事例名称 |
エキスポランド ジェットコースター事故 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2007年05月05日 |
事例発生地 |
大阪府吹田市 |
事例発生場所 |
遊園地のジェットコースター |
事例概要 |
ゴールデンウィークの午後、千里万博公園「エキスポランド」のジェットコースターで、ジェットコースターの車輪が突然レールから脱輪し、車体が傾き、搭乗者1名が車両と左側の鉄柵に頭を挟まれて死亡、負傷者21名の犠牲者を出した。車輪を支える軸のねじ部が疲労破壊で、切断したため、車輪がレールから脱輪した(図2)。 |
事象 |
エキスポランドの6両編成のジェットコースター「風神雷神II」で、「風神」に22 名が乗車し走行していたところ、2両目左側の車輪を支える合金製軸が突然折損して、車両がレールから脱輪し、車体が左側に約45度傾き、搭乗者1名が車体とレール左側の鉄柵に頭を挟まれで死亡、21名が負傷し、地上で事故を目撃した入場客ら13名が、気分を悪くして病院へ搬送された。 |
経過 |
2007年1月30 日、千里万博公園の遊園地「エキスポランド」で実施されたジェットコースターの定期検査は目視で行われ、すべての検査項目が「A(指摘なし又は良好)」として、吹田市(特定行政庁)に報告されていた。 ゴールデンウイーク中の5月5日、立ち乗りのジェットコースター「風神雷神II」は、6両編成の「風神」および「雷神」がペアで交互に運行していた。 12時50分頃、「風神」は乗客22 名を乗せてレール上を走行していた。 「風神」は終点手前の約300m付近で、突然6両編成の2両目がレールから脱輪し、車体が左側に大きく傾き、搭乗者が車体とレール左側の鉄柵に頭を挟まれて死亡した。他の乗客21名も負傷した。 また、地上で事故を目撃した入場客ら13名も、気分を悪くして病院へ搬送された。 |
原因 |
1.車輪が脱輪した原因 左側の車輪を支える車軸ブロックの軸が折断した(図3、図4、図5)。 2.軸折断の原因 軸を固定するナットの締結不十分に起因するねじ部の疲労破壊により切断した。疲労破面が全破面の70%以上を占め最終破断面が小さいことから、疲労破壊の原因となる繰り返し応力は低い(図6、図7、図8)。 ・1月30日に定期検査を行ったが目視で行われ、本来行われるべきJIS検査基準である軸の探傷試験(注)は実施しなかった。そしてすべての検査項目が「A(指摘なし又は良好)」として、吹田市(特定行政庁)に報告されていた。 ・定期検査の際に実施する分解点検は、5月15日に先送りされていた。 ・検査がのぞき窓からの作業となるため確認が不十分となった。 3.ナット締結不十分の原因 ・ジェットコースターは遊具であっても乗物である。そして運行(機械の運動)に伴う経時変化への対応は不可欠である。それにも拘わらず危険の存在を軽視し、定期検査報告制度などが形骸化していた。 事故後に「雷神」を調査したところ、「風神」の軸切断と同じ箇所に目視で確認できる亀裂が発見された。いずれ同様の事故が起こる危険な状態であった。 ・軸がテーパーとなっている構造では、いつかはナットにゆるみが生じてしまう。 (注)探傷試験 素材、製品などを破壊せずに、欠陥(亀裂・摩耗)の有無などを調べる非破壊試験の一種である。特に、遊戯施設における探傷試験は、車輪装置の目視では分からない亀裂などを調べるために行われ、磁粉探傷、超音波探傷又は浸透探傷の方法がある。 |
対処 |
2007年5月6日、国土交通省は全国の遊戯施設を監督する特定行政庁に対し、コースター等の遊戯施設の所有者等に車輪、車輪軸、軸受、台車及びそれらの取付部並びに軌条について、緊急点検(車輪軸は探傷試験(上記注))の実施及び点検結果の報告を要請した。同時に遊戯施設の点検整備及び適切な運行管理を図るよう依頼した(第1次緊急点検)。 5月18日時点で、緊急点検を終えた103施設の256基のうち、車軸、車輪、レールに亀裂、破損があったのは、5施設の7基であった。また、探傷試験の実施については、139施設306基の回答では、設置後1年以上の297基のうち、過去1年以内に車軸の探傷試験を実施していなかったのは89施設の119基、探傷試験を1度も実施していなかったのは、61施設の72基であった。 |
対策 |
2007年5月23日、国土交通省は、第1次緊急点検で約4割の遊戯施設が探傷試験を適切に実施していないこと、JIS検査基準に基づいた定期検査、定期点検の実施が徹底されていないことから、適切な検査・点検を指示した。 |
知識化 |
1.テーパーとねじの組み合わせの構造は、いつかはゆるみを生じ、事故に至る(設計が不適切)。 2.定期検査は軽視される傾向があり、報告制度も形骸化する。 3.定期検査は、経済的理由で延期されることがある。 4.スリルの裏側には危険が潜むことを認識する必要がある。バンジージャンプなども同様である。 |
