失敗事例

事例名称 富士市ビル解体工事での外壁崩落事故
代表図
事例発生日付 2003年03月14日
事例発生地 静岡県富士市吉原
事例発生場所 ビル解体工事現場
事例概要 静岡県富士市の7階建て旧ヤオハンビル解体工事現場において、鉄骨コンクリートの外壁の一部が数十メートル下の県道に落下。崩落当時、県道上において信号待ちの乗用車2 台が下敷きとなる。うち、自動車内で2 名が死亡、2 名が負傷。落下した工事作業員2 名が死亡した。工事責任者が工期を短縮するために作業手順を省略したことや、構造物の不安定な構造および老朽化に対する安全措置を怠ったことが主な原因である。
事象 2003年3月14日15時35分頃、静岡県富士市吉原2丁目の7階建て旧ヤオハンビル解体工事現場において、鉄骨コンクリートの外壁の一部(高さ約3m、幅約15m、重さ約37トン)が数十メートル下の県道に落下。崩落当時、県道上において信号待ちの乗用車2 台が下敷きとなった。うち、自動車内で2 名が死亡、2 名が負傷。落下した工事作業員2 名が死亡した。
経過 事故当時解体現場では、壁を重機で建物の内側に倒すためアセチレンガスで壁を溶断していた。同時にコンクリート製の外壁を支える2本の鉄骨に穴を開けてワイヤを取り付ける作業を行っており、作業員が外壁を上り下りしていた。ワイヤは鉄骨につないだが、外壁をビルの内側に牽引する2台の重機への接続は済んでいなかった。
その後、ガスバーナーで鉄骨の下部に切れ目を入れて内側に引き倒す予定だったが、突然「バキッ」という音がして外壁が道路側に崩落。鉄骨を土台のプレートに固定していたボルトが折れた音とみられる。
崩落部分は建物の外壁と柱、その柱が支えていた6 階の床及び梁で、高さ約3m、幅約15m、重さ約37トンだった。5階部分の落ちた壁は鉄筋コンクリート製で、上部がひさしのようにビルの外側に約1.5m張り出していた。
原因 1 工期の遅れを挽回するために、事前に作った解体計画書を無視し、通常なら一週間かかる作業を二日でこなすハイペースで作業を進めるなど、解体手順を遵守しなかったこと。
2 一次下請けと二次下請け業者が途中から変わり、工事が中断したため、下請けと元請けとの意思疎通が不足していたこと。
3 当該建物は外壁の重心が建物外側にかかっている不安定な構造で、建物外部への崩落防止措置を取る必要があったにもかかわらず、工事責任者が作業を短縮するために上部床面のコンクリートを除去する作業も省いたこと。
4 建物の老朽化のために、当初建築部分と増築部分の接続部分のボルトが多数抜け落ちており、接続部分の強度が低下していたこと。
対処 国土交通省は都道府県や建設関連団体に対し、解体工事の安全確保に万全の措置を講ずるよう通知を出すとともに、「建築物の解体工事における外壁の崩落等による公衆災害防止対策に関するガイドライン」を取りまとめた。
対策 ・建築物の外周部が張り出している構造の建築物の解体工事の施工にあたっては、工事の各段階において構造的な安定性を保つよう、工法の選択、施工計画の作成、工事の実施を適切に行うこと。
・鉄骨造、鉄筋コンクリート造、プレキャストコンクリート造等の異なる構造の接合部、増改築部分と従前部分の接合部等の解体については、特に接合部の強度等に十分配慮して、施工計画の作成、工事の実施を行うこと。
知識化 1 「あわただしい雰囲気」と「焦り」は事故のモトと心得るべきである。たとえ工期が遅れていたとしても、解体計画書を遵守しなければならない。解体手順の省略は工事の安全性の低下につながる。
2 古いビルには想定外の空洞や剥落、強度の低下が生じている可能性が高く、より慎重な工事を行わなければならない。
3 外周部や外側に張り出して重心が外側にかかっているケースや、構造的に自立しないカーテンウォール等が用いられているケースでは、外壁が外側に崩落しないようにワイヤで固定するなど適切な安全措置を採る必要がある。
4 安全な解体工事の実施のためには、構築物の新築時及び増改築時の設計図書等や竣工図を保存しておく必要がある。
背景 当該事故が発生した2003年には、全国で約35,000棟の解体工事があった。富士市の事故の後の緊急調査によると、5階建て以上かつ敷地境界・道路境界から5m以内でおこなわれている解体工事は、2003年3月末時点で全国に42件あった。大都市に集中している。
解体工事を行いうる業者は、現在全国で10,000社にのぼる。近年、新規参入業者の増加等によって経験に乏しい業者が増えてきている。
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、組織運営不良、管理不良、工期遅延、不良行為、規則違反、解体計画書を無視、誤対応行為、連絡不備、意思疎通不足、非定常行為、無為、作業省略、計画・設計、計画不良、老朽化した建物への配慮不足、破損、破壊・損傷、鉄骨コンクリート外壁崩壊、身体的被害、死亡、4名被災、身体的被害、負傷、2名負傷
死者数 4
負傷者数 2
マルチメディアファイル 図2.崩壊の様子
分野 建設
データ作成者 國島 正彦 (東京大学)
豊田 康一郎 (東京大学)