事例名称 |
中越地震 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2004年10月23日 |
事例発生地 |
新潟県中越地方 |
事例発生場所 |
丘陵地 |
事例概要 |
M(マグニチュード)6.8の内陸直下型地震が発生し、死者46名、負傷者4801名、住宅全壊2827棟、住宅半壊12746棟、住宅一部101509棟、建物火災9件の被害が発生した(2005年3月18日現在、消防庁調べ)。夏の集中豪雨や台風の雨による地盤の緩みも影響し、被害が拡大した(図2)。また、長く続いた余震(今回の地震の特徴)や厳しい避難生活によるショック・ストレス・疲労などで死者の数が増加した。 |
事象 |
新潟県中越地方にM6.8の内陸直下型地震が発生し、死者46名、負傷者4801名、住宅全壊2827棟、住宅半壊12746棟、住宅一部101509棟、建物火災9件の被害が発生した。同年の7月13日の集中豪雨や、台風の雨により地盤の緩みがあった。本震の後も余震が数週間続き、10万人を超える人々が長い避難生活を強いられた。 |
経過 |
2004年は7月13日の記録的な雨量(400mm/hを越す)の「新潟・福島豪雨」や、過去最多の10個の台風上陸に伴う雨など、非常に雨量が多い年であった。 10月23日午後6時近くに(17時56分)、震源地が新潟県中越(北緯37度17分、東経138度52分)深さ約13km、M6.8の内陸直下型の地震が発生した。 北魚沼郡川口町(以下、旧市町村名で表記)で震度7、小千谷市・山古志村、小国町で震度6強、長岡市などで震度6弱、中之島町などで震度5強、長野県三水村で震度5弱であった。M6.8の本地震ののち、約40分の間M6.0から6.5(18:34)の大きな余震が発生した。 その後も数週間にわたってM5以上(震度5弱~6弱)の余震が続いた。本震とこの余震による大きな揺れによって、多数の土砂崩れが発生し小千谷市を通る国道291号線を含む多くの箇所で土砂崩れと道路陥没により寸断され、山古志村は孤立した。家屋の損壊も多く、地震発生から3日後の10月26日には約10万3千人を超す人たちが、避難生活を開始した。その後11月3日に59643人、11月10日に16089人と次第にその数は減少していったが、多発する余震のなか、厳しく長い避難生活を余儀なくされた。阪神・淡路大震災を経験した人など多くのボランティアが支援活動を展開した。 この地震で、死者46名、負傷者4801名、住宅全壊2827棟、住宅半壊12746棟、住宅一部101509棟、建物火災9件の被害が発生した。 |
原因 |
1.地震発生の原因 この地域の過去の地震メカニズムと類似の北西ー南東圧縮の逆断層型の地震である(図3)。 2.死者が多くなった要因 地震時および地震後のショック・ストレス・過労によるものが多く、避難生活により肉体的・心理的な負担が大きかったことも要因と考えられる(図4)。また、避難中の車内で地震によるストレスに起因する疾患で死亡するケースもあった。 3.物的被害が大きくなった要因 地震以前の大雨による地盤の緩みと地震との複合作用が被害を拡大した。 |
対処 |
地震発生直後、災害対策本部を立ち上げた新潟県は地震発生の約1時間半後(午後7時20分頃)、総務省消防庁に「緊急消防援助隊」の派遣を要請。これに応えて消防庁は、仙台市の指揮支援隊と埼玉県隊、続いて、山形、富山、福島、東京、神奈川の都県隊に次々と出動を要請した。この緊急消防援助隊や広域緊急消防援助隊の制度は、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災で得た教訓に基づき発足し、その後着々と整備されてきたものである。 その成果の1つが、地震発生から92時間30分後の東京消防庁のハイパーレスキュー隊による2歳男児救出である。男児は、母親の運転する車に3歳の姉と一緒に乗っていたが、長岡市妙見町の県道589号線で起こった土砂崩れに車ごと巻き込まれていた。大きな余震が続く中での男児救出は困難を極めたが、その現場に近い信濃川沿いにハイパー指揮隊、崩落現場全体を見渡せる信濃川上流に警戒監視員、信濃川下流に長野県隊、現場上空に消防庁のヘリ、信濃川対岸に栃木県隊、橋の上に新潟県内消防本部の応援部隊など広域緊急消防援助隊制度ならではの万全のバックアップ体制が組まれていた。 一方、民間ボランティアや企業による以下のような多くの支援がなされた。 1.災害救助犬の派遣(各民間協会より) 2.伝言サービス(NTT東日本とNTTドコモが災害用伝言ダイヤルおよびiモード災害用伝言板サービスを提供) 3.安否情報放送(NHKが断続的に個人の安否情報を放送) 4.メーカー、スーパー、外食産業などによる医薬品、飲料水・食料、日用品、その他の無償提供 5.企業、個人からの義援金 |
対策 |
中越地震に係る特例措置として、急傾斜地崩壊および防災がけ崩れ対策事業で以下を実施した。 ・斜面について従来の自然斜面に加え人工斜面(宅地擁壁等)も対象とする。 ・がけ高を10m(人家に被害があった箇所は5m)を人家に被害があり、更に周辺住民に二次的被害が生じるおそれがある場合は、3m以上とする。 ・ライフライン等の公共施設に被害のおそれがある場合も対象とする。 また、気象庁は地震の発生直後に、震源に近い地震計でとらえた観測データ(P波とS波の伝播速度の違いを利用して)を解析して震源や地震の規模を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到着時刻や震度を推定し、素早く知らせる「緊急地震速報」を開始した(図5)。この情報を利用して、列車やエレベータの危険を回避したり、工場、オフィス、家庭などで避難行動をとって被害を軽減することが期待される。 なお、地震発生の予知可能性については、様々な方法が検討されているが、現時点では研究段階である。 |
知識化 |
