失敗事例

事例名称 トヨタ欠陥車問題
代表図
事例発生日付 2006年07月11日
事例発生地 熊本県
事例発生場所 県警
事例概要 多目的レジャー車(RV)「ハイラックス」の前輪操舵部品のリレーロッド(図2)が破損する危険性を知りながらリコール(回収・無償修理)などをせず、人身事故を引き起こしたとして、熊本県警がトヨタ自動車の元品質部長ら3名を業務上過失傷害容疑で熊本地検に書類送検した。「危険性を知っていたが人身事故が起きていなかったのでリコールしなかった」と、事態の重大さを軽視して対応が遅れたことが原因であった。
事象 フルモデルチェンジした「ハイラックス」の前輪操舵部品のリレーロッドが破損する危険性を知りながらリコール(回収・無償修理)などをせず、人身事故を引き起こしたとして、熊本県警がトヨタ自動車の元品質部長ら3名を業務上過失傷害容疑で熊本地検に書類送検した。
経過 1988年12月、リコール対象となった多目的レジャー車(RV)「ハイラックス」フルモデルチェンジ車の生産を開始した。
92~96年、ハイラックスの「かじ取り装置」で5件の不具合が判明した。
95~96年、トヨタが原因を調査したが、いずれも据え切り(停車したままの状態でハンドルをいっぱい切る操作)を繰返すなど、限られた使用状況下で発生おり、駐車場や車庫で停車中に折れていたため、「事故になる危険性はない」と判断し、リコール不要とした。
2004年3月~4月、3件の不具合報告があり、トヨタは停車中より荷重が小さい走行中でも折れる危険性があるとみて再度調査を実施。
04年7月、トヨタがリコールに向けた検討を開始。
04年8月12日、公務員の男性が熊本県菊池市でで93年度製ハイラックスを運転中、リレーロッドが折れハンドル操作が不能となり対向車線にはみ出し、会社員の乗用車と衝突、計5人が重軽傷を負った。
04年10月、トヨタは、1988年12月~1996年5月製造の「ハイラックス」330496台をリコール。不具合の状況「かじ取り装置のリレーロッドの強度が不足しているため、ハンドルの据え切り操作等の操舵力が高くなる使用を頻繁に長期間続けると亀裂が生じるものがある。そのため、そのまましようを続けると亀裂が進行し、最悪の場合、リレーロッドが折損し操舵ができなくなるおそれがある」として、「全車両、リレーロッドを対策品と交換する」改善内容を公開した(図2)。このリコール届出の際「国内の不具合は11件」と国土交通省に説明した。
06年7月11日、熊本県警が「トヨタ自動車が車の欠陥を知りながら8年間もリコールを届け出なかったため交通事故が起きた」として元トヨタ自動車品質部長(当時別会社の役員)、トヨタ自動車リコール監査室長、同社お客様品質部長の3名を業務上過失傷害で熊本地検に書類送検した。
原因 1.不具合情報の検討が不十分
トヨタの販売店では様々な不具合情報のうち「テクニカルリーダー」と呼ばれる有資格者が「メーカーに連絡する必要あり」と判断したトラブルについて、発生状況や修理作業の内容を「市場技術速報」として報告する体制をとっている。しかし「速報」からこぼれ落ちた顧客からの苦情や修理情報は直接的にリコールの検討に活かされず、また不具合情報の書類保管期限は5年と短く、96年以前の市場技術情報5件は把握していなかった。
2.仮想演習不足
書類送検された3人は「危険性を知っていたが人身事故が起きていなかったのでリコールしなかった」と述べている。据え切りでダメージを受けたリレーロッドが走行時に折損する危険性があることは、仮想演習すれば容易に明らかになる。また、不具合情報は人身事故の兆候と判断すべきであった。
3.リレーロッドの強度不足
ハイラックスは88年のフルモデルチェンジで前輪にかかる重さが95kg増加したが、従来のリレーロッドを使ったため強度不足となった。
対処 熊本県警の書類送検を受けたトヨタ自動車の対処は以下のとおり。
