事例名称 |
壁のジョイント部から水が流入、地表が沈下して民家に被害 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1992年04月03日 |
事例発生地 |
大阪市福島区海老江 |
事例発生場所 |
大阪市「片福連絡線野田阪神駅(仮称)」工事現場 |
事例概要 |
大阪市の「片福連絡線野田阪神駅(仮称)」工事現場において、駅舎を築くため,周囲を地下連続壁で囲み、土留め支保工で支えながら地盤を掘り下げていたが、地下連続壁のジョイント部から出水し、掘削構内に水とともに土砂が流れ込み、その結果地表面が沈下し、沿道の家屋に被害が出た。 |
事象 |
平成4年4月3日13時40分頃に、大阪市「片福連絡線野田阪神駅(仮称)」工事現場において、掘削構内に約2万立方メートルの水とともに土砂が流れ込み、これに伴って地表面が沈下し、沿道の家屋34戸に被害が出た。1分間に最大9立方メートルの出水があったと考えられている。 |
経過 |
・地下連続壁は泥水固化工法で、延長80m、深さ38m、壁厚70cmである。施工単位であるエレメントごとに施工し、全体で一枚の壁を築く。孔壁崩壊防止用のベントナイト泥水を安定液として、深さ38mまで掘削し、その安定液を固化用泥水で置換した後、H形鋼を深さ31mまで48cm間隔で建てこんでいた。ただし、出水のあったエレメントでは、沿道の民家に配慮して,音の出る作業を昼間に集中させたため,固化用泥水で置換する前にH鋼を建てこんでいた。 ・掘削最終床付け面は地表面から24.1mである。当日、地表から16.6mの深さまで掘削を終え、その後、盤膨れ現象を防止するため、全体を四つのブロックに分け掘削していた。3ブロック目の掘削は、地表から21.4m、隣接する2ブロック目の掘削は16.6mに達していた。各ブロックの境界には、仕切りとして鋼矢板を打ち込んでいた。 ・出水はまず黒っぽいヘドロ状の湧水として見つかった。応急措置として、土砂による埋め戻しなど、止水対策を取った。しかし効果はなく、水量は徐々に増加して、約40分後には、地表面が沈下し沿道の民家34戸に被害が出た。 |
原因 |
・最終床付け面下の沖積シルト層の下部とその下の沖積砂層が流動性の高い砂を含む被圧滞水層であった。 ・分割掘削の境界が泥水固化壁のエレメントの境界と一致しており、隣接するブロックの掘削深さに差があったため、壁の変形量に差が生じる可能性があったこと。 ・出水個所のエレメントの施工上の問題として、1.マッドケーキ(掘削壁面にできる泥の膜)やスライム(掘削中に生じる土の塊)の処理時間が、他のエレメントより少なかった、2.マッドケーキの処理から長時間経過したため、新たなマッドケーキがH鋼に付着しやすい状態にあった、3.出水個所のエレメントとの掘削幅と通りに若干のずれが生じており、マッドケーキを除去しにくい状態だった。 |
対処 |
薬液注入や固化壁の背面に設けたボーリング孔から、生コンクリートなどを投入し続けた結果、出水から2日後の4月5日夕方に水は止まった。 |
対策 |
・異常出水の問題は、設計と施工にまたがっている。したがって、設計と施工の双方に配慮することで出水は防げられる。 ・被圧水に気をつけなければならない。ここでは、H形鋼を泥水固化壁のしん材にしたが、止水を完全にしようとすれば、鋼矢板を入れることも考えられる。 ・地盤沈下の恐れがなく、くみ上げた水の処理の問題が解決できるのであれば、揚水工法で地下水位を下げておくのも一つの方法である。 |
知識化 |
・異常出水の問題は設計と施工にまたがっている。 ・有効な計測管理。 ・類似工事の情報収集 |
後日談 |
17年前に起きた事故のことは十分認識していた。施工方法は異なるが、ジヨイント部分の施工が地下連続壁のポイントだということは当初からいわれており、背向上の重要な事項は追加仕様書にも盛りこんでいた。 |
データベース登録の 動機 |
同種及び類似の建設災害を発生させないために。 |
シナリオ |
主シナリオ
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未知、異常事象発生、環境変化への対応不良、使用環境変化、作業環境変化、調査・検討の不足、事前検討不足、審査・見直し不足、非定常行為、変更、手順変更、破損、変形、破損、大規模破損、地表面沈下・家屋被害
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情報源 |
建設事故 重大災害70例に学ぶ再発防止対策(日経コンストラクション)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
民家34戸 |
被害金額 |
不明 |
全経済損失 |
不明 |
社会への影響 |
建設災害は、元請会社の管理責任に対する社会的な不信を招くとともに、施主、近隣住民からの建設現場における危険性への不安感と不信感を増大させる。 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
田中 信幸 (日本技術開発株式会社)
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