事例名称 |
管制トラブルから旅客機と貨物航空機が空中衝突し、乗員乗客71名が死亡 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2002年07月01日 |
事例発生地 |
ドイツ南西部のバーデン・ビュルテンベルク州ユーバリンゲンの上空高度約35400フィート |
事例発生場所 |
空中 |
事例概要 |
2002年7月1日午後11時36分頃、モスクワ発ミュンヘン経由バルセロナ行きA社航空A便(D社製D型飛行機)とバーレーン発ベルガモ経由ブリュッセル行きB社B便(C社製C型貨物機)が、ドイツ南西部のバーデン・ビュルテンベルク州ユーバリンゲンの上空高度約35400フィートで空中衝突し、2機ともにユーバリンゲン近郊のボーデン湖北岸付近に墜落した。この事故で、バシキール航空機の乗員12名、乗客57名、計69名とDHL貨物機の乗員2名の合計71名全員が死亡した。コンフリクトアラーム(接近警報)の一時停止、電話回線の不調、レーダーシステム不具合等スイス管制サイドのトラブルから管制官の衝突回避指示が遅れたことが事故の原因。 |
事象 |
当時、同空域を管制していたスイスの管制会社E社の設備は複数のトラブルを抱えていた。コンフリクトアラームがメインテナンスのため作動していなかったこと、電話回線の不調、それに気を取られていた間に両機が接近し管制官がそれに気がつかなかったこと、1人の管制官が2機のレーダーを受け持っていたこと、レーダーシステムの不具合などが重なった。管制官は衝突44秒前になって初めて衝突回避のための指示を出したが、度重なる指示ミスもあり、結局、両機は空中で衝突した。ドイツのパイロット同盟によると、上空で交差する危険性がある場合、5~10分の余裕を持って指示があるのが普通だという。 |
経過 |
両機は飛行中ともに高度約35990フィートで急接近した。が、常時2名勤務のはずのスイス航空管制局の管制官がひとり休憩をとっており、またコンフリクトアラームが停止していたことも重なり、接近の発見が遅れた。ボイスレコーダーの解析によると、衝突の約90秒前にバシキールA社航空機のTCAS(機体付属の衝突回避システム)が作動し、同機のパイロットがスイス管制当局に対して衝突の危険性を警告。衝突45秒前に同機のTCASが上昇を指示したが、その1秒後の衝突44秒前になって初めてスイス航空管制局管制官が約984フィート降下するよう、A社航空機のTCASとは矛盾する指示を同機に出した。パイロットが混乱したためかA社航空機からすぐに応答がなかったので、管制官は25秒後に再度降下を指示し、これに応じてA社航空機は衝突の19秒前になって突然急降下し始めた。一方、B社航空機は、管制官がA社航空機に対し2度目の降下の指示を出した直後、TCASの指示に従って降下中であることを管制官に報告した。管制官はこの報告を受けて初めて2機がコリジョンコースにある危険性を認識したものと見られる。取り急ぎ管制官はA社航空機に対し、B社航空機が同機から見て右側にある旨注意を促した。しかし実際にはB者航空機は左側から接近していた。この管制官の誤った指示により、A社航空機のパイロットは衝突の11秒前に前方を確認したにもかかわらず、右側を注視することとなりB社航空機を発見できなかった。最終的にB社航空機は衝突の3.8秒前、A社航空機は1.8秒前にそれぞれ相手機を視認した。バシキール航空機のパイロットは視認後直ちに上昇を試みたが、もはや回避できず、高度約35400フィートで空中衝突した。 |
原因 |
スイス航空管制局では本来2名体制で管制にあたるべきところ1名で管制を行っており、他の管制官が休憩中であったためA社航空への降下指示が遅れた。また、事故当時チューリッヒ国際空港内にある航空管制センター内のコンフリクトアラームが事故の約30分前から機器メンテナンスのため作動していなかった。さらに、スイス・チューリッヒの航空管制センターでは主電話回線網も調整のため電源が切られており、代わりに予備回線を使用していた。管制官は事故直前の午後11時25分43秒から33分11秒まで、数回にわたりドイツのフリードリヒスハーフェン空港との電話連絡を試みたものの障害発生で失敗し、この復旧を試みている間に両機が接近したことが明らかになった。A社航空機のTCASは衝突45秒前に上昇を指示し、衝突44秒前に出された管制の指示は降下であり、A社航空機のパイロットが矛盾する2つの指示のうち管制官の指示に従った結果、B社機と衝突した。なお、両機のTCASは正しく作動していたことが確認されている。また、同日、地上レーダの不使用などが原因で、管制センターのレーダーシステムに航空機の機影が一時消えたり、位置が正確に表示されない不具合が発生していた。 |
