事例名称 |
玉掛用ワイヤロープが破断し、ドラグショベルでつり上げていた擁壁が落下して下敷きとなる |
代表図 |
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事例発生日付 |
1998年11月02日 |
事例発生地 |
佐賀県 |
事例発生場所 |
橋台取付道路建設工事現場 |
事例概要 |
橋台取付道路建設工事において、右岸取付道路の下流側で、L型擁壁の据付け位置に置かれていた擁壁のひとつを脇に寄せるため、ドラクショベルのバケットに取付けたフックに玉掛用ワイヤロープを掛け、それに擁壁の水抜き穴に通したワイヤロープをかけ、擁壁をつり上げたところ、突然、玉掛用ワイヤロープがフックのところから破断し、擁壁が落下した。合図をしていた作業員が擁壁の下敷きとなった。 |
事象 |
1998年11月2日午後、橋台取付建設工事において、路肩部にL型擁壁(2×2×1.6m、質量2.65t)の据付け作業を行っていた。作業開始に際して、擁壁の据付け位置の砂床にコンクリートを打設することになり、すでに据付け位置に置かれていた擁壁を脇に寄せることとなった。 この作業は、ドラクショベルを用いて行うことになり、長さ5mの両端に目のついた径12.5mmのワイヤロープの両端の目をL型擁壁の裏側から水抜き穴に通し、ドラグショベルのバケット(標準装備のバケット容量0.7m3)に取り付けたフック(はずれ止め装置あり)に玉掛用ワイヤロープを掛け、合図により擁壁をつり上げ始めた。 つり荷が約1.6m上昇したとき、L型擁壁の水抜き穴に通していた玉掛用ワイヤロープがフックのところで破断し、吊っていたL型擁壁が落下した。 ドラグショベルのオペレーターに合図をしていた作業員が擁壁の基礎の上に仰向けに倒れ下敷きとなった。 |
経過 |
・長さ5mの両端に目のついたワイヤロープの両端の目をL型擁壁の裏側から水抜き穴に通した。 ・ドラグショベルのバケットに取り付けられているフックに玉掛用ワイヤロープを掛け、両端に目のついたワイヤロープをそれに掛けた。 ・作業員の合図により、ドラグショベルのアームによりL型擁壁をつり上げた。 ・約1.6mつり上げたとき、玉掛用ワイヤロープがフックのところで破断した。 ・合図をしていた作業員がL型擁壁の下敷きとなった。 |
原因 |
・擁壁の質量が2.65tであり、使用したドラグショベルの能力が最大のつり上げ荷重約1.3tに対して過荷重であったものを見逃し、このドラグショベルの用途外使用の要件として定められている1t未満というつり荷の重量制限を無視して使用したこと。 ・無資格者に玉掛作業を行わせたため、つり荷の質量や玉掛用ワイヤロープの強度等を知らないまま、つり具として使用してしまったこと。 ・作業員は車両系建設機械運転技能講習(整地・運搬・積込み用及び掘削用)を修了していたが、玉掛作業に必要な資格は持っていなかったこと。 ・使用した玉掛用ワイヤロープは全体的に腐食が進行しており、破断部には破断前に生じたと思われる、素線の断線が認められるものを使用していたこと。 ・元請の現場監督者は、当日の作業計画を変更したのに、変更後の作業に対する安全対策の検討や指示すべき事項の指示を行わず、ドラグショベルの過荷重による用途外使用を見過ごしたこと。 |
対策 |
・ドラグショベルのような車両系建設機械は、原則として、主たる用途以外には使用してはならないこと。 やむを得ず、荷のつり上げに使用する場合には、機械の構造等により定められた重量制限を守ること。 最大つり上げ荷重は、1t未満とすることを関係者に周知すること。 ・玉掛作業にあたっては、玉掛用ワイヤロープの正常な状態を確認した上で、それらを使用すること。 ・また、玉掛用ワイヤロープの定期点検及び使用前点検を励行し、損傷の著しい不適切な用具は使用できないよう処理すること。 ・車両系建設機械を用いて荷をつり上げる場合、玉掛作業を行う者には、玉掛技能講習修了者を就かせること。 ・荷のつり上げ作業においては、つり荷の落下・転倒のおそれのある範囲内に人を立ち入らせないこと。 ・作業計画を変更する場合、新たに実施する作業に対応した安全対策を検討し、作業手順を関係作業員に周知徹底させること。 |
知識化 |
・車両系建設機械の用途外使用は原則・禁止であることを徹底する。 ・玉掛けする場合は、ワイヤロープの点検、つり上げ重量制限の確認、資格者による作業を徹底する。 |
背景 |
・L型擁壁を据付ける工事は長期的に行われるものであるので、移動式クレーンを必ず使用し、しかも、つり上げ専用設備/装置を準備し、据付けるべきである。 油断すると、このような手元にあるドラグショベルを代用する傾向があり、改善すべき大きな課題である。 ・同じような用途外使用時の労働災害がくり返し発生し、少しも改善が行われていない業界の体質がある。 |
後日談 |
・車両系建設機械の用途外使用その他において重大な安全管理責任を問う行政処分が行政機関により行われている。 |
データベース登録の 動機 |
・同種及び類似災害の撲滅のために、また教訓のために事例を紹介することとした。 |
シナリオ |
主シナリオ
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誤判断、状況に対する誤判断、重量制限の不遵守、誤判断、狭い視野、未経験、不慣れ、無知、知識不足、過去情報(玉掛用ワイヤロープの安全性)、経験不足、勉学不足、組織運営不良、管理不良、作業管理不良(玉掛作業、ドラグショベルの操作など)、管理の緩み(元請、下請現場責任者の管理状況)、価値観不良、安全意識不良、安全対策(玉掛作業時のワイヤロープの強度不足)、作業員に対する安全教育・訓練不足、リスク認識(玉掛用ワイヤロープの破断)、調査・検討の不足、事前検討不足、作業・工程検討不足、非定常行為、変更、作業内容変更、定常動作、危険動作、誤った動作、使用、保守・修理、玉掛方法不良、玉掛用ワイヤロープの点検不良、破損、破壊・損傷、玉掛用ワイヤロープの破断、L型擁壁の破損、身体的被害、人損、圧迫、身体的被害、死亡
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情報源 |
“事例に学ぼう”安全対策<第5集>建設業労働災害防止協会編 (災害事例No.22より)
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
L型擁壁その他 |
被害金額 |
不明 |
全経済損失 |
不明 |
社会への影響 |
建設業界に建設機械災害がくり返し発生し、改善が図られない体質に対する社会的影響は大きい。 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
狩野 幸司 (建設業労働災害防止協会)
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