失敗事例

事例名称 どんぶり勘定の公共工事
代表図
事例発生日付 1994年
事例発生地 日本全国
事例発生場所 建設業界
事例概要 建設生産・管理システムは、品質、工程、コストが三位一体となって機能する必要がある。しかし、我が国の公共工事は、品質と工期(工程でない)と計画予算の決算主義が最も重視されてきた。その結果、お金やコストに、あまり細かくこだわらないで、新技術と高品質と工期厳守と予算厳格消化を見据えて物事をすすめるという気風が定着した。バブル経済という建設業界への追い風に煽られて、その気風がゆきすぎて、我が国の公共工事が、どんぶり勘定症候群という悪性慢性病に冒されてしまった。
事象 1993年に起こった数々のスキャンダルに端を発した公共工事に対する世間からの不信感を払拭すること、および、我が国の健全な経済社会の礎を担う社会基盤開発整備管理運営に携わる人々が、将来にわたって活き活きと活動できる環境を整備すること等を見据えて、官民一体となって様々な取り組みが試行され、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年11月27日公布)が施行されたが、公共工事への世間の不信感および関係する当時者間の閉塞感は、2005年現在、一向に払拭される気配がない。
経過 公共工事に対する世間からの不信感は、1992年の埼玉土曜会の談合疑惑への公正取引委員会の排除勧告に端を発し、著しく高まった。1994年から、国土交通省は、透明性・客観性、競争性を基本方針として、それまでの指名競争入札一辺倒から一般競争入札を導入すると共に、予定価格と積算のあり方を見直しつつコスト縮減に取り組み、新しい入札契約制度を精力的に実施してきている。そして、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」の趣旨を徹底させるために、入札および契約の透明性・競争性の向上、不正行為の排除の徹底、公共工事の適正な施行の確保等を見据えて、技術と経営に優れた企業が伸びることができる建設市場を目指した様々な改善方策が導入されてきている。しかし、公共工事への世間の不信感および関係する当時者間の閉塞感は、2005年現在、一向に払拭される気配がないのである。
原因 我が国の公共工事の代金支払い方法は、どんぶり勘定である。その症状が顕在化して、これほどまでに公共工事が世間の不信感や悪評判に晒されていても、当事者の多くには自覚症状がないのだ。現在におけるまでの腐敗状況は、そのことが招いた結果といえよう。工事代金の支払い方法は、品質保証方法と共に、公共工事の契約システムの根幹の一つである。どんぶり勘定症候群の原因である「どんぶり勘定遺伝子」の構造と配列は現在、幾つかの事柄が解明されている。
対処 国土交通省は、短い間隔で出来高に応じた部分払いや設計変更協議を実施し、円滑かつ速やかな工事代金の流通を確保することによって、より双務性および質の高い施工体制の確保を目指す「出来高部分払方式(Progress Payments/プログレスペイメント) 」の試行を、2001年3月から、東北地方整備局ならびに中国地方整備局発注の2件の工事で開始した。
対策 国土交通省および三重県は、試行工事のモニタリング、実施方法の検討、諸外国の工事代金支払い方法の実態調査等を通じて、「出来高部分払方式」導入による効果の検証と課題の抽出を行い、その効果を確認し、試行拡大そして2005年度以降の本格導入を図ることとなった。さらに、国土交通省は2004年12月、契約上の事務手続きの円滑化を図るとともに、以降の積算業務の効率化を図るという目的でユニットプライス型積算方式への転換に向けて、全国で7件の直轄の新設の舗装工事を対象に試行に入ることを表明した。
知識化 公共工事における「出来高部分払方式」とは、契約制度の一環として、公共発注者と受注者が緊張感のある対等の関係で、納税者に説明責任を果たし、技術者が十分に腕を振るって良質な社会資本を建設し、関係する各当事者が互いに技術向上を図り、健全な会社経営のもと、有形無形の利益を社会に還元する、そのためのツ-ルである。我が国の公共工事に、「出来高部分払方式」を一刻も早く導入して、どんぶり勘定症候群という悪性慢性病の治癒に努めるべきである。
背景 我が国の公共工事の契約システム自体が、どんぶり勘定であって、それが戦後の復興期の日本社会に適合していたからこそ、今日の豊かな経済社会の礎となった急速な社会基盤施設の開発整備が可能となったと認識すべきである。どんぶり勘定は、過去の社会に適合したシステムといえる。一方、1990年代以降の現代の日本社会は、豊かな時代であり、公共工事の予算規模が飛躍的に増大し、公共発注者は調達する立場になった。景気浮揚対策として公共工事を原則用いないという機運が芽生え始め、建設業界は成熟して、公共工事を通じて官が民を保護育成することは不当であるという雰囲気となっており、財政状況が逼迫してきた現状で、過去の社会に適合した契約システムを、現代社会に適合するように変更する必要があるのは当然のことといえる。
後日談 2001年に実施された国土交通省の試行工事において、受注者の現場代理人(作業所長)は、本当に苦労したようである。また公共発注者は、当初は検査・検収・査定の事務量の増大と、監督業務と検査業務の区分について著しい懸念を表明していたが、現行の法律と規則の運用の範囲内で、大過なく業務を遂行すると共に、今後の本格導入のために取り組むべき問題点と、その解決方策を数多く提示する貢献をしている。
よもやま話 1993年の公共工事に関するスキャンダルを契機に、相当の人員と国費を投入し、国内及び諸外国の実態調査研究が実施され、数多くの調査報告書が刊行されてきたにもかかわらず、どこの調査報告書にも、西欧諸国やアジア諸国の公共工事の契約システムが、「出来高部分払方式」が基本であり、前払金は無いのが普通で、あっても5-10%程度という、極めて重要な事柄が一切記述されてこなかったことの正体は、現時点では不明で謎である。あまりにもあたりまえの、空気のような事柄は、調査報告書から抜け落ちることがあるという説明は可能であるのだが・・・。
シナリオ
主シナリオ 環境変化への対応不良、経済環境変化、戦後復興期の発注体系、組織運営不良、管理不良、監理不良、組織運営不良、構成員不良、どんぶり勘定の遺伝、誤判断、狭い視野、調査・検討の不足、事前検討不足、価値観不良、組織文化不良、誤対応行為、自己保身、計画予算の決算主義、不良行為、倫理道徳違反、予算厳格消化、不良行為、規則違反、談合、社会の被害、人の意識変化、公共工事不信
情報源 ・國島正彦 建設会社への体質改善-脱“ドンブリ”へ進め- 土木学会誌,2001,Vol.86,1-2
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 直接的には無し。
社会への影響 世間は、数々のスキャンダルが元で、公共工事に対し大いなる不信感を抱いている。
マルチメディアファイル 図2.どんぶり勘定のイメージ
分野 建設
データ作成者 國島 正彦 (東京大学)