事例名称 |
ペール缶を荷取りステージ上へ引き揚げる作業中3.5m下に墜落 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2002年09月25日 |
事例発生地 |
東京都あきる野市 |
事例発生場所 |
ケアハウス在宅介護支援センター新築工事現場の外部足場 |
事例概要 |
トラロープにてペール缶に入れたモルタルをステージ上へ引き揚げる単独作業中、墜落し死亡した。 |
事象 |
平成14年9月25日午前11時45分頃、地上に用意したモルタル入りのペール缶(重さ約10kg)を高さ約3.5mのステージ上へトラロープにて引き揚げる単独作業中、ペール缶が落下しそうになったため、ペール缶をつかもうとして手すりと中さんの隙間から身を乗り出し、墜落した(推測)。 同日、13時15分、搬送先の病院で緊張性気胸による被災者の死亡が確認された。 |
経過 |
・7時30分被災者を含む4名現場到着(左官工) ・7時50分安全朝礼(KY実施) ・被災者は、職長より1F巾木と2Fベランダ手すりの補修の指示を受ける ・10時休憩 ・10時30分作業再開 ・11時30分、約10m離れた場所で作業をしていたタイル工がドスンという音を聞いた(被災者墜落) ・11時38分救急車要請 |
原因 |
・作業方法を安易に考えた。 ・荷揚げ方法は、階段を使用するよう指示を受けていたが、ロープで荷揚げを行った。 ・安全帯を使用していなかった。 ・不安定な姿勢で作業を行った。 ・荷取りステージの使用方法が明確にされていなかった。 ・荷取りステージの使用に関する指示が不足していた。 ・荷揚げ装置(ウインチ・エレベータ)がなかった。 ・作業手順がなかった。 ・安全帯使用に関する教育が不足していた。 |
対処 |
・同様作業が続くことから、荷取りステージ横に昇降階段を増設した。 ・ウインチを設置した。 |
対策 |
・揚重機器を適所に設置する。 ・材料毎の揚重方法を明確にし、作業手順を策定する。 ・安全ミーティング時には、細部にわたり指示をする。 ・ロープでの荷揚げ作業は禁止とする。 ・安全帯使用に関する教育の徹底 |
知識化 |
・軽作業を甘く見るな ・新規入場者について、最初の1週間は要注意 ・一人作業は要注意 ・現場で働く人間は、皆兄弟と思え(一声掛け運動) |
背景 |
・被災者は、中学校卒業後、事業主である父親の元で、左官工として従事。経験22年といういわゆるベテランであったが、独り立ちできる程の技量はなかった模様。 ・モルタルを運ぶ通路は、60cm程度であり、昇降に不便であったこと。 ・元請として、施工前の足場計画及び揚重計画では、工事用エレベータを設置する予定であったが、ランニングコストを検討した結果、今回起因となった荷取りステージを設け、かつ移動式クレーンで荷揚げを行った。 ・建物が低層であること、重量物がさほど多くなかったことから、エレベータを設置しなかった。 ・現場入場初日であったこと。 ・このグループのミーティング報告書には、「荷揚げは昇降設備を使用する」となっていた。 |
後日談 |
被災者は、事業主の一人息子であり、当時、母親、妹の落胆は大きなものであった。 災害後、事業主は廃業した。 行政処分として、安全衛生法違反は認められず、以下のような「指導票」を元請・下請が受けた。 1)高所における荷揚げ作業を行わせる必要のない作業標準を策定し、関係者に周知させること。 2)材料、道具等を携えながらの作業場所への移動が容易に行える外部階段を設置する等の措置を講ずること。 3)作業床の端において、負荷がかかって墜落する危険のある荷取り作業が行われないようにするため、荷揚げ装置を設ける等の措置を講ずること。 4)以上によりがたく、高所における荷揚げ作業が必要な場合は、安全帯を使用させる等の墜落防止措置を講ずること。 5)新規入場者教育が、現場の状況を的確に捉えた上、結果に即したものとなるようにすること。 この災害は、現認者が一人もなく、墜落音のみであり、労基署の調査においても、40人もの人が同じ建物を共同して作業しているのに、一人も現認者がいないというのは、不自然であるとの見解で、すべての作業員が事情聴取を受けた。(自殺等も考慮した可能性がある) 墜落原因も、推測である。実際に再現してみると、かなり無理な力の入る作業になったはずであり、階段を使用していれば、と思うばかりである。 |
よもやま話 |
労基署の署長の話で、「あれだけの人数の人がいて、誰も見ていなかったというのが解せない。被災者の方がうかばれない。だから徹底的に調査させてもらった」というのは印象的な言葉だった。 |
当事者ヒアリング |
約40名の作業員のヒアリングを筆者も行ったが、ほとんどの作業員が「なんであんな所から落ちたのか不思議」という話であった。 |
データベース登録の 動機 |
どんな安全な設備を設けても落ちるときは落ちる、「安全設備」と人間の「行動」は常に安全と比例しない、ということを強く認識したため。 |
シナリオ |
主シナリオ
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手順の不遵守、手順無視、操作手順不足、不注意、注意・用心不足、取扱不適、組織運営不良、管理不良、作業管理不足、定常動作、危険動作、落下・転落、身体的被害、死亡
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死者数 |
1 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
野中 格 (社団法人 日本土木工業協会)
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