失敗事例

事例名称 北海道竜巻被害
代表図
事例発生日付 2006年11月07日
事例発生地 北海道佐呂間町
事例発生場所 工事事務所近辺
事例概要 「F3」スケールの竜巻が突然佐呂間町若佐のトンネル工事作業用のプレハブ事務所を襲った。プレハブ事務所兼宿舎の二階部分と二階の会議室で工事の打ち合わせをしていた作業員9名のうち7名が、100m程度南側に離れた工場敷地まで飛ばされた。大型の竜巻は急激に発達してきた寒冷前線を伴う低気圧のために発生した。
死者9名、負傷者29名、住家被害38棟、非住家被害63棟の惨事となった。
事象 午後1時20分ごろ、小雨の降る中、突然「F3」スケールの竜巻が「ゴー」という音とともに佐呂間町若佐のトンネル工事作業用のプレハブ事務所を襲った。プレハブ事務所兼宿舎の二階部分と二階の会議室で工事の打ち合わせをしていた作業員9名のうち7名が、100m程度南側に離れた工場敷地まで飛ばされた。
死者9名、負傷者29名、住家被害38棟、非住家被害63棟の惨事となった。
経過 11月7日、その日の午前11時40分の最高気温18.4℃と平年より9℃も高く9月下旬並みの気温であった。午後1時20分ごろ、小雨の降る中、突然竜巻が「ゴー」という音とともに佐呂間町若佐のトンネル工事作業用のプレハブ事務所を襲った。プレハブ事務所兼宿舎の二階部分と二階の会議室で工事の打ち合わせをしていた作業員9名のうち7名が、100m程度南側に離れた工場敷地まで飛ばされた。
竜巻は、佐呂間中園の農園付近から、北北東方向の若佐神社に向かって長さ約1400m、幅は最大で約300mの帯状で、ほぼ連続的に民家を巻き込んで時速約80km/h(推定)の速さで走り抜けた(図2)。
目撃証言と映像から、竜巻に特有の漏斗雲が確認された。竜巻は、日高地方に発生し(午前10時50分頃)、3時間かけて湧別を駆け抜けていた。竜巻の強さは藤田スケール(表1)で「F3」であった。死者9名、負傷者29名、住家被害38棟、非住家被害63棟の惨事となった(2006年11月22日現在、北海道調べ)。
原因 1.寒冷前線に伴う発達した積乱雲が通過し、この積乱雲に伴って竜巻が発生した。
2.寒冷前線の前面には南から、暖かい空気が入り、後面には冷たい空気が入り水平方向の温度差が顕著であった。
3.上空1500m付近の気温は5.0℃で平年より7.9℃高く、一方5000m上空は、-22.5℃で平年より2.1℃高いが、温度差が通常より大きく大気の状態が不安定であった。
(図3:積乱雲は右図の赤丸の位置で発生し矢印方向に移動した)
対処 11月7日13:40、佐呂間町で佐呂間竜巻災害対策本部が設置された。
14:30、官邸情報連絡室および内閣府情報連絡室を設置。
16:40、北海道災害対策本部が設置された。
17:30、佐呂間町が自衛隊に物資(毛布)の支援のため災害派遣要請。
~11月8日、政府調査団および知事が被災地現場等調査。
11月8日9:45、佐呂間町が自衛隊に倒壊家屋等の撤去のため災害派遣要請。
11月8日、佐呂間町が災害救助法および被災者生活再建支援法の適用決定。
対策 アメリカでは、竜巻の発生予測や竜巻をもたらす「スーパーセル」の監視のためのドップラーレーダー網が充実している。日本でも気象庁初め大学や研究機関がドップラーレーダーによる観測が始まっており、今後の整備が期待される。
知識化 1.「いつもと違う」は、異常現象の前触れである。
この日の気温は、平年より9℃も高かった。
2.竜巻に対する備え(Canadian Direct Insurance社のHPより抜粋)
(1)竜巻の危険を示すもの
・暗く、ときには緑がかった空(積乱雲の発生)となり、大きなあられが降り、「ゴー」という音がする。
・漏斗雲が見えなくても、竜巻が巻き上げる飛来物でその場所を知ることができる。
・竜巻が来る前に風が弱まり、あたりが大変静かになることが多い。
・竜巻はふつう雷雨の後にやってくるが、竜巻の背後には太陽に照らされた空が見えることが多い。