7月11日、同事件に関して記者会見せず、「本日、当社社員・元社員3名が熊本地検に送検されたことは、誠に遺憾に存じます。「96年時点では、再現試験や部品回収を通じ発生頻度、被害の程度などを総合的に判断した結果、リコールが必要との判断には至らなかった。04年度3~4月に3件の報告を連続して受けたことから再調査し、同年10月にリコールを実施した。送検された3名の対応に落ち度はなかったと考えております。今後も熊本地検の捜査に全面協力させていただきます」とのコメントを発表した。
7月13日、国土交通省が道路運送車両法に基づく報告書提出をトヨタに指示。
7月14日、国土交通省担当者が熊本県警を訪れ、リレーロッドの折損情報は92年から04年までに国内外のディーラからトヨタ自動車に約80件寄せられていたことなど、事件の説明を行った。
7月20日、トヨタ自動車の渡辺社長は記者会見し「規模拡大で(品質が)少しおろそかになっている可能性はある」と認め、品質保証・管理体制の見直しを表明した。
7月21日、国土交通省は、トヨタ自動車の情報共有や部署間の連携が不十分だったとして業務改善を指示し、8月4日までに改善報告を提出するようにトヨタ自動車に求めた。
対策 トヨタ自動車では、以下の再発防止策を国土交通省に提出した。
1.重要な不具合を専任で処理する社内組織の増強
2.いったんリコールを不要と判断しても、新たな不具合情報が入れば速やかに再検討できるよう、品質情報システムを改善
3.リコール検討会の検討結果の保存期間を10年から20年に延長
4.リコール業務の監査を年1回から当面4回に増加
知識化 1.不具合による予想される被害レベルは、限定的に考えられる傾向がある。最悪の事態を想定する必要がある。
2.リコールは事故の発生頻度と結果として起こりうる被害の程度などから総合的な判断で行われる。自分がその事故に最初に巻き込まれることもあり得る。
3.リコールで設計変更されても販売済みの製品に対応されるとは限らない。
4.虚偽の報告はしっぺ返しが大きい。トヨタ自動車の場合は、「落ち度がない」から「謝罪」への切り替わりが迅速だったため、マスコミ報道の沈静化が早かった。
5.重大な事故が起こるまで、十分な対策は実施されない。
6.「流用設計」は不具合の原因を作る危険性が高い。
背景 2004年に起こった三菱ふそうトラック・バスのリコール隠し問題などを機に、自動車各社がリコールを届け出る傾向が強まっているとはいえトヨタの増加ぶりはすさまじい。台数は05年まで2年連続で180万台を突破、7月20日現在ですでに100万台を超えていた。米国でもハイブリッド車「プリウス」など4車種でエンジンのセンサーの不具合などから合計約40万台を届け出ていた。トヨタ自動車は、03年3月期以降、世界販売台数を毎年50万台以上増加のペースで伸ばしてきていた。この販売台数急増による品質確保への影響が懸念される。
よもやま話 国土交通省によると、リコール放置による業務上過失傷害容疑などによる立件は、99年に滋賀県警が富士重工のレガシィ、02年に熊本県警などが三菱自動車のパジェロ、04年に神奈川県警、山口県警が三菱自動車(三菱ふそうトラック・バスに分社化)の計4件のみで、トヨタ自動車は本件が初めてであった。
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、仮想演習不足、組織運営不良、運営の硬直化、計画・設計、流用設計、誤対応行為、連絡不備、リコールせず、破損、破壊・損傷、身体的被害、負傷、組織の損失、社会的損失
情報源 http://www.mlit.go.jp/jidosha/recall/recall04/10/recall10-262.html
毎日新聞、2006-07-12
日本経済新聞(夕刊)、2006-07-20
負傷者数 5
マルチメディアファイル 図2.不具合箇所と対策
備考 事例ID:CZ0200704
分野 その他
データ作成者 張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)