失敗事例

事例名称 斜面でクローラクレーンが、定格以上の荷物を吊り上げ転倒
代表図
事例発生場所 山留工事に使用した作業構台の解体部材積み込み現場
事例概要  作業構台を解体したH型鋼を一度に3本玉掛けし、ワイヤーを張った状態の小型移動式クレーンから運転者が運転席を離れ、他の運転者が3本のH型鋼をそのまま吊り上げ、谷側に旋回を始めたところ移動式クレーンが横転し路肩が崩壊したため機体が落下した。被災者は機体の下敷きとなって死亡した。
事象  斜面において、定格荷重以上の吊り荷を吊り上げ旋回した小型移動式クレーンが転倒し、運転手が機体の下敷きとなり死亡した。
 なお、この運転手は有資格者ではあるが、トラックで土砂を運搬する作業に従事していたのにもかかわらず、班長の指示もなしに自分の判断たけで、小型移動式クレーンを運転したため被災したものである。
経過  地滑り防止のための山留工事に使用した鋼台部材の撤去作業において災害が発生した。
 当日8時30分頃に元請の現場主任と1次下請の作業員及び2次下請の作業員3名が現場に集合し、現場主任から作業鋼台を解体した鋼板及びH鋼15本をトラックで搬出する作業の指示がなされた。
 作業に使用する小型移動式クレーンは、油圧式のゴムシュー(両側のシューの外端寸法は2.3mでシューの拡幅はしない構造)を付けた吊り上げ荷重4.9tのクローラークレーンで、過負荷防止装置及び過巻防止装置付きのものであった。
 9時30分頃から作業が開始され、搬出する鋼材の下方の坂に小型移動式クレーンを置き、さらに、その下方にリース会社のトラックを止めた状態で、トラックに鋼材を積み込む要領で作業が行われた。
 トラックへの積み込み作業は、被災者の所属する会社が中心となり行うこととなり、班長の指揮のもと玉掛技能講習を修了している同僚が玉掛を、小型移動式クレーン運転技能講習を修了している二次下請の作業者が小型移動式クレーンを運転し、まずH鋼10本をトラックの荷台に積み込み、トラックは場外へ出発した。
 その後同僚は、作業が遅れていることから効率よく作業を行うため、H鋼3本(約16.68t)を一度に玉掛し、クレーンのフックを巻き上げ玉掛ワイヤーロープを張った状態で停めた。このとき、玉掛に際しジブの長さは7m、傾斜角度は斜面に対し35度であり、斜面を考慮しても作業半径は5m弱である事から、定格荷重は1.2t程度と考えていた。
 一方、クレーン運転手は、H鋼の長さから吊り荷の重さは、1.5t程度と考え、吊り上げる際には、クレーンをH鋼に近づけなければならないと考えていた。
 丁度この時、鋼材を運搬する2台目のトラックが坂道をバックで登ってきたが、雨で濡れていたためスリップして止まってしまった。これに気づいた班長、玉掛者、クレーン運転手がワイヤーを張ったままクレーンの所を離れ、トラックの所に集まり様子を見ていた。
 この時に、トラックで土砂を運ぶ作業に従事していた被災者が、この場所に立ち寄った。
班長を中心に作業者たちが相談した結果、トラックがスリップして坂道を登れないのは、車体が軽いためで、荷台に物を乗せれば車体全体が重くなりスリップせずに坂道を登れるだろうとの結論に達した。
 そこで、小型移動式クレーン運転技能講習と玉掛技能講習の修了証を所持している被災者が、班長の指示を待つことなく、小型移動式クレーンに向かった。
 運転席に座った被災者は、既に玉掛されてすぐに吊り上げることのできる状態になっていた3本のH鋼をそのまま吊り上げ、谷側へ旋回を始めたところ移動式クレーンが横転した。
 また、その衝撃で路肩が崩壊したため機体が落下し、ほぼ一回転して斜面の途中の立ち木に当たり止った。
 この時被災者は、小型移動式クレーンの運転室のドアをきちんと閉めていないまま運転していたため、運転席から外に投げ出され機体の下敷きとなって死亡した。
原因 1.小型移動式クレーンの定格荷重を超える吊り荷を吊り上げて旋回させた。
2.3本のH鋼を玉掛けした時、玉掛者と、クレーン運転者の両方が、ジブの角度を変えなければ定格荷重を超えることを知っていたにもかかわらず、直ちに正しい作業方法を検討し、是正の措置を行わなかった。
3.小型移動式クレーン運転者が吊り荷を吊ったままの状態で運転席を離れ、また、その状態から他の運転手が勝手に運転を再開し、旋回させた。
4.作業指揮者が曖昧な指示(作業員の配置、仕事の分担、合図者の指名等をおこなっていない)を行ったまま、その場を離れた。
5.作業者に対する、狭い場所で重量物を扱うときの危険とその対策についての教育がなされていなかった。
6.前日の作業まで作動をしていた過負荷防止装置が、この時作動しなかった。
対策 1.使用する機材、作業の日程と手順、人員配置等を盛り込んだ作業計画を作成する。
2.作成した作業計画を、関係請負業者、関係作業者に徹底する。
3.移動式クレーンの定格荷重を超えて作業しない為に、クレーン運転手や玉掛作業者に、吊り上げる荷の質量について的確な判断ができるよう、日頃から学習させる。
4.一定の合図を定めて移動式クレーンの運転を行う。
5.荷を吊り上げたまま運転席を離れない。運転者が運転席を離れるときは、エンジンを止めて、キーを自分で持って離れる。
6.作業開始前に過負荷防止装置等の点検を行う(始業点検)。運転者が途中で変わる場合は、点検結果を伝えるとともに、変わった運転者自らも再度点検する。
7.関係作業者にクレーン使用に対する安全教育を実施する。
知識化 1.他人の作業を途中で変わったときは、引継ぎ事項を入念に行うこと。
2.早とちりは事故のもと。
3.定格荷重を越えての吊り上げは事故のもと
背景 この年最後の作業で作業員が、早く終わらせようと、あせっていた。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、情報不足、手順の不遵守、手順無視、キーをつけたまま運転席を離れる、誤判断、誤った理解、思い込み、組織運営不良、管理不良、指示なし行動、使用、運転・使用、クレーン運転、非定常操作、操作変更、操作員変更、定常動作、危険動作、安全不備な動作、破損、大規模破損、横転、身体的被害、死亡、事故死、組織の損失、社会的損失、信用失墜
死者数 1
物的被害 小型移動式クレーン
分野 建設
データ作成者 伊貝 星治 (株式会社 イチテック)
馬場 完治 (株式会社 イチテック)