事例名称 |
大邸の地下鉄火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2003年02月18日 |
事例発生地 |
韓国大邸市 |
事例発生場所 |
地下鉄一号線中央路駅 |
事例概要 |
韓国大邱市の地下鉄で、乗客の放火により車両内で火災が発生。運転士や司令室の判断ミスや、車両や駅の構造上の問題が重なり、死者192名、負傷者146名という大惨事となった。その上、事件後も公社の隠蔽などが明らかになった。 |
事象 |
韓国大邱市の地下鉄で、乗客の放火により車両内で火災が発生。さらに、反対車線に進入した対向列車にも引火し、2列車、計12両が全焼した。火災とそれに伴う煙や有毒ガスにより、死者192名、負傷者146名の犠牲者を出した。 |
経過 |
午前9時53分ごろ、地下鉄の列車が駅に入ったとほぼ同時に、車内にいた男が突然、引火性の液体をまき、火をつけた。まず、放火犯自身の着衣と座席シートに火がつき、急速に延焼し始めた。 火災が発生した場合、対向車線の列車は運転を停止、もしくは火災発生現場を通過させることが鉄道運行の鉄則であるが、総合司令室は、現場の状況を把握できず、付近の列車の運転停止命令を怠り、9時56分、反対線ホームに対向の列車が入線する。 対向電車の運転士は,火事を避けようとドアを閉め発車を試みたが、9時57分、火災感知システムが作動し,自動的に駅構内の通電が停止したため発車できず,火災は対向列車にも飛び火した。 対向列車の運転士は、消火は困難として運転室から脱出したが、その際、列車のマスターキーを引き抜いたため、ドアは自動的に閉鎖され、非常用バッテリーも作動しなくなった。これにより対向列車の乗客は車中に取り残された。火災はホームのある地下3階から、上の階へ煙が急速に拡散し,逃げ遅れ救助される者が多数発生した。 対向列車では多数の乗客が逃げ遅れ、火災や、それに伴い発生した煙や有毒ガスの犠牲となった。対向列車の車両内で確認された死者は142体となっており、これは、対向列車の推定乗客数180人の79%、死者全体の74%にのぼる。 |
原因 |
直接の原因は乗客の放火によるもの。被害拡大の原因については、車両軽量化のため、内装に不燃材ではなく、難燃剤を使用し、これが急激に延焼したことに加え、この難燃剤の燃焼が煙や有害ガスを多量に発生させたこと。また、対向列車は、連結部が開放されていたため延焼が容易で、連結部の蛇腹が燃易性の合成樹脂だった影響もあり、燃焼速度が速かったことがある。さらに駅の構造の問題として、駅舎が地下3階にあり、地下2階に改札口、地下一階に地下街、それをつなぐ階段等の駅の構造が複雑で、避難ルートがわかりにくかった。消火設備や機材、避難誘導路や退避施設など、空間の安全設計がこのような大規模な火災を想定しているものではなかったことがある。 |
対処 |
大邱広域市消防本部は、出火の1分後の9時54分には火災を認知し、9時55分に出動司令を発令し、9時58分には第一陣が現場に到着している。 出火の第一報は、市民の携帯電話から入った。出火した列車の運転士は総合司令室への報告を怠っており、総合司令室は火事を認知しても消防への連絡はしていない。 消防隊が到着すると、死傷者が多数倒れていることや、深い地下階への侵入が困難なことが判ったため、救急・救助活動を優先し、人命救助後に放水鎮火に臨んだ。 |
対策 |
事後検証の結果、単純な事故が大惨事へとつながった要因は、まず職員が当然なすべき初期対応をとっていなかったこととされているが、事件以来、政府の再発防止対策は、主に施設改善に焦点が合わせられてきた。内装材の火災安全基準を先進国水準に強化するほか、2007年まで延べ6036両を交替、駅やトンネルに非常照明灯や消火設備、直通避難階段、発光案内表示を設置するなど、職員の対応訓練はどの地下鉄公社でも十分に行われているとは言えない状況である。 また、多様な施設補完方案もあるが、財源対策なしに伝達された命令に近いため、計画通りに推進されるかは疑問が残る。 |
知識化 |
1 安全設計を考える場合は最悪の事態を想定する。経済効率を優先させるあまり、人命や安全を犠牲にしてはならない。 2 如何に高度な機械・情報システムが導入されていても、それを過信せず、現場で、現物に触り、現実を見極める姿勢が重要である。 3 管理者・職員は、常に危機管理を意識し、安全性を高める努力をする。 4 以上のことがなされているか、第三者のチェックが必要である。 5 乗客は自分自身の自衛手段を考えておく。 |
背景 |
韓国では、1990年代に入ってから2003年までのこの10年余りで、この地下鉄火災を含め, 三豊百貨店や聖水大橋崩壊事故、西海ペリー号沈没事故など大事故が頻発している。 その原因として考えられるのは、韓国が短期間に近代化を果たしたことである。 また、予防可能な非常事故が頻発する原因は、韓国社会の組織的特性にあるとも考えられる。 |
後日談 |
大邱地下鉄公社には、隠蔽や責任逃れの体質があり、事故の原因や経過を情報公開し、その失敗の教訓を将来に生かそうとの姿勢は見られなかった。 なお、裁判の第一審において、総合司令室職員5名、両列車の運転士、中央路駅員1名の計8名が、被害拡大の責任を問われ有罪判決を受けている。 |
データベース登録の 動機 |
日本でも、このような事態が起こりうる可能性があるため。 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、経済効率優先の設計、組織運営不良、管理不良、消防への連絡遅延、調査・検討の不足、仮想演習不足、火災時の想定なし、誤判断、状況に対する誤判断、初期対応遅延、計画・設計、計画不良、内装に難燃剤使用、非定常行為、非常時行為、運転手のカギ抜き取り、誤対応行為、連絡不備、不良行為、倫理道徳違反、証拠隠蔽、破損、破壊・損傷、放火、車両火災、延焼、不良現象、電気故障、非常ドア開かず、破損、破壊・損傷、駅及び地下鉄車両焼損、身体的被害、死亡、192名死亡、身体的被害、負傷、148名負傷
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情報源 |
Fireside Chats http://blog.goo.ne.jp/ccproducer/
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死者数 |
192 |
負傷者数 |
148 |
物的被害 |
地下鉄車両、中央路駅 |
社会への影響 |
日本でも、地下鉄車両、駅構内の安全管理、整備の必要性が言われるようになった。 |
分野 |
建設
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データ作成者 |
國島 正彦 (東京大学)
浅見 絵里香 (東京大学)
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