背景 |
近年、遊園地やテーマパークのコースター等の遊戯施設は、スピードとスリルが求められ、速度・加速度を増大したものや規模を大型化したものに加え、特殊な運動形態のものなど、多種多様なものが設置されるようになっていた。今回の「風神雷神II」は、新型の立ち乗りのジェットコースターであった。ジェットコースター等の遊戯施設は、昭和34年(1959年)の建築基準法(昭和25年法律第201号)の改正により法の対象(工作物)となり、遊戯施設の設置時には、法に基づく遊戯施設の安全性に関する基準に適合することについて、建築主事等の確認・検査を受けなければならず、また、その所有者又は管理者は、定期検査を実施し、その結果を特定行政庁に報告することが義務付けられていた。 また、エキスポランドの入園者は1996年の220万人をピークに減少し、ここ数年は100万人前後で推移していた。 |
後日談 |
エキスポランドはこの脱線事故を受けて休園、事故の約3ヶ月後に営業を再開するが、事故によるイメージダウンが大きく、来園者が事故前の約2割と激減して12月に再び休園となった。その後、大阪地方裁判所に民事再生法の手続きを行い支援企業を探していたが見つからず、2009年2月10日、再建を断念し破産手続きに移行し、1972年の開業から37年間の歴史に幕を下ろした。 |
よもやま話 |
2007年10月、総務省は「遊戯施設の安全確保対策に関する緊急実態調査結果に基づく勧告」として、国土交通省に対し以下を提言している。 1.特定行政庁における安全指導が効果的に行われるよう、事業者からの事故情報の報告及び各関係行政機関からの事故情報の収集を徹底するための仕組みを検討すること。その際、報告が必要な事故情報の範囲は、幅広く設定するよう検討すること。 2.報告された事故情報を同種の遊戯施設における事故防止に効果的に活用するため、独自に条例等で公表の取扱いを定めている例を参考に、事故情報を積極的に公表するよう特定行政庁に要請すること。 3.事故情報の共有化やその分析・検討に資するため、遊戯施設及び事故について更に具体的な状況を記載したデーターベースを構築し、公開すること。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、価値観不良、安全意識不良、組織運営不良、管理不良、計画・設計、計画不良、使用、保守・修理、不良行為、規則違反、破損、破壊・損傷、身体的被害、死亡
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情報源 |
小林英男、「機械システムと危険」
http://www.asahi.com/special/070505/OSK200705050005.html
毎日新聞、2007/5/5
日本経済新聞夕刊、2007/5/6
日本経済新聞夕刊、2007/5/8
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/pdf/071016_1_2.pdf
日本経済新聞夕刊、2009/2/10
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
34 |
全経済損失 |
エキスポランドの破産 |
マルチメディアファイル |
図2.事故を起こしたジェットコースタのコース
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図3.ジェットコースター車体・車輪ブロック全景
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図4.車軸ブロック取付図
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図5.軸取付状況
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図6.車軸の切断箇所
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図7.軸破断状態
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図8.軸破断面
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備考 |
事例ID:CZ0200802 |
分野 |
その他
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データ作成者 |
張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)
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