失敗事例

事例名称 倉庫火災による有機過酸化物の爆発
代表図
事例発生日付 1964年07月14日
事例発生地 東京都 品川区
事例発生場所 倉庫
事例概要 1.首都高速道路羽横線沿いの可燃物や火薬などを保管している倉庫で大爆発があった。倉庫地区に野積みされていたドラム缶入り硝化綿が自然発火して火災となり、地区内に野積みされていた他の硝化綿やアセトン、アルコール類並びに倉庫に延焼した。消火活動中に延焼した倉庫に貯蔵されていたメチルエチルケトンペルオキシドが発火爆発した。爆発により2階建て倉庫が倒壊し、近くで消火活動をしていた消防士、消防団員19名が死亡した。さらに消防隊、警察官、取材中の記者等多数が重軽傷を負った。
2.出火原因は硝化綿の自然発火である。ドラム缶入りの湿硝化綿が直射日光の当たる場所で野積みされていたため、部分的に乾燥状態となって自然発火したものと推定されている。出火場所付近に大量の引火性物質が保管されていたため、火災が拡大した。二次災害で多くの死傷者が生じた。
基本原因は当事者の危険物に対する認識の甘さである。
事象 首都高速道路羽横線沿いにある可燃物や火薬類などを保管する倉庫で大爆発があった。倉庫地区に野積みされていたドラム缶入り硝化綿(ニトロセルロース)が自然発火して火災となり、地区内に野積みされていた他の硝化綿やアセトン、アルコール類並びに倉庫に延焼した。消火活動中に延焼した倉庫に貯蔵されていたメチルエチルケトンペルオキシドが発火爆発した。爆発により2階建て倉庫が倒壊し、近くで消火活動をしていた消防士、消防団員19名が死亡した。さらに消防隊、警察官、取材中の記者等多数が重軽傷を負った。
プロセス 貯蔵(固体)
物質 メチルエチルケトンペルオキシド(methyl ethyl ketone peroxide)、図2
ニトロセルロース(nitrocellulose)
事故の種類 爆発・火災
経過 1. 1964年7月14日21時55分頃、倉庫地域の空地に野積みされていたドラム缶入り硝化綿が自然発火して火災となり、近くに野済みされていた硝化綿やアセトン、アルコール類等の引火性液体に燃え広がり、これらの容器が小爆発を繰り返した。
2. 近くの社宅にいた従業員などが手引動力ポンプで初期消火を試みたが、対応できるものではなかった。
3. 火災を覚知した公設消防が出動し、消火活動をしたが、倉庫群に延焼し、倉庫内の石油缶やラッカー等の容器が小爆発を繰り返して燃焼するため消火活動が難しく、火勢はなかなか衰えなかった。
4. ようやく火勢が衰えかけた22時56分頃に、延焼した倉庫内に貯蔵されていたメチルエチルケトンペルオキシド約2200kgが一挙に爆発し、当該倉庫と隣接倉庫2棟が吹き飛ばされた。
そのため近くで消火活動をしていた消防士18名と消防団員1名が飛散物の下敷きとなり、死亡した。他の隊員も飛散物や降り注ぐ火の粉等で負傷した。
5. 爆発による火の粉や飛散物の飛来が一段落すると、消防活動の再開と負傷者の救援活動を行った。
6. 翌15日1時38分に鎮火した。
原因 1.出火原因は硝化綿の自然発火である。硝化綿は自然発火を防止するためにアルコールを含ませた湿綿薬として保管しているが、直射日光の当たる場所で野積みされていたため、部分的に乾燥状態となって自然発火したものと推定されている。
2.出火場所付近に大量の引火性物質が保管されていたため、火災が拡大した。
3.爆発危険性を有する有機過酸化物が大量に保管されていたため、二次災害で多くの死傷者が生じた。
対策 1.危険物に対する法規制の強化(行政措置権が強化された)
2.化学消防の整備
知識化 危険性を有する化学物質が存在する可能性のある場所の消防活動では、二次災害の防止に万全の対策を講じなければならない。
背景 基本原因は当事者の危険物に対する認識の甘さである。
1.倉庫会社の経営者や従業員の危険物に対する認識の甘さがあり、指定数量をはるかに超える量の危険物を無許可で保管するなど危険物のずさんな保管が常態化していた。
2.存置されている危険物の危険性についての情報が消防に伝わっていなかった。
後日談 この事故がきっかけとなり、消防関係法令の改正が行われ、行政措置権の強化、火災現場の情報収集の強化が盛り込まれた。
データベース登録の
動機
消火活動中の二次災害事例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、調査・検討の不足、仮想演習不足、発災時の消火方法検討なし、計画・設計、計画不良、貯蔵数量過大、使用、輸送・貯蔵、保管場所の選定不良、不良現象、化学現象、自然発火、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、死亡、19名死亡、身体的被害、負傷、報道関係含め多数、組織の損失、経済的損失、直接損失55億円
情報源 北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.195-210
東京消防庁消防科学研究所第二研究室、月刊消防、No.40(1981)、p.57-64
死者数 19
負傷者数 114
物的被害 10棟7364平方m全焼、倉庫3棟ぼや.
被害金額 55億円(建物10億円、収容物45億円)(東京消防庁による)
マルチメディアファイル 図2.化学式
備考 硝化綿の発火による火災によって敷地内に保管されていた有機過酸化物であるメチルエチルケトンペルオキシドの爆発を招いたと考えられているが、その希釈液として用いられていたフタル酸ジメチルは、爆発に伴い最大2トンが環境中に排出された可能性がある。類縁化合物に環境ホルモン作用が確認されているために、現在では「関連物質」としてモニタリングの対象となっており、室内空気中に比較的高濃度に検出される。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)