事例名称 |
塗装工事で200KL灯油タンクが破裂 |
代表図 |
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事例概要 |
A県B市にある工場に設置されていた危険物屋外タンク貯蔵所が破裂し、満タンに近い灯油が漏洩した。 屋外タンクの頂部には、タンク内の圧力を一定に保つために通気管が設置されており、その大気側端部には引火防止網として40メッシュの金網が取り付けられていた。 事故発生日の2日前にタンク外面の塗装作業が行われた。その際、塗装専門業者が引火防止網の金網を誤って塗装したことが事故の直接の原因である。発注者は、塗装工事に際して社内規定を確認せずに、単にタンク外面を塗装するよう塗装業者に指示をした。見回り監督中にも当該箇所の点検をしなかった。さらに当該箇所から重大な事故が発生しうるとは思ってもいなかった。 一方塗装専門業者も「塗ればよいだろうという程度の意識」で作業しているために、外面鉄板とは異なる引火防止網を確認することもなく塗装した。 塗装作業の2日後、小型タンカーがタンクへの補給を行った。補給時はタンク内部の空気が通気管から排出されなければならない。しかし、通気管内部の引火防止網が塗装されていたため、補給速度に応じた排出が不可能となり、内圧の上昇を招き破裂に至った。 |
事象 |
ある工場に設置されていた危険物屋外タンク貯蔵所が破裂し、満タンに近い灯油が漏洩した。 |
経過 |
危険物屋外タンクの頂部には、通気管が取り付けられており、その大気側端部には引火防止網として40メッシュの金網が取り付けられている。 通気管を通して、灯油の消費時には空気が外部から供給され、補給時には内部の空気が外部に排出される。通気管は、タンク内の圧力を一定に保つ重要な役割を担っている。 事故発生日の2日前にタンク外面の塗装作業が行われた。発注者、塗装業者も通気管の役割に全く気がつかず、引火防止網を確認することもなく塗装してしまった。 その結果、工場に設置されていた危険物屋外タンク貯蔵所が破裂し、満タンに近い灯油が漏洩した。 |
原因 |
事故発生日の2日前にタンク外面の塗装作業を行った際、塗装専門業者が引火防止網の金網を誤って塗装したことが事故の直接の原因であった。 タンク内には油面上に可燃性の蒸気が形成されている。万一、何らかの事情で外部に火気が存在したときには、タンク内の可燃性蒸気に引火して火災になる危険がある。それを防止するために引火防止網が設置されていた。 タンク内の灯油が消費されているときは、油量の消費量に相当する体積の外気が引火防止網を通してタンク内に補給される。反対に、タンクへの補給時には、補給によって増加した可燃性蒸気が引火防止網を通して外部に排出される。このように通気管によって燃料の消費時・補給時ともタンク内の圧力が一定に保たれていた。 一般にタンクの破損は、鳥が金網部に巣を作り通気管が閉塞してしまうことによって発生する「凹み変形」が多い。消費時には、外部から空気が補充されなければならないが、鳥の巣によってそれが妨げられ、タンク内が負圧になってしまうのであった。 今回の事故は、燃料消費時にではなくタンカーによる燃料補給が終了した約1時間後に発生した。 後述するように引火防止網の一部は未塗装のままであったと推測されている。塗装作業後タンク内の灯油は継続的に消費されていたが、消費速度は比較的遅い。このため消費時には、金網孔の一部が塗装されていたにもかかわらずタンク内部は負圧にならず、凹み変形は生じなかった。 タンカーによる補給は4~5日に1回行われ、1回の補給時間は約1.5時間である。したがって、4~5日間に通気管を通ってタンク内に入る空気量を、補給時には、1.5時間で排出することになる。今回は、補給速度に応じた排出が不可能となり、内圧の上昇を招き破裂に至った。 |
対処 |
午前10時30分頃、タンク近くのヤードで作業中の作業者が、タンクの上方に噴霧の上がるのを見た。タンクに近づくと、その底板と側板の接続部あたり一帯が変形し、亀裂から灯油が噴出していたため、担当部門に連絡した。 担当部門は直ちに状況を確認し、ちょうど定例会議を終えて帰室した責任者に報告した。責任者は現場に急行し、着火していないがその危険性があること、危険物および危険物施設の事故であることから、消防計画にしたがい保安室を通して119番通報をした。 公設消防隊は万一の着火を警戒し、化学消防車による泡消火体制を整え、近辺の道路の車両通行止めを行った。一方、危険物協議会の相互応援協定に基づく応援を依頼し、急遽用意された15台の10tローリー車に、タンク上部から灯油を回収した。そのほかに自衛消防隊が、防油堤内に漏洩しているものを手作業で約100本のドラム缶に回収した。 厳重な警戒下で作業を行ったこともあり、着火することなく16時に回収作業を終えた。タンクの防油堤内であるが、タンク直下部は強固になっているが他の部分はモルタルを流した程度のものであった。このためタンク下部の変形時に、このモルタルが破れて灯油が地下に浸透した。回収作業終了後の検討で、防油堤周囲を掘削し地下水の水面に浮いた油分を回収することとした。翌日、掘削を行い地下約1.3mの地下水に浮いた浮上油分の回収を開始した。なお、この回収浮上油分は産業廃棄物清掃業者より提供された大型の浮上油回収槽に導き、水分は工場の工程巡回水系に流した。 |
対策 |
発注者は機械設備等の保全に長期に携わっており、その部署の監督者である。事故発生日の2日前にタンク外面の塗装作業が行われた。その際発注者は、作業の内容から、塗料の指定及び安全上の指示は行ったが、タンクの構造に基づく注意・指示はしなかった。タンク塗装作業上の留意事項は、通気管についての注意事項を含めた社内規定としてまとめられており、この規定集は、彼の背後の棚に置かれていた。 3ヶ月以上毎に繰り返す作業、あるいは前回から3ヶ月以上経って行う作業は、必ず規定等を確認する必要があった。 |
知識化 |
長期間の間隔で繰り返す作業、あるいは前回の作業から長時間が経過している(例えば3ヶ月以上)時に行う作業は、必ず規定等を確認する必要がある。さもなければ、簡単な内容ではあるが重大な事故に結びつきうる項目を見逃す危険性がある。この見逃しは、地域社会に危険をもたらし、納期の遅延等を通して社会の生産・流通系統の混乱を招くだけでなく、やがては自社に社会的制裁をもたらすことにもなる。 |
データベース登録の 動機 |
長期間の間隔で繰り返す作業、あるいは前回の作業から長時間が経過している時に行う作業は、必ず規定等を確認して行う必要があることを訴えたかった。 |
シナリオ |
主シナリオ
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手順の不遵守、手順無視、立案手順無視、調査・検討の不足、環境調査不足、使用環境調査不足、非定常行為、変更、作業内容変更、不良行為、規則違反、安全規則違反、不良現象、化学現象、発熱・発火、二次災害、損壊、火災、組織の損失、社会的損失、信用失墜
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分野 |
建設
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データ作成者 |
渡邊 法美 (高知工科大学社会システム工学科)
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