事例名称 |
仮置きした鋼矢板の荷崩れ事故 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2001年07月 |
事例発生地 |
山形県 |
事例発生場所 |
法面修繕工事の工事現場 |
事例概要 |
法面修繕工事現場において、不安定な状態で積み重ねて置いた鋼矢板の束が崩れ、その脇に置いていた鋼矢板の束との間で作業していた作業員が挟まれて死亡した。 |
事象 |
法面修繕工事現場において、仮設防護柵に用いる鋼矢板の移動作業中に、2段積の状態(高さ1.45m)で仮置きした10枚束×2段の鋼矢板(SPIII型)が荷崩れを起こした。 その脇で作業していた建設作業員(1名)が、崩れた20枚の鋼矢板(上段:L=6.5m、重量3.9t・下段L=9.0m、重量5.4t)と隣の列に置いていた10枚束の鋼矢板に挟まれて死亡した。 |
経過 |
・作業開始時は、打ち合わせで決められていた作業手順どおりに玉掛け作業員2人で作業を行っていたが、事故直前からは被災者が1人で作業をしていた。 ・事故発生時、現場には、現場代理人・現場監督員及び下請の現場責任者が不在だった。 ・工事用車両を、道路から現場内へ進入させるため、出入り口部に仮置きしていた鋼矢板を移動する作業を行っていた。仮置きしていた鋼矢板は10枚束で5列置いてあった。 ・鋼矢板はクレーンの能力を考慮して2~3枚束で吊り上げ、奥の方へ移動する予定であったが、作業を早く済ませるために10枚束を一度に吊り上げた。 ・10枚束を吊り上げたところ、重量過多のため25tラフタークレーンの作業能力を超えてしまい、予定位置へ移動できず、隣の10枚束の鋼矢板の上へ2段積みした。 ・次に隣の列の鋼矢板を移動するために作業員(被災者)が玉掛作業を行っていた所、2段積みした鋼矢板が荷崩れを起こし、作業員が吊り上げようとした鋼矢板束との間に挟まれた。 |
原因 |
・下段鋼矢板束の下に敷かれている敷木材が2段積みされた鋼矢板の重量に耐えきれず割れたため、荷崩れが生じた。 ・打ち合わせで禁止されていたにもかかわらず、「鋼矢板の2段積み」を行った。クレーンの作業能力を超えた枚数を吊り上げたために、作業半径が予定していた移動位置まで届かず、禁止されていた2段積みをした。 ・打ち合わせでは、2~3枚に小分けして鋼矢板を移動することになっていたが、10枚束を一度に吊り上げた。 |
対処 |
1.作業を中止し、元請業者及び被災者の所属する下請業者による緊急安全会議で事故の原因や今後の安全対策について検討を行った。 2.工事再開前に、作業の方法について現場で再教育を行った。 3.発注者は以下に示す内容について工事請負業者に事故後の是正処置を実施させた。 ・作業手順書の見直し、再提出。 ・施工体制台帳の提出。 ・専任の安全管理者の配置。 ・現場代理人が現場を離れるときには、代理を立てることの徹底。 4.請負者は、今後の事故防止対策の内容について、発注者に報告するとともに社内での周知徹底を図った。 ・作業前の打ち合わせにおいて、作業内容および作業手順の確認を必ず行い、決められた手順どおりの作業を行う。 ・危険を伴う吊り上げ作業には、経験を積んだ作業員を配置する。 ・クレーンの作業能力を確認し、能力に見合った吊り荷重・作業半径内で作業を行う。 ・不安定な鋼矢板の2段積みは絶対しない。 ・鋼矢板を仮置きする場合には、H鋼へ結び付ける等の転倒防止措置を必ず行う。 ・現場には、現場代理人・現場監督員・現場責任者等の少なくとも誰か1人は常にいるようにし、作業指揮者(現場を管理・監督する者)の常駐を徹底する。 |
知識化 |
・積み重ねた資材は安定に対する配慮が必要である。 ・作業指揮者は現場に常駐し、作業の安全確認を行う。 ・転倒のおそれがある資材の間近で作業をする場合には、転倒防止措置を必ず行う。 |
背景 |
1.現場の状況としては、 ・道路の横断勾配は約3%あり、被災者側へ積み重ねた鋼矢板が崩れる可能性はあった。 ・事故発生時、玉掛け作業員が、クレーンオペレーターから見て死角になっていた。なお、クレーンの配置変更は現場が狭く物理的に不可能だった。 2.現場作業の安全管理状況としては、 ・事故当時、元請の職員および作業主任者ともに現場に不在であった。 ・前日作業打ち合わせ簿には、安全指示に関する記載がなかった。また、安全巡視の記録を見ると現場の確認が不十分であった。 3.作業を実施した業者および作業員については、 ・実際に作業を行った業者は、鋼矢板(SPIII型)を用いた落石防護柵の設置作業が初めてだった。 ・被災者は入社2年目で、玉掛け技能講習を修了してからの現場実務が1年であった。 4.作業手順に関する背景としては、 ・予定外作業については、変更打ち合わせを行っており、鋼矢板の移動は小分けして行う予定だった。 ・鋼矢板束の2段積みは打ち合わせで禁止されていた。 |
後日談 |
・被災者は2段積みした鋼矢板をゆすって不安定な状態かどうか確認したが、荷崩れが発生した。 ・鋼矢板の移動方法については、作業が早いと思ったため小分けしなかった。10枚束を吊り上げた時、クレーンの安全警告ブザーが鳴ったので、2段積みを行った。 |
よもやま話 |
狭い現場環境の中では、周囲の者が不安全な行動・不安全な設備を発見した場合は、直ちに修正する現場体制の構築が望まれる。 |
当事者ヒアリング |
2段積みされた鋼矢板の安定性について、 ・クレーンオペレーターは、鋼矢板の仮置きについて特に不安に思わなかった。 ・鋼矢板が2段積みされた時、クレーンオペレーターは、鋼矢板が不安定であることを確認することができなかった。 |
データベース登録の 動機 |
・一人作業および作業手順の無視等の基本的なミスによる事故事例。 ・転倒のおそれがある資材の安定を確認する重要性。 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、手順の不遵守、手順無視、鋼矢板の吊り上げ枚数無視、組織運営不良、管理不良、作業主任者の不在、定常動作、誤動作、鋼矢板束の2段積み、定常動作、危険動作、危険場所立ち入り・作業、破損、変形、荷崩れ、身体的被害、死亡、事故死、組織の損失、社会的損失、工事成績評定の低下
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
なし |
分野 |
建設
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データ作成者 |
溝口 宏樹 (国土交通省国土技術政策総合研究所)
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