失敗事例

事例名称 自動化直後の硝酸グアニジン製造用反応槽の爆発
代表図
事例発生日付 1970年08月14日
事例発生地 神奈川県 平塚市
事例発生場所 化学工場
事例概要 硝酸グアニジンの製造装置で従来の手動式装置を自動化して運転を開始した。自動化が中途半端で、不具合を生じて自己反応性物質の原料や製品が分解し爆発した。化学プロセスの工程の変更では不測の事態が発生する可能性がある。反応系では温度や圧力のモニターや緊急時対応システムの取り付けが重要である。
事象 硝酸アンモニウムとジシアンジアミドを反応して硝酸グアニジンを製造する工場で、作業員3名が硝酸アンモニウム150kgとジシアンジアミド33kgを反応槽に仕込んで反応を開始したところ突然爆発した。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
反応 その他
物質 硝酸グアニジン(guanidine nitrate)、図3
硝酸アンモニウム(ammonium nitrate)、図4
ジシアンジアミド(dicyanodiamide)、図5
事故の種類 爆発
経過 反応槽の自動化工事を終了し、1970年8月初めから試運転を開始した。
1970年8月7日 反応槽の撹拌開始用の温度計が正しい温度指示をしないことを発見した。
8月12日 温度計の保護管の修正工事を行った。ほかにも幾つかのトラブルがあった。
13日22:00 反応槽に原料を仕込み、撹拌速度と温度を自動モードにセットしたが電源が入らなかったため手動で操作した。
14日01:30 反応が終了した。反応液取り出し中に温度上昇警報がでて、その後警報ランプは点灯したままだった。 
05:40 3回目の反応を開始
08:10ごろ 反応が終了した。
 この間警報ランプは点灯のままだった。手動で運転した。
08:40 4回目の仕込みを終え反応を開始した。撹拌開始は手動と思われる。 
08:51 突然爆発した。この時操作盤は全て自動になっていた。
原因 中途半端な自動化直後であった。そのため、
1.温度制御と撹拌のバランスが取れずに自動・手動運転が入り交じっていた。
2.温度制御・警報系の故障があった。
これらの不具合のため、反応槽内の温度が上昇し硝酸アンモニウム、硝酸グアニジンが分解したとみられる。
対処 消防による注水消火
対策 1.温度測定、温度制御、電気回路等の改善、信頼性向上 
2.異物混入防止 
3.火薬類に準じた保安距離や遠隔操作など 
4.安全教育 
5.危険性の事前評価に従ったプロセス条件の設定
知識化 化学プロセスの工程の変更では最悪のシナリオを含め反応危険性の事前評価が重要である
背景 安全管理体制、安全教育が不十分であった。生成物が自己反応性物質でもあるにもかかわらず、熱危険性に関する事前評価が不足していた。
データベース登録の
動機
危険性評価の欠如による反応暴走の例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、計画・設計、計画不良、自動化計画未熟、製作、ソフト製作、非定常行為、変更、作業内容変更、機能不全、ソフト不良、アンバランスな操作、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、4名死亡、身体的被害、負傷、15名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害1400万円
情報源 消防庁、危険物製造所等の事故事例集-昭和45年(1971)、p.450-451
消防庁、SケミカルH工場爆発火災概況(1970)
死者数 4
負傷者数 15
物的被害 硝酸グアニジン製造工場の建物はスレートが吹き飛び鉄骨変形。破壊した反応機破片が200~300mまで飛散、爆風や飛散物により付近の工場や市営住宅などの屋根や壁、窓ガラスなど被害(硝酸グアニジン製造工場爆発労働災害科学調査団による)。
鉄骨スレート葺一部中2階建て1棟111.8平方m全壊、他全壊1棟、部分壊9棟、ローリー1台全損(消防庁による)。
被害金額 建築物約900万円、機械設備1,580万円、なお隣接住宅及び工場にもかなりの被害あり(硝酸グアニジン製造工場爆発労働災害科学調査団報告書による).
約2,800万円(損害保険料率算定会による).
約1,400万円(消防庁による).
マルチメディアファイル 図3.化学式
図4.化学式
図5.化学式
備考 周囲300m以内の住宅や工場の窓ガラス破損
分野 化学物質・プラント
データ作成者 若倉 正英 (神奈川県 産業技術総合研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)