(2)竜巻に襲われそうになったらどうする。
a.家の中の場合
・窓から離れる。
・窓のない部屋や地下室など出来るだけ低い場所に行く。地下室がなければ、窓のない廊下や浴室やクロゼットのような狭い場所に行く。
・飛来物を避けるため部屋の中央へ避難する。
・重いテーブルや机などの下に入りしっかり掴む。
・頭や首を腕で保護する。
b.職場や学校の場合
・地下や最も低い階の廊下に行く。
・公会堂や食堂やショッピングモールなどワイドスパンの天井の建物は避ける。
c.戸外の場合
・できるだけ建物の中へ。
・中に入る時間がないときには、溝か低い場所に横たわるか、しっかりしたビルの近くで、頭や首を腕で保護して屈む。
d.車の中にいた場合
・車から出て近くのビルへ避難する。決して運転を続けるな。竜巻は急に方向を変えて、車を巻き上げてしまう。
・ガード下も危険な場所である。
背景 この年は、9月に宮崎県延岡市で竜巻による犠牲者が3人のほか、10月には台風並みの強風で漁船や貨物船が座礁するなど自然災害が続いていた。防衛大学の小林文明助教授(気象学)によると、近年は日本の冬の大気の対流活動が活発になって積乱雲ができやすくなっている、という。現在グローバルな問題として取り上げられている地球温暖化により、海上の水温が高くなってきているのであろうか。
よもやま話 「竜巻」は、寒冷前線通過などで発生する突風の1つである。寒冷前線に接する暖気で発生する強い雨雲「積乱雲」の発達に伴って発生し、高速で地表から巻き上がる気流をいう。逆に積乱雲から吹き下ろし、地表にぶつかり周囲に広がる気流が「ダウンバースト」といわれる。
気象庁気象研究所では、「雲解像モデル」による再現実験によって、今回の竜巻は強い上昇流域と下降流域を対となる「スーパーセル」に伴って発生したことを確認している(図3の右図)。米国で多く発生する強力で寿命の長い竜巻(通常の竜巻は1時間程度)は、この「スーパーセル」に伴うものである。「雲解像モデル」とは、1~2km以下の水平解像度を持つ数値気性モデルの1つで、水物質(雲水・雲氷・雨水・雪・あられ)を直接予報することにより水平スケールが10kmほどの積乱雲を直接表現できる。水平解像度を高めることで、積乱雲に伴って発生する竜巻やダウンバーストといった顕著な大気現象を再現できる可能性がある。
シナリオ
主シナリオ 未知、異常事象発生、調査・検討の不足、環境調査不足、無知、知識不足、非定常動作、状況変化時動作、破損、大規模破損、身体的被害、死亡、社会の被害、社会機能不全
情報源 平成18年11月7日から9日に北海道(佐呂間町他)で発生した竜巻等の突風、札幌管区気象台HP、http://www.sapporo-jma.go.jp/saigai/saroma/saroma.html
http://stellar.lowtem.hokudai.ac.jp/research/papers/saroma.pdf
日本経済新聞、2006-11-08
佐呂間町で発生した竜巻をもたらした積乱雲の再現実験(雲解像モデルによる)においてスーパーセルを確認、気象庁気象研究所、2006-11-17、http://www.jma.go.jp/jma/press/0611/17a/mri20061117.pdf
http://canadiandirect.com/Home/Safty/Tornados.aspx
死者数 9
負傷者数 29
物的被害 家屋被害38棟、非住家被害63棟
被害金額 5億8千万円
マルチメディアファイル 図2.竜巻を伴った積乱雲の異動図(左図)、佐呂間町周辺の積乱雲の移動図(右図)
図3.11月7日12時の地上天気図(左図)、水平解像度250mの雲解像モデルによる13時20分での高度1kmの気温分布(右図)
表1.藤田スケール
備考 事例ID:CZ0200707
分野 その他
データ作成者 張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)