事例名称 |
タイヤ工場火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2003年09月08日 |
事例発生地 |
栃木県黒磯市 |
事例発生場所 |
ブリヂストン栃木工場内のタイヤ製造工場 |
事例概要 |
ブリヂストン栃木工場の精錬棟で火災が発生した。消防車、ヘリコプター、無人放水ロボットなどが出動し消火活動を行ったが、46時間半にわたって燃え続け、半径1キロ以内の住民5000人以上が避難した。出火原因は、タイヤ用の板ゴムを製造している3階建ての建物で、1階の精錬機3号機付近の床に開いた穴を埋めるため、溶接作業中に溶接火花がタイヤ原料に引火したためである。 |
事象 |
ブリヂストン栃木工場のタイヤ用の板ゴムを製造している3階建ての建物(精錬棟)で、1階の精錬機3号機付近の床に開いた穴を埋めるため、溶接作業をしていたところ、溶接の火花がタイヤの原材料に引火し火災が発生した。消防車、ヘリコプター、無人放水ロボットなどが出動し消火活動を行ったが、46時間半にわたって燃え続け、半径1キロ以内の住民5000人以上が避難した。 |
経過 |
2003年9月8日12:00、タイヤ用の板ゴムを製造している3階建ての建物(精錬棟)で、1階の精錬機3号機付近の床に開いた穴を埋めるため、事前の届け出と立会人なしに、溶接作業をしていたところ、溶接の火花がタイヤの原材料に引火し火災が発生した。 工場2階にいた職員が精錬機3号機の1階部分から火柱が出ているのを発見した。 従業員15人が工場内の消火器具を使って消火を試みたが、手に負えなくなって消防へ連絡した。 出火後3時間40分で、精錬棟北側に野積みしてあった出荷用タイヤに延焼し、棟建物、設備、原料、商品などを全焼した。 9月10日(2日後)10:30頃、ようやく鎮火した。 |
原因 |
1.人的要因 ・火気を伴う溶接作業について、事前の届け出と立会人のの必要を規則として定めていたにもかかわらず、火災の原因となった溶接作業は無届けかつ立会人も不在であった。 ・従業員らのタイヤ火災に対する知識が不十分であったことから、消防への連絡が遅れ、火災の規模が拡大した。 2.組織的要因 ・精錬棟内に材料、薬品類が少なくとも670トンおよび出荷用タイヤが15万トンもあったが、内部には防火シャッターがなかった。別棟への延焼は、棟同士をつなぐ連絡通路の防火シャッター14機によって防ぐことができた。 ・ブリヂストン栃木工場内には安全対策規定はあったものの、それらを従業員らに確実に遂行、遵守させるための教育や訓練が不十分であった(熟練従業員減少の影響および経営者側のリスクマネジメントの欠如)。 |
対処 |
事故発生直後に、地元黒磯市による災害対策本部が設置された(鎮火に至る9月10日まで活動)。 火災の黒煙や、膨大な台数の消防車両の出入りにともなう交通混乱を防ぐため、県警による交通規制が行われた。 9月8日午後1時に、周辺半径1キロ以内の住民1708世帯、5032人が近郊の学校に避難した。 9月9日7:00、避難解除。 栃木県警捜査一課と黒磯署は、出火原因の捜査に当たった。 また、県環境管理課によるブタンガス遮断処置や大気簡易計測、県大田原土木事務所による近郊河川へのオイルフェンス・マットの設置、県那須農業振興事務所による農作物の被害状況調査など、大気、水質、土壌汚染を防止する環境保護対策もとられた。 |
対策 |
2003年8月から9月にかけて、エクソンモービル名古屋油槽所、新日鉄名古屋製鉄所の事故、本事故そして出光興産北海道製油所の火災など、相次いで起こった大規模産業事故を受けて、経済産業省は「産業事故対応会議」を設置し、100件にのぼる産業事故について企業へのヒアリング調査を行った(図2:若年・中堅労働者の減少、図3:経験の浅い方が事故が多い)。 その結果、製造業現場における事故の76%を占める人的要因による事故を防ぐ手段として以下の4点を挙げ、国内企業に勧告を行った。 1.製造現場における、保安技能の伝承と中堅・若手への保安教育実施の徹底 2.バランスの取れた年齢構成への配慮 3.熟練技能者・中堅・若手が一体となった、技能伝承および保安教育への取り組み 4.熟練技能者のノウハウの相互共有により、従業員全ての保安意識の向上を図る |
知識化 |
1.「タイヤは燃料の塊」一度火が着いたら、消火は困難である。 2.安全規定は容易に破られる。 3.初期対応の遅れが被害を大幅に拡大する。 4.組織における技術伝承は重要な課題である。 |
背景 |
日本の製造業の就業者数は1992年の1569万人をピークに減少し、2002年には1222万人と、10年間に347万人減少していた。このうち約3割の99万人の減少が2001年および2002年の2年間で起こっていた。管理部門を除いた生産労働者数もこの10年間で約2割減少していた。この結果、団塊世代を中心とする世代の高齢化に伴って、製造現場の中核となる中堅層および若年層の割合も減少していた(図4)。 ブリヂストンでも、リストラの一環として1999年3月に役職定年者および57歳到達者が無条件で退職勧告を受ける制度を取り入れた。実際には退職金上乗せの優遇条件のもとに、定年到達前に自主退職するケースが退職者全体の3割以上占めていた。このバランスの欠いた人員削減が保安技術の伝承や最低保安人員数の確保に影響したのではなかろうか。 |
よもやま話 |
タイヤ原材料のうち、最も大きな割合を占めるゴム(天然、合成)は発熱量が11000カロリー/グラムと非常に高く、木材の約3倍である。そのため一度着火すると、その熱分解を絶つのは困難で、一般的にタイヤ火災は鎮火に時間がかかり、規模も大きくなりやすい。「タイヤは燃料の塊」といわれる所以である。また、タイヤはチューブ形状から、特に縦積みや山積みになったタイヤの輪内部は、消火用の水や薬剤が届きにくく、消火活動の大きな妨げになる。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、組織運営不良、管理不良、価値観不良、安全意識不良、手順の不遵守、手順無視、無届、非定常操作、操作変更、誤対応行為、連絡不備、使用、保守・修理、不良現象、熱流体現象、発火、タイヤ、燃焼、組織の損失、経済的損失、社会の被害、社会機能不全、住民避難
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情報源 |
畑村洋太郎、飯野謙次、失敗年鑑2003、特定非営利活動法人失敗学会、PAGE55-66
産業事故調査結果の中間取りまとめ、経済産業省、2003-12-16、http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g40220b20j.pdf
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
精錬棟全焼、商品の乗用車用スタッドレスタイヤ15万本以上焼失 |
被害金額 |
350億円(工場のみ) |
社会への影響 |
1708世帯、5032人が避難 |
マルチメディアファイル |
図2.製造業における生産労働者の世代の波
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図3.経験期間別、不安全行動に伴う事故の出現率
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図4.製造業における生産労働者の年代構成、平成4年(1992年)VS平成14年(2002年)
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備考 |
事例ID:CZ0200722 |
分野 |
その他
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データ作成者 |
張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)
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