失敗事例

事例名称 那覇 中華航空機炎上
代表図
事例発生日付 2007年08月20日
事例発生地 沖縄県那覇市
事例発生場所 空港駐機場
事例概要 ボーイング737-800型機が那覇空港に着陸し、駐機場に到着直後にエンジンからの燃料漏れで出火し炎上。乗客乗員の165人は、全員無事避難した。右主翼の可動部からダウンストップ・アセンブリー(可動翼(スラット)の動きを調整する組立部品)が脱落していたことが原因であった。
事象 中華航空公司所属ボーイング737-800型機は、台北国際空港を離陸し、那覇空港に着陸し41番スポットに停止した直後、10時33分ごろ右主翼燃料タンクから漏れていた燃料に着火し炎上した。機長含め乗務員8名、乗客157名の計165名が同機に搭乗していたが、全員が非常脱出し無事であった。同機は機体の一部を残し焼失した。
経過 8月20日9:14(日本時間)、台湾の台北国際空港を離陸した中華航空CAL120便(ボーイング737-800型機)は、目的地である沖縄の那覇空港に向かった(以下図2参照)。
10:27、同機は那覇空港滑走路に無事着陸した。
10:28、同機は滑走路を走行しながら管制官の指示を受けて空港北側にある駐機位置の41番スポットに向かうため、フラップの上げ操作で減速走行した。
10:32、同機は駐機位置の41番スポットに到着した。ベルトサインが消え、乗客が手荷物を取り出し始めた。このとき地上にいた整備員が同機の右主翼燃料タンクから燃料が漏れていることを目撃した。
10:33、漏れていた燃料に着火した。整備員が火災を目撃し、機長にエンジン停止と消火装置の作動および緊急脱出を要請した。乗客は、乗員の緊急脱出の指示で全員が脱出用シューター(滑り台)で機外に避難した。乗客には幼児2人も含まれていたが無事脱出できた。
10:34頃、管制官は、空港消防、空港事務所の航空管制運航情報官および航空自衛隊に火災発生による出動要請を行った。
10:35頃、空港消防は化学消防車2台および給水車1台の消防車両を出動させた。那覇市消防も非番の同本部職員から煙と炎が見えるとの第1報を受け、37分頃消防車両7台、40分頃消防車両17台を出動させた。
10:36頃、自衛隊消防が消防車4台を出動させた。
10:38頃、空港消防の消防車両が火災現場に到着し消火活動を開始した。火災は右主翼内側から左主翼全体および機体中央部から機体後部まで延焼し、炎が燃え盛り黒煙が高く上がった状態であった。
エンジンが爆発し機体が激しい炎に包まれた同機は、11:37頃ようやく機体の一部を残し焼失し、鎮火した。同機の炎上・爆発と漏れた燃料の地上での炎上により41番スポット周辺の一部舗装が損傷した。
原因 1.発火の原因
右主翼燃料タンクから漏れ出した燃料がエンジンの高熱で発火した。
2.燃料漏れの原因
右主翼の可動部からダウンストップ・アセンブリーが脱落していたところに、フラップの操作によってアセンブリーのボルト部が燃料タンクに刺さり開孔した(図3)。
3.ダウンストップ・アセンブリー脱落の原因
事故の約1ヶ月前に整備した際にワッシャーを付け忘れた(推定)。
ワッシャーを付け忘れるとナットが穴を通過する寸法になっていた。
4.ワッシャー付け忘れの原因
ボーイング社が行った整備士に対する注意喚起が不十分であった。
また、ボルトは奥まった場所のため、作業は手探りや鏡の使用など整備ミスが発生しやすかった(運輸安全委員会の指摘)。
対処 右主翼5番前縁スラットの内側メイン・トラックを収納するトラック・カンに破孔および破孔から燃料タンクに向かって、ダウンストップ・アセンブリーが突出していることが発見された。
そこで、日本では2007年8月23日、航空局から日本の運航者に対しダウンストップ・アセンブリーの一斉点検の指示が出された。
米国連邦航空局は、2007年8月25日および28日に、緊急対空性改善命令を発行し、737-600/700/700C/800/900/900ER型機の米国運航者に対し、ダウンストップ・アセンブリーの一斉点検の指示した。
対策 1.構造上の対策
ダウンストップ・アセンブリーがメイントラックから抜けないように、ナットの外径を大きくした。
2.ボーイング社に対する安全勧告
運輸省安全委員会は、米国航空当局に同社の注意喚起体制に対する安全勧告を出す予定(2009年1月21日発表)。
知識化 1.危険回避の設計が大切である。
今回の事故のそもそもの原因は、取付穴の内径が大きすぎたことである。万一ワッシャを付け忘れたときでも、ナットが穴をすり抜けないような設計とすべきであった。
2.事故の被害度は、事故発生直後の対処で決定する。
整備士の発火の発見で緊急脱出したため、1人の犠牲者も出なかったが、見逃していたら大惨事となっていた。
3.大きな事故が起こらないと、対策は徹底されない。
小さい事故が発生した場合に、それがどの様な大きな事故につながるかを徹底的に想定して対策を行う必要がある。
4.整備ミスが起きやすい構造は、大事故の原因をはらんでいる。
背景 ボーイング社情報によると、メイン・トラックに取り付けられているダウンストップ・アセンブリーのナットが脱落した報告事例が2005年12月までに2件あり、うち1件は5番スラットの内側のトラック・カンから燃料漏れが発生していた。その原因はダウンストップ・アセンブリーのナットが緩んで、ボルトがトラック・カン内部に脱落し、メイン・トラックに押されてトラック・カンに孔を開けていた。
この対策としてボーイング社は、ボルトのナットが外れる不具合に関して航空各社に対して「サービスレター」と呼ばれる通知を3回行っていた。
2005年12月、2006年3月の2回、ボルトに緩み止め剤を塗布してナットを付け直すように指示。ボルトは両翼の可動部8ヶ所全てが対象であったが、右主翼1ヶ所のみを示すなど誤解を与えかねない記述であった。実際、事故の約1ヶ月前の7月6日に整備した中華航空は、この1ヶ所のナットを締めただけで整備を終えていた。
2007年7月の3回目には、ナットをボルトから外さず締め直すよう内容を変更していた(変更理由は不明)。
後日談 2009年1月21日、運輸安全委員会は事故の一因が事故前に航空会社に行った注意喚起が不十分だったとして、米国航空当局に同社の注意喚起体制に関する安全勧告を出す方針を固めた。3回目の「サービスレター」でワッシャーなどの部品を付け忘れる危険性の喚起や非英語圏の整備士が英語で書かれた通知を読むことも考慮べきなどの内容である。
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、仮想演習不足、不注意、注意・用心不足、計画・設計、計画不良、定常動作、誤動作、破損、減肉、不良現象、熱流体現象、破損、大規模破損
情報源 航空・鉄道事故調査委員会、中華航空公司所属ボーイング式737-800型B18616に係る航空事故調査について(経過報告)、2008/8/29
http://araic.assistmicro.co.jp/aircraft/download/pdf/経過報告080829-B18616.pdf
日本経済新聞、2009/1/22
死者数 0
物的被害 ボーイング737-800型機1機
マルチメディアファイル 図2.推定飛行経路および走行経路
図3.ダウンストップ取付図
備考 事例ID:CZ0200805
分野 その他
データ作成者 張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)