルトが破断したのに伴い、梁も落下した。その際、梁の上に乗っていた鳶工A・Bは、スタンションを用いて張られていた親綱に命綱を掛けていたが、梁の落下に伴い親綱も外れたため、約6m下の土間に墜落した。
・被災者Aは、そのまま墜落し、胸椎・肋骨の骨折で休業60日。被災者Bは、落ちる親綱にしがみついたので、衝撃が少なく、片足踵の打撲で休業3日だった。吊りチェーンは、当初は有効に作用していたが、外れたことにより、当該片持ち梁根元のボルトに過大な引張り力が作用することになり破断した。
原因 ・鉄骨建方計画書において、片持ち梁部分の作業手順書を作成していなかった。
・ボルトのせん断強度の計算による、仮ボルトの種類・本数・取り付け位置の検討がなされていなかった。
・吊りチェーンの先端フックと、クランプの部材の選択及び取り付け方が適切でなかったため、掛かりが少なく、揺れ等によって、滑って外れた可能性がある。
・当該片持ち梁根元強度が確保される前に荷重がかかった。
・当初は、使用した仮ボルトの品質に疑問を持つ意見もあったが、公的機関の試験の結果、品質に問題がなかったことが確認された。
・片持ち梁と柱の接合部分は、片持ち梁上下フランジと柱の溶接が完了するまでの間は、非常時の外力に対して弱く、不安定な構造であるとの認識が低かったので、適切な補強計画をしないで建方を行なった。
対策 ・片持ち梁部分の作業手順書を明確に策定する。
・複合接合の場合は、仮ボルトは「中ボルト」を使用し、2分の1以上かつ2本以上入れ、「中ボルト」の径は本締めボルトと同径のものを使用する。
・片持ち梁は、先端を上部から吊る。
・補強のため、片持ち梁を上部から吊る場合、先端部分に吊りピースを溶接するか、フックの形状に見合ったクランプを取り付ける等により、確実に外れ防止策を講ずる。
知識化 ・作業手順書を必ず作成し、遵守すること。
・非常時の外力も想定した十分な計画を策定すること。
背景 作業計画が十分になされなかった要因として以下のような背景も影響している。
・杭・躯体工事の計画にVE等の観点から大幅変更が生じていたこと、また、現場でメタンガスが発生したこと等への対処に相当な時間を費やし、鉄骨工事計画の検討が十分な体制でできなかった。
・作業所長や技術員の大幅なメンバー入替えがあり、落ち着いた環境が確保されなかった。
・作業所長が工事途中から着任し、施工計画会議にも出席しておらず、議事録によって引継ぎしたが、鉄骨の現場溶接化に伴う施工計画の検討については、特記されていなかった。
・基礎躯体工事で、鉄筋工・型枠大工の不足から工程に遅れが生じ、夏休み期間中に大増員して、躯体工事を進めざるを得なくなった。このような状況下で鉄骨工事が始まり、施工計画書は作成されたが、現場溶接接合に変更になった部分の具体的な作業手順書の作成等が盛り込まれない、一般的なものになってしまった。
データベース登録の
動機
組織に起因する原因から生じた典型的な事故例であること。
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、ボルトの種類・本数・取り付け位置の検討不足、調査・検討の不足、事前検討不足、クランプの取り付け方が不適切、企画不良、組織構成不良、管理者の途中交代、組織運営不良、管理不良、施工計画の不備、組織運営不良、運営の硬直化、工期絶対厳守、計画・設計、計画不良、クランプ滑り、吊りチェーン外れる、計画・設計、計画不良、固定ボルトの破断、身体的被害、人損、墜落、身体的被害、負傷、重傷
情報源 日本土木工業協会
負傷者数 2
分野 建設
データ作成者 北條 哲男 (ものつくり大学)