失敗事例

事例名称 立川市杭打ち機転倒事故
代表図
事例発生日付 1991年03月16日
事例発生地 東京都立川市曙町
事例発生場所 ビル新築工事現場
事例概要 東京都立川市曙町における大手ゼネコンのジョイントベンチャーによる立川JFビル新築工事現場で、土止め用の大型杭打ち機(重さ約100トン、高さ約30m)が轟音とともに東側に倒れた。この下敷きとなってアパートや民家7棟が直撃を受け、民間人2名が死亡した。
事象 1991年3月16日午前9時半すぎ、東京都立川市曙町1丁目の大手ゼネコンジョイントベンチャーによる立川JFビル新築工事現場で、大きな音とともに土止め用の大型杭打ち機(重さ約100トン、高さ約30m)が東側に倒れた。下敷きになった民家や木造アパート2棟が全壊、2棟が半壊、3棟の一部が壊れた。この事故でアパートの中にいた大学生2名が死亡した。工事作業員に怪我人は出なかった。
経過 当日は工事敷地の周囲の地面に地盤の強化剤と基礎工事用のパイルを打ち込むため、杭打ち機で穴を開ける作業を行っていた。杭打ち機が地面に沈まないよう、現場には幅約1.5m、長さ約6m、厚さ2cmの鉄板十数枚を並べて、杭打ち機はその上を移動していたが、地面はかなりぬかるんでいた。
この周囲の部分は基礎工事の前に地下の岩石などを取り除いた後、埋め戻されていた。
杭打ち機は、敷き並べられた鉄板の東端の部分で同様の作業をした後、3,4mバックして、運転者が降りた。この直後に、機体の前部が鉄板ごと地面に沈み、杭打ち機が傾き始めた。これに気付いた運転者が乗り込みさらにバックさせようとしたが、東側の鉄板1枚をややめくりあげるような格好で地響きをあげながらそのまま転倒した。
原因 1 ゆるい地盤を見越した安全対策をしていなかったこと。
2 作業前との理由でアームによる固定をおこなっていなかったこと。
3 安全装置のスイッチを切っていたため、安全装置が発動しなかったこと。
対処 現場はJR立川駅の近くで交通量も多い街の中心地だった。消防車や救急車十数台が駆けつけ、ヘリコプターによる救助活動が行われた。レスキュー隊はファイバースコープを用いて崩れた家屋の下を捜索した。救出のために油圧ジャッキなどで隙間を広げるようとしたが、倒れたアームが邪魔になり、救助活動は難航した。
対策 地盤が軟らかい所で重機を用いた工事を行う際の安全対策としては、凝固剤の注入などによって地盤をしっかりしたものにしてから工事に入ることや、重機の周囲にアウトリガー等の部材を出してから工事を行うなどの転倒防止策が考えられる
知識化 1 建設重機の転倒を防ぐためには、事前に入念な地質調査を行わなければならない。
2 軟弱な地盤の上で転倒の可能性のある重機を使用する場合には、凝固剤を注入するなどして地盤を強固にしておかなければならない
3 建設重機を運転していないときでも、アームを用いたり周囲から支えるなどして安定な状態に保たなければならない。
4 安全装置は常時作動できる状態にしておかなければならない。
背景 当該事故発生当時は好況による空前の建設ラッシュの最中であった。特に東京都内では住宅街での高層ビル建設が増加していた。これに伴い、労災事故が周辺住民や通行人を巻き込むケースが増加していた。スペースがない場所に大型機械を導入するため、整地作業が十分でないことから倒壊を招くケースが多い。
 また、建設工事の大規模化に伴い、工事用の杭打ち機やクレーン車なども高いものを使って、かなり重いものをつるようになっており、どうしてもバランスが崩れやすくなっている。地盤が軟らかい所での工事は特に危険とされている
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、調査・検討の不足、事前検討不足、ゆるい地盤へ未対策、使用、運転・使用、杭打ち機のアーム未固定、定常操作、手順不遵守、安全装置のスイッチ入れ忘れ、破損、破壊・損傷、杭打ち機転倒、破損、破壊・損傷、周辺民家崩壊、身体的被害、死亡、2名死亡
情報源 「建設事故」(日経コンストラクション編、2000)
朝日新聞
毎日新聞
読売新聞
死者数 2
負傷者数 0
マルチメディアファイル 図2.クレーン倒壊
分野 建設
データ作成者 國島 正彦 (東京大学)
豊田 康一郎 (東京大学)