対処 |
複数の目撃証言によると、衝突の瞬間、夜空全体が炎による閃光でオレンジ色に染まって地上を照らし、程なく雷鳴にも似た轟音が響き渡ったといい、直後に残骸などが雨のように降り注いだという。主要な残骸は主にユーバリンゲンの北西約5Kmの田園地帯オーヴィンゲンを中心に幅2Km、長さ6Kmの地域に落下し、その他の落下物は半径30~40Kmの地域に散乱した。残骸の一部は炎上した状態で落下し、住宅や学校、農場で火災が発生したため、同地区の消防隊がかけつけた。現場一帯は主要道路が封鎖され、一般車両は立ち入り禁止になった。警察や救急隊の車両が頻繁に行きかった。2日夜までに、A社機のボイスレコーダーとB社機のフライトレコーダー、ボイスレコーダーを発見、回収した。 |
対策 |
欧州の航空安全のための支援機関ユーロコントロールの基準を満たすよう、スイス航空管制当局のレーダーに対する早急な改善対策が出された。 |
知識化 |
管制サイドの危機管理の徹底が必要。航空機事故は複数の要因が重なって発生すると言われている。空の安全を守るための管制局にこんなにも多数の事故因子が存在していたとは、管制サイドの危機管理に問題がある。 |
背景 |
スイス航空管制はスイス政府が99.85%の株式を保有する民間会社D社により営利を目的に運営されていた。また、欧州では域内の航空飛行回数は民間・軍用合わせて最大で月間約2万6000回と、空の過密化が大きな問題となっており、事故の背景として指摘されている。 |
後日談 |
2002年7月12日、スイス運輸相はユーバリンゲンで開かれた慰霊式典に出席し、事故原因の一部はスイスの航空管制の初期対応に過失があったことを公式に認め、補償の用意があることを表明した。 |
よもやま話 |
事故当日、ドイツ国内は、準優勝の好成績をもって前日に閉幕したサッカーワールドカップの代表チームの帰国を受けて、喜びに包まれていたが、事故の一報で祝賀ムードは暗転した。 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、企画不良、組織構成不良、誤判断、狭い視野、発見遅れ、非定常行為、変更、手順変更、非定常動作、状況変化時動作、機能不全、ハード不良、機械・装置、動作不能、非定常動作、状況変化時動作、機能不全、ハード不良、レーダー、破損、大規模破損、衝突、身体的被害、死亡
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情報源 |
http://news.bbc.co.uk/2/hi/talking_point/2084600.stm
http://www2.justnet.ne.jp/~satoshitoyama/cadb/wadr/accident/20020701a.htm
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200207/03 /20020704k0000m030108000c.html
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死者数 |
71 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
機体、貨物、乗客および乗員の貴金属、持ち物など数々の物品。住宅や学校、農場など火災による被害。 |
社会への影響 |
スイス管制当局は、1999年にもレーダーシステム不具合のためニアミスを発生させていたことが明らかになり、当局への不信感はもはや拭いきれないものとなった。 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
エツタイノ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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