事例名称 |
校舎天窓落下事故 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2008年06月18日 |
事例発生地 |
東京都 杉並区 |
事例発生場所 |
杉並区立杉並第十小学校 |
事例概要 |
2008年6月18日、小学校3階屋上で行われていた授業中、男子児童が屋上にあるド天窓に乗ったところ、天窓が割れ、1階の床に転落し、全身を強打し死亡した。 |
事象 |
2008年6月18日(水)午前9時23分頃、杉並区立杉並第十小学校の3階屋上で行われていた6年生の算数の授業中、男子児童が、屋上にあるドーム型の天窓に乗ったところ、アクリル樹脂製の覆いが割れ、約12メートル下の1階コモンスペースの床に転落し、全身を強打した。男子児童は救急車で病院に搬送され、救急医療を受けたが、同日午後1時17分、死亡した。 天窓は、 直径1メートル30センチメートルのドーム状で、ドーム状の部分は、公称厚さ4ミリメートルのアクリル樹脂製、その下部には、厚さ6.8ミリメートルの網入りガラスが設置されている(図2、図3)。 |
経過 |
同男子児童は、屋上で授業を受け教室に戻る途中であった。児童がドーム型の天窓に乗り、飛び跳ねたため、天窓の覆いが壊れたことから発生した。その形状は児童らの興味を引きやすく、また、容易に乗ることができた。また、児童らはドーム型の覆いが天窓であり、下が吹き抜け構造になっていることを知らなかった。 当日の記者会見で、杉並区教育委員会の教育長が事故原因の徹底調査をすると話した。翌日の全校集会で、校長が児童に謝罪し、児童の命を教師全員で守ることを誓い、児童にも命の大切さを訴えた。2008年6月20日に「学校における転落事故等の防止について」と題して、文部科学省から都道府県教育委員会等関係機関に通知が出された。 |
原因 |
児童がドーム型の天窓に乗り、飛び跳ねたため、天窓の覆いが壊れたことが直接的な原因であるが、「屋上は児童が立ち入らない」という改築時の前提が継承されず、屋上を使用した授業が行われるようになったことも間接的な原因として挙げられる。 この校舎は、昭和61年に建設され、3階屋上については児童の学習活動では使用しないことを前提に設計された。「屋上は児童が立ち入らない」という考え方は、改築当時は、教育委員会、施設建設担当の所管課、この小学校の関係者で共通理解され、管理も徹底されていた。しかし、学校施設の使用に係るこの重要な情報が、その後の校長等の異動時に引き継がれていなかった。 |
対処 |
2008年6月20日、文部科学省は「学校における転落事故等の防止について」で学校に対して次の依頼をしている。 ・天窓については、人の体重を支える強度がないとするメーカーが多く、児童生徒等が乗ることのないよう適切な安全管理を行う必要がある。児童生徒等が天窓に近づく可能性がある学校においては、天窓の危険性等について、児童生徒等に理解させ、天窓の上に絶対に乗らないよう周知徹底するとともに、天窓の設置された屋上を使用しない場合には屋上出入口の施錠を行う、児童生徒が天窓の近くで活動する場合には、事前に危険性について点検を行い、教職員が適切に見守る等、十分な安全管理を行うこと。 ・児童生徒等の近づく可能性のある場所に設置された天窓は、児童生徒等の多様な行動に対し十分な安全性を確保した設計とすることが重要であり、天窓の構造や設置状況等を把握した上で、周囲に防護柵を設置すること及び内側に落下防護ネットを設置すること等、安全な構造とするとともに、効果的な表示等による注意喚起を図ること。 |
対策 |
・防護柵の設置 ・防護ネットの設置 ・安全柵の設置 ・屋上への立ち入り禁止の徹底 ・児童・生徒への危険性の理解 ・高所の危険性を理解していない児童がいるということを、教師に徹底して理解させる。 |
知識化 |
・ドーム型の形状は児童らの興味を引きやすく、トランポリンのようにして遊んでしまう。 ・「屋上は児童が立ち入らない」という前提で校舎が設計されていたのにも関わらず、いつの間にか設計条件が変わってしまい、「屋上へ児童を上げる」運用がされるようになってしまった。人事異動等で担当が変わるときには、表面的な業務内容だけでなく、施設の設計当時の思想を趣旨を踏まえて引き継ぐことが重要である。 |
背景 |
この事例の根底には、大人の目で見た設計のみが設備の管理・維持・構造設計に反映されるが、児童による想定外の使用により事故に遭遇する場合が多くある。更なる設備基準の整備と、使用基準の充実が望まれる。 |
後日談 |
2010年4月8日、鹿児島県霧島市において、小学校の児童が天窓から落下する事故が発生した。またか!という感じである。遠く都内の事故は人ごと、自分達には起こらないと考え、さらに連絡・伝達の不徹底が重なり、児童の人命が危機にさらされた。 |
よもやま話 |
事故は非定常作業時に多く発生するので、学校での事故も労災事故と同じように分析できるのではないか。 子供、児童の視点で施設は設計されていない場合が多く、事故は当然のようにそのような場所で起こるように思える。 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、手順の不遵守、手順無視、破損、劣化、身体的被害、死亡
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情報源 |
毎日新聞、2008-06-19
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/06/08062413.htm
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死者数 |
1 |
社会への影響 |
小学校・中学校における危険性があらためて見直された。 |
マルチメディアファイル |
図2.事故のあった天窓の構造
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図3.墜落事故状況
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備考 |
事例ID:CZ0200905 |
分野 |
その他
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データ作成者 |
濱田 裕 (リバーベル株式会社)
畑村 洋太郎 (工学院大学)
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