事例名称 |
ドイツ、リニア衝突 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2006年09月22日 |
事例発生地 |
ドイツ北西部、ラーテン(Lathen) |
事例発生場所 |
リニアモーターカーのモノレール軌道上 |
事例概要 |
リニアモーターカーの実験線で29名を乗せた車両が、軌道上にいた保守車両と衝突し、23名の死者と10名の負傷者を出した。運行管制センターの運行オペレータが、軌道上の異物を確認する保守車両が走行軌道上から退避する前に、リニアモーターカー車両を発車させてしまったためである。また、事故以前にリニアの運営会社側は、保守車両に安全対策を取るよう提案していた現場の声も無視していた。 |
事象 |
リニアモーターカーの実験線で29名を乗せた車両が、約200km/hで走行中軌道上にいた保守車両と衝突し、23名の死者と10名の負傷者を出した。 |
経過 |
2006年9月22日午前9時30分ごろ、ドイツのオランダ国境近く(図2)のリニアモーターカー「トランスラピッド」の実験線(図3.DoerpenとLathen間31.8km)で、地元の見学者やトランスラピッド運行会社の従業員ら乗客計29名を乗せたリニアモーターカーが、ラーテン出発後約1km地点を約200km/hで走行していた。ところが、モノレールの軌道上にいる筈のない保守車両(毎朝、軌道上の異物の有無などの点検を行う。2名の軌道保守点検作業員が乗車)が前方に現れ、そのまま衝突した。3両編成のトランスラピッドの車両は先頭車両が保守車両の後部にめり込み大破、トランスピッドの車体と保守車両の破片は高架下に飛び散った。 この事故で23名の死者と10名(内2名は点検作業員)の負傷者がでた。 事故直後、運行会社のIABGのスポークスマンは、この事故の原因は「技術的欠陥」でなく「ヒューマンエラー」と述べた。 |
原因 |
1.「トランスラピッド」の運行オペレータの確認ミス 保守車両にはGPSが搭載されており、運行管制センターの運行オペレータは、モニターで軌道上の保守車両の存在を知ることができるが、「トランスラピッド」を発車させてしまった。 2.保守車両がリニアモーターカー走行軌道上にいる場合の自動停止システム(上記人的ミスのカバーのため)がなかった。 リニアを運行していたIABG社は数年前、現場から「保守車両にも安全対策を施すべきだ」との提案を受けながら、衝突防止装置など安全策を実施しなかった。同社は「監督官庁である州に認めてもらえなかった」と釈明した。 3.実験線ということで、運行管理の安全面に甘さがあった。 4.また、保守車両の作業員は、リニアモーターカーが走行を開始することを知ることが出来なかったようである。それはリニアモーターカーと運行運行管制センター間の通信システムと作業員の通信システムが異なっていたからである(一部の報道より)。 |
対処 |
消防員等が事故現場に急行。軌道は地上約4mの高さのため困難を極め、ハシゴやクレーン車を使い、約150名の人員体制で救助に当たった。 一方事故直後、ドイツ交通大臣は、本システムの開発会社の親会社のSiemensAG社およびThyssenKrupp社の代表者と緊急会議を開催し、「何故トランスラピッドシステムの安全装置が働かなかったのか」、「何故、走行車両の走行時、工事車両が軌道上にいたのか」など、事故原因の究明を命じた。 |
対策 |
不明(官も関係する大プロジェクトのためか、それとも商談のためか、詳細な事故原因や対策についての情報が見当たらない) |
知識化 |
1.人の判断は、ときには間違える場合もあり、その際の対応策が必要である。 2.実験においては、安全に対する配慮が低下することがある。 実験線といえども安全に関しては、商用線と同等なレベルが要求される。 3.安全対策は、実際に事故が発生しないと実施されない。 4.当事者のコメントは、当事者の利益を考慮した形で行われる。 運行会社のスポークスマンが、事故後十分な調査がなされていないのに、いち早く事故の原因を「ヒューマンエラー」と説明したのは、事故後の商売への影響を恐れた発言と思われる。多くのマスコミもこれを受けて「ヒューマンエラー」と報道した。 |
背景 |
「トランスラピッド」はドイツ政府が1970年台から、巨額の補助金を投入して実用化を目指す事業であった。本リニアモーターカーは、車両の推進にリニアモーター(車両および軌道側に電磁石を備えて推進するシステム)を使うとともに、浮上にも電磁石磁力の反発力を利用し車輪と軌道面にすきまを作り、走行抵抗を下げる磁気浮上式(Magnetic Lavitation:略してMaglevという)リニアモーターカーであり、1984年から実験線での走行を開始していた。このシステムは電機大手SiemensAGと鉄鋼大手ThyssenKruppの合弁会社の「トランスラピッド・インターナショナル」が開発したものである。実験線は、リニアモーターカーとして世界最長規模で最高時速450km/hを記録しており、本システムの宣伝として試乗が行われていた。 実際商用に運行しているのは、同社が開発した中国の上海空港と市内を結び約30kmを8分弱で駆け抜ける高速シャトルのみである。このシャトルは8月に火災事故を起し、幸い負傷者はいなかったが、その安全性が問われていた。当時この路線を杭州まで路線延長するための商談真っ最中であった。 また、ドイツ内ではミュンヘン空港とミュンヘン市中心を結ぶ次世代の交通手段として検討されていたが、従来列車と比べそのコストの高さが課題となっていた。 |
よもやま話 |
日本では、JR東海と鉄道総合研究所が最高時速500km/hの超伝導リニアモーターカーの実用化を目指し、山梨県の実験線(約18km)で走行試験を続けており、2003年12月には世界最速の581km/hを記録している。試験走行には事前に保守車両を走らせ、軌道上の異物の無いことを確認して、保守車両を軌道から除いている。リニアの運転はすべて運行管制センターで制御されて、基本的に1本の軌道上には1編成の車両しか走行させないようにしている。 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、誤判断、誤認知、手順の不遵守、手順無視、使用、運転・使用、定常操作、手順不遵守、破損、破壊・損傷、身体的被害、死亡、組織の損失、経済的損失
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情報源 |
http://en.wikipedia.org/wiki/2006_Lathen_maglev_train_accident
朝日新聞、2006-09-23
毎日新聞、2006-09-23
http://transrapid.de/cgi-tdb/en/basics.prg?a_no=53
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死者数 |
23 |
負傷者数 |
10 |
全経済損失 |
中国の商談が延期 |
マルチメディアファイル |
図2.事故発生場所
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図3.実験コース
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備考 |
事例ID:CZ0200708 |
分野 |
その他
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データ作成者 |
張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)
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