失敗事例

事例名称 飛散防止ネット転倒事故
代表図
事例発生日付 2000年07月
事例発生地 香川県
事例発生場所 自動車道の建設事業における高架橋下部工の工事現場
事例概要 高架橋下部工の工事現場において、泥等飛散防止のために道路側に設置してあった飛散防止ネットを移動中、クレーンで吊り上げようとした飛散防止ネットが道路側に転倒し、通行していた一般車両(1台)の前後部ガラス及び屋根を破損させた。
事象 高架橋下部工の工事現場において、場所打杭の打設終了に伴い、泥等飛散防止のために道路側に設置してあった飛散防止ネット(単管パイプ枠組、幅4m、高さ6m)をクローラクレーンで移動しようとした。 飛散防止ネットを吊り上げるために、枠組み上部の水平材付近で補助フックを上下させたところ、補巻きワイヤーロープ端部の「毛羽立ち」が上部水平材に引っかかり、飛散防止ネットを持ち上げてしまった。玉掛けされていない飛散防止ネットは固定していた基礎から引き抜かれて車道側へ転倒し、一般通行車両の前後部ガラス及び屋根を破損させた。
経過 ・「玉掛け作業員」「合図者」は新規入場者で、30分程度の新規入場者教育を受け、作業を開始した。
・交通量の多い国道沿いの工事のため、杭工事の泥やコンクリートが一般通行車両へ飛散しないよう、道路際に単管で組み立てた飛散防止ネット(幅4m、高さ6m)を設置していた。
・飛散防止ネットは支柱を基礎H鋼の穴に差し込み、控え材で固定してあった。
・事故発生箇所の杭施工が完了し、次の施工箇所へ飛散防止ネットをクレーンで移動する際、玉掛け作業が完了する前に基礎に固定していた控え材を外した。
・飛散防止ネットに玉掛けを行うために、クレーンの補助フックを上下させたところ、補巻きワイヤーロープ端部の「毛羽立ち」が飛散防止ネットの枠(単管パイプ)に引っ掛かり、飛散防止ネットを持ち上げてしまった。
・控え材が先に外されていたため、持ち上げられた飛散防止ネットは基礎H鋼から引き抜かれた。
・玉掛けが完了していなかったため、基礎から外れた飛散防止ネットは道路側の方へ転倒し、通行していた一般車両を直撃した。
原因 ・作業手順と違う作業を行った。(控え材を玉掛け前に外した)
・補巻きワイヤーの端末部が毛羽立っていた。(作業前の資機材の点検整備が不十分であった)
・クレーンオペレーターはワイヤーロープに気を取られ、フックの動きを見ていなかった。
対処 1.発注者は工事を中断させ、工事請負業者に対し、以下に示す内容について是正処置を実施させた。
・現場の整理整頓。
・作業手順書の見直し。
・専任の安全要員の配置。
・施工管理技術員の配置。
2.請負者は、今後の事故防止対策の内容について、発注者に報告するとともに社内での周知徹底を図った。
・作業前の打ち合わせにおいて、作業内容および作業手順の確認を必ず行い、決められた手順通りの作業を行う。
・クレーンフックの補巻きワイヤー端部の「毛羽立ち」の処理を徹底する。
・クレーン作業では必ず合図者の指示に従って行う。
・現場には、現場代理人・現場監督員・現場責任者等の少なくとも誰か1人は常にいるようにし、作業指揮者(現場を管理・監督する者)の常駐を徹底する。
知識化 ・危険はいろんな所に潜んでいる。ワイヤーロープの「毛羽立ち」が事故を引き起こすこともある。
・日々の資機材の点検整備を怠ると、思わぬ要因から事故を招く。
・作業指揮者は現場に常駐し、作業の安全確認を徹底する。
背景 1.現場作業の安全管理状況としては、
・事故時、元請の所長、主任ともに打ち合わせのため現場には不在だった。また、職長も現場には不在であった。
2.作業手順に関する背景としては、
・転倒した飛散防止ネットの枠組み単管は、当初、基礎H鋼に溶接されていたが、作業を効率良く進めるために、下請業者から提案された差し込み方式に変更された。
・作業手順書は、提案してきた下請業者と打ち合わせをして元請が修正を行った。
・作業手順については、作業開始前に作業員に説明し、周知徹底を図っていた。
・元請業者は、飛散防止ネットの移動作業には、何度も立ち会っていた。
3.作業を実施した業者および作業員については、
・ 「玉掛け作業員」「合図者」ともに通常はクレーンオペレーターであるが、手元作業の経験は豊富だった。
後日談 事故後の検証では、単管パイプ(飛散防止ネット枠組みの上部水平材)に補巻きワイヤーの「毛羽立ち」が引っかかることは全く無かった。
よもやま話 フックとワイヤーの固定の仕方によるが、ワイヤー端部の「毛羽立ち」は、補巻きと主巻きのぶつかり合いで何度直しても起こってしまうので、日頃の点検整備を徹底することが望まれる。
当事者ヒアリング 1.作業状況について、
・移動運搬のトラックが来ていたので急いで載せようとして作業の手順を間違えた。
2.補巻きワイヤーロープ端部の「毛羽立ち」について、
・「毛羽立ち」に気づいてはいたが、大丈夫と思い、注意しなかった。
・「毛羽立ち」は、作業の繰り返しにより起こったと考えられる。
・「毛羽立ち」は何回直しても、主巻のフックのあたりが毛羽立ってしまう。
データベース登録の
動機
事例をもって「作業に潜む危険」を認識してもらい、今後、同様な作業を行う施工業者の危険予知活動に役立ててもらいたいため。
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、手順の不遵守、手順無視、解体手順無視、組織運営不良、管理不良、作業主任者の不在、定常動作、不注意動作、動作順序の間違い、定常動作、危険動作、玉掛け前に控え材解体、破損、変形、ネットの転倒、破損、破壊・損傷、一般通行車両の破壊、組織の損失、社会的損失、工事成績評定の低下
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 一般車両1台が損壊
分野 建設
データ作成者 溝口 宏樹 (国土交通省国土技術政策総合研究所)