失敗事例

事例名称 鉄骨梁上で鉄骨柱のボルト締め作業中、墜落
代表図
事例発生日付 1999年02月03日
事例発生地 神奈川県座間市
事例発生場所 12階建マンション建築工事現場
事例概要 12階建マンション建築工事の鉄骨建方作業において、6階の鉄骨梁上で、移動式クレーンにより吊り上げられた3節部分(7~9階)の鉄骨柱を既設の2節部分(4~6階)の鉄骨柱にボルトで仮止めする作業を行っていた。このとき、鉄骨柱に取り付けられているタラップに安全帯のロープを通し、U字つりの状態で使用していた安全帯の取り付け環(カラビナ)の一部が変形し、外れ、作業中の作業員が約17m下の地上に墜落した。
事象 1999年2月3日朝、12階建マンション建築工事現場の鉄骨建方作業において、前日までに建物の中央部分の鉄骨が2節(4~6階)まで立ち上がっていたので、当日は3節部分(7~9階)の鉄骨を組み立てる作業にとりかかった。移動式クレーンで3節部分の鉄骨柱を吊り上げ、6階の鉄骨梁上で親綱や昇降用のタラップに安全帯をかけながら、3節部分の鉄骨柱を2節部分の鉄骨柱に添板とボルトで仮止めをした。1人の作業員はボルトの仮止め作業を行うための適切な足場がなかったので、自分の安全帯のロープを鉄骨柱のタラップに通した後、安全帯のベルト部分の工具取付け用の環(カラビナ)に安全帯のフックを掛け、安全帯のロープに自分の体重を預けてU字つりの状態にして作業を行っていた。このとき、環(カラビナ)の一部が変形し、外れ、約17m下の地上に墜落した。
経過 ・自分の安全帯のロープを鉄骨柱のタラップに通した後、安全帯のベルト部分の工具取付け用の環(カラビナ)に安全帯のフックを掛けた。
・安全帯は、通常の一本つり用の安全帯であり、自分の体重を預けてU字つりの状態にして作業を行っていた。
・使用していた安全帯の工具取付け用の環(カラビナ)の一部が体重などにより変形し、のびた状態になり、フックが外れ、その反動で約17m下の地上に墜落した。
原因 ・使用していた安全帯の環(カラビナ)が変形し、フックが外れたため、墜落したこと。
・安全帯をU字つり状態で使用することができる構造・規格の安全帯を使用していなかったこと。
・一本つり状態でのみ使用する構造の安全帯を改造し、外れ止め装置が二重になっていない構造の安全帯であった。「安全帯の規格」に適合していない環(カラビナ)を自分勝手に取付けていたこと。
・あらかじめ、作業の方法、墜落防止のための親綱の設置方法などが示されている作業計画を定めていなかったこと。
・安全ネットの設置や親綱の設置などが行われていなかったこと。
・鉄骨の組立て等作業主任者が安全帯の機能を点検したり、その使用状況を監視していなかったこと。
対策 ・建築物等の鉄骨の組立て等の作業を行うときは、あらかじめ作業の方法及び順序、墜落を防止するための設備の設置の方法などが示されている作業計画を定め、その作業計画により作業を行うこと。
・墜落の危険がある箇所で作業を行うときは、作業床を設置したり、安全ネットを設置し、安全帯を確実かつ適正に使用すること。
・安全帯をU字つり状態で使用して作業を行うときは、U字つり状態で使用することができる構造・規格の安全帯を使用すること。
・安全帯の管理及び使用に当たっては、「安全帯の規格」に適合したものでなければ使用させないこと。
知識化 ・一本つり状態でのみ使用する構造の安全帯を勝手に改造したり、「安全帯の規格」に適合しない部品を取付けないこと!
・鉄骨の組立て等作業主任者は、安全帯の使用状況を厳しくチェックし、管理を徹底させる!
背景 この労働災害の背景には、次のような問題点が見られる。
・作業者がU字つり状態での作業をしやすくするため、安全帯の購入後、勝手に工具等をぶらさげるための環(カラビナ)を取付けて使用していた。
・安全帯の点検・管理や使用状況の監視は、単に作業主任者に任せることなく、元請の工事責任者や下請の工事責任者(職長・安全衛生責任者)自らの問題として、管理の徹底を図る必要がある。
後日談 ・行政処分を受けていること。
・同種又は類似の災害が頻発したので、ある都市では、大手ゼネコンが集まって「安全帯等調査検討委員会」を設置して、実態調査にのり出した。また、実態調査結果に基づき、管理の指針を示すこととしている。
よもやま話 ・同じように改造してカラビナを使用してU字がけをしてしまうという作業員からの証言がいくつもあった。両手が使えて楽に仕事ができることが優先され、作業員自身危険の認識が薄いと思われる。
データベース登録の
動機
・同種及び類似の不安全行動や事故災害を再発させないために!
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、過去の安全帯のU字つり使用時の情報不足、思い込み、経験不足、調査・検討の不足、事前検討不足、安全帯使用時の作業内容、作業方法の検討不足、誤判断、誤った理解、安全帯一本つり方式の使用時の詳細計画ミス、組織運営不良、管理不良、安全帯使用の作業管理不良、組織運営不良、運営の硬直化、教育訓練不良、情報連絡不良、価値観不良、安全意識不良、安全対策、安全教育訓練不足、不良行為、規則違反、「安全帯の規格」違反、安全帯の使用時のルール違反、定常動作、危険動作、安全ネットのない危険場所への立入り、墜落、計画・設計、計画不良、安全ネットの設置まで専門性不適合、身体的被害、人損、鉄骨梁上からの墜落、身体的被害、死亡
情報源 ・安全衛生情報センター(労働災害事例)
死者数 1
負傷者数 0
物的被害 なし
被害金額 不明
全経済損失 不明
社会への影響 この災害は、専門紙にも記事として取り上げられ(2003.11.5「安全スタッフ」)、再発防止のための指針づくりの必要性から、少なからず反響を呼んでいる。
分野 建設
データ作成者 狩野 幸司 (建設業労働災害防止協会)