1.多量の降雨後の地震は、大きな被害となる。 2.地震後のストレスが犠牲者を多くする。 被災後の被災者への精神的なケアが非常に大切である。 10月26日に阪神・淡路大震災の経験を持つ「兵庫県こころのケアセンター」が地元の精神医療センターと協力して活動を開始したが、そのケアーチームの案内を紹介する。 「おしらせ」 突然降りかかってくる災害、災害に巻き込まれると、誰もが不安やショックを感じ、こころやからだにいろいろな変化が起こってきます。 たとえば、こんなことがあります。 (1)こころの変化 ・イライラする ・涙もろくなった ・人と話す気にならない ・ちょっとした音などに驚く (2)からだの変化 ・眠れない ・疲れる・だるい ・頭痛・肩こり・めまい ・食欲がない ・便秘・下痢 こういったことは、災害後にはよく起こることです。家族や友人などの信頼できる人に気持ちを聞いてもらうことで落ち着くこともあります。自分や家族だけで対応できないときは、ご遠慮なさらずに下記の相談窓口をご利用ください。 「こころのケア相談所 090-2677-XXXX」 |
背景 |
独立行政法人防災科学技術研究所の「平成16年10月地震・火山月報(防災編)」によれば,新潟県小千谷市を震源とする新潟県中越地震を含め、日本海側でこれまで発生したM7前後以上の被害地震を北から羅列すると、以下の通りになる。 ・ 1940年 神威岬沖地震 M7.5、死者10人 ・ 1993年 北海道南西沖地震 M7.8、死者202人 ・ 1983年 日本海中部地震 M7.7、死者104人 ・ 1964年 新潟地震 M7.5、死者26人 ・ 1828年 三条地震 M6.9、死者1443人 ・ 2004年 新潟県中越地震(今回) M6.8、死者40人(2004年11月17日現在) ・ 1847年 善光寺地震 M7.4、死者数千人 これらの地震をプロットしてみると、一つの帯状の地域が浮かび上がるが、これをユーラシアプレート内の歪集中帯であるとする考え方のほか、ユーラシアプレートと北米プレートとの新たな衝突境界(図6中破線で示す)が生まれつつあるとの見方もある。 |
よもやま話 |
上越新幹線の東京発新潟行き「とき235号」は、長岡駅手前の滝谷トンネルを抜けたところで、今回の地震で震度6強の本震に遭遇した。時速約200kmで走行中であったが、脱線後レールや締結装置を破壊しながら、約1400m走り止まった。全部で40軸ある車輪のうち22軸が脱線していたが、大きく線路から脱線していた車両は最後尾の1号車のみであった。新幹線の脱線事故は開業以来始めてで、マスコミは「新幹線の安全神話の崩壊」という見出しで大々的に報じたが、奇跡的に151人の乗客全員にけがはなかった。その理由は、高架橋が1995年の阪神・淡路大震災の教訓から既に橋脚の補強がなされていたこと、線路が直線部であったこと、および線路上の石などをはね飛ばす「排障器」の一部がレールを挟んでいた「幸運」による。 |
シナリオ |
主シナリオ
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未知、異常事象発生、環境変化への対応不良、使用環境変化、非定常動作、状況変化時動作、ストレス、使用、廃棄、破損、大規模破損、精神的被害、精神的損傷、身体的被害、死亡、社会の被害、社会機能不全、組織の損失、経済的損失
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情報源 |
http://www.hinet.bosai.go.jp/topics/niigata041023/
http://www.sc.niigata-u.ac.jp/geology/saigai/021.pdf
http://j-jis.com/jishin/niigata/index.shtml
http://www.fri.go.jp/pdf/shiryo/shiryo_no69.pdf
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/05/051125_.html
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol04_12/vol04_12_topics1/ vol04_12_topics1.html
畑村洋太郎、飯野謙次、失敗学会年鑑2004、特別非営利活動法人失敗学会、PAGE103-114
緊急地震情報とは、気象庁HP、 http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/EEW/kaisetsu/Whats_EEW.html
平成17年度国土交通白書、国土交通省HP、 http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h17/hakusho/h18/index.html
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死者数 |
46 |
負傷者数 |
4801 |
物的被害 |
住宅全壊2827棟、住宅半壊12746棟、住宅一部101509棟、建物火災9件 |
マルチメディアファイル |
図2.土砂災害の状況(新潟県山古志村(現長岡市))
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図3.逆断層と正断層
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図4.死者の内訳
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図5.緊急地震速報
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図6.日本列島付近のプレートとその動き
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備考 |
事例ID:CZ0200719 |
分野 |
その他
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データ作成者 |
張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)
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