失敗事例

事例名称 倉庫建設工事で塗装設備が火災
代表図
事例発生日付 02月
事例発生場所 工場
事例概要 都内A区の工場で、既設工場に平行して倉庫を建設中に、溶接の火花が既設工場内で稼働中の塗装設備に降りかかり火災となった。
当日は小雪が舞う天候であった。このため朝の打ち合わせで、請負工事責任者は作業の中止を工場工事責任者に申し入れ、作業の中止が決定された。しかしこの後鉄骨作業員が現場に到着したため、請負工事責任者はこれらの作業員に「配慮」して予定を変更し作業を実施させた。請負工事責任者が、シートに覆われた工場内の様子を理解していなかったにもかかわらず、独断で溶接作業を行ったことが事故の直接の原因である。
溶接作業では火花が飛散し、その火花が各種の隙間を通って可燃性物質の火災を招くこと、また、燻り続けて1~2時間後に火災を引き起こすことは多くの経験から知られたことである。危険物設備の近辺での作業であれば工場側は、請負業者に対策を指示し自らも完全な安全対策をとっていたはずである。
工事上の工程、手順、作業内容等の変更は、関係当事者の了解の元で行うべきである。
幸いに、初期消火が成功して大事に至らなかったが、建設工事では決められたルールを守らないと極めて重大な結果を招く可能性があるといえる。
事象 都内A区の工場で、既設工場に平行して倉庫を建設中に、溶接の火花が既設工場内で稼働中の塗装設備に降りかかり火災となった。
経過 事故当日の午前8時に、発注した工場側の責任者(以下、「工場工事責任者」)と、請負業者側の工事責任者(以下「請負工事責任者」)とが、定例の打ち合わせを行った。請負工事責任者が、「小雪が舞う天候であるために工事内容も勘案して当日の作業は中止したい」と提案し工場工事責任者もこれを了承・決定した。通常、この打ち合わせでは、工事作業が行われる近辺の生産ラインの責任者等が参加して、工事内容および生産設備稼働状況を確認して安全対策を決め、実施状況を確認しあうこととしていた。
午前10時頃、事務所にいた工場工事責任者は、「工事が原因で火事になった」という通報を受けた。「工事はしていないから、原因は工事ではない」と主張したが、確認のために火災になったという塗装設備の所へ行った。
塗装設備は、長さ3m幅1m高さ1.5mのブース内を、ローラーコンベヤー上を移動する5.5m~12m程度の長さの長物材数本に、スプレー塗装するもので、引火性の溶剤も使用されていた。ローラーコンベヤー上の被塗装材は、床上1.3m程度の箇所である。
ブース上には排気筒があり、地面にはブース面積より一回り大きい深さ1m以上のピットが掘ってある。設備の性質上、ピットにも余剰漏洩し乾燥した塗料が付着していた。
このピットに工事の溶接の火花(火玉)が入り、ピット内、次いでブース内が火災になり、排気筒内も火災となった。
原因 当日朝の打ち合わせで、請負工事責任者は作業の中止を申し入れて受け入れられたが、この後鉄骨作業員が現場に到着した。請負工事責任者は、職人達は作業しなければその日の収入がないことを考慮し、かつ、雪の舞い方もやや少なくなったことから作業をさせた。工場工事責任者に報告しなかったのは、(i)鉄骨上の作業が危険で許諾を得られない可能性があることを危惧したこと、(2)雪が強くなれば中止させるつもりであったこと、(iii)生産現場の状況をよく理解していないにもかかわらず、工事作業の内容から生産現場に悪影響を及ぼすことは先ず無いだろうと勝手に判断したこと、(iV)作業を中止したという決定の後では、工場工事責任者が見回りに来ることもないと思い、後ろめたさはあったが作業をさせたこと、等を後から述べていた。
対処 付近の工場作業者が自衛消防隊の初期消火活動を行い消火した。早期の対応であったために、火炎は広がったが消火後は清掃と若干の修理で、半日程度の塗装作業中止で済んだ。
燃える物は付着した塗装油等と僅かな塗料のホース、それにポンプ類であるが、早期に消火しないと鉄板類が変形して作り替えに数日が必要になるところであった。
対策 工事上の工程、手順、作業内容等の変更は、関係当事者の了解の元で行うべきであることを再認識させる失敗事例である。この事例では、シートに覆われた工場内の様子が不明のまま、工事責任者が独断で溶接作業を開始させたことが問題である。
溶接作業では火花が飛散し、その火花が各種の隙間を通って可燃性物質の火災を招くこと、また、燻り続けて1~2時間後に火災を引き起こすことは多くの経験から知られたことである。危険物設備の近辺での作業であれば工場側は、シートの重なり長さの点検、必要なシートの追加、シートの地面上の裾部に重し等を置いて隙間をなくすこと、火気監視人の配置など請負業者に対策を指示し自らも完全な安全対策をとっていたはずであった。
幸いに、初期消火が成功して大事に至らなかったが、建設工事では決められたルールを守らないと、極めて重大な結果を招く可能性があるといえる。
知識化 工事上の工程、手順、作業内容等の変更は、関係当事者の了解の下で行うべきであった。
データベース登録の
動機
作業の安全は、作業関係者全員が協力して初めて確保される。
本事例は、工事上の工程、手順、作業内容等の変更は、関係当事者の了解の下で行うべきことを改めて訴えたかった。
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、無知、知識不足、経験不足、無知、知識不足、経験不足、不良行為、規則違反、安全規則違反、定常動作、誤動作、誤った動作、不良行為、規則違反、安全規則違反、破損、破壊・損傷、タンク・破裂、漏洩、組織の損失、社会的損失、信用失墜、社会の被害、社会機能不全、インフラ機能不全
分野 建設
データ作成者 渡邊 法美 (高知工科大学社会システム工学科)