事例名称 |
安全弁元弁の閉止によって液化窒素貯槽が破裂 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1992年08月28日 |
事例発生地 |
北海道石狩郡石狩町新港西1-725-4 |
事例発生場所 |
株式会社鈴木総合食品 石狩工場 |
機器 |
液化窒素貯槽(コールドエバポレータ、CE, cold evaporator)の概要を図2に示す。 コールドエバポレータは貯槽に超低温液化ガス(酸素、窒素、アルゴン、炭酸ガス)を貯蔵し、これを加圧用蒸発器、送ガス用蒸発器、その他の附属設備を用いて蒸発させ、消費側に圧送する装置をいう。 温度の高低の極限をいう場合、超高温と極低温が一般に用いられているが、この世界では極低温といわずに超低温という。 二重殻真空断熱式貯槽は、内槽(ステンレス鋼)と外槽(炭素鋼)の間に断熱材(パーライト)を充填し、真空に引いて断熱性能を保持する。真空度の劣化によって、断熱性能が低下する。 |
事例概要 |
国道沿いの食品工場において、夜半、コールドエバポレータ(CE)の液化窒素貯槽が破裂し、工場が半壊するとともに、半径約400 m以内の工場等が損壊した。安全弁の元弁が人為的に閉止され、貯槽は密封状態となり、外部からの侵入熱によって圧力が経時的に上昇し、1ヶ月以上経過してから破裂に至った。 |
事象 |
国道沿いの食品工場において、夜半、液化窒素貯槽が破裂・飛散し、工場が半壊するとともに、貯槽中心に半径400 mの工場等建物25棟の外壁、窓ガラス、シャッタ、駐車中の車両39台(バス、トラック、乗用車)、その他電柱等に爆風と飛散物によって被害をもたらした(図3~図5参照)。貯槽は、二重殻真空断熱式縦形超低温貯槽CE-7500形である。貯槽と附属設備の概要を図2に示す。内槽の破裂状況を図6に、外槽の破裂状況を図7に示す。貯槽の破片の最大飛翔距離は350 m(外槽上部鏡板破片:直径1.5 m、厚さ8 mm)に及び、貯槽の断熱材(パーライト)は貯槽中心に半径100 mの範囲に飛散した。外槽上部鏡板の破片を図8に示す。物的被害は直接被害額約4億4千万円に及んだ。 |
経過 |
貯槽は、1973年9月に日酸工業(株)で製作され、数回の売却と移設の後、1988年9月に(株)鈴木総合食品石狩工場に設置された。 設置後、第1回目(1989年9月)、第2回目(1990年9月)、第3回目(1991年9月)の定期検査が(株)ほくさんエンジニアリングによって実施されている。(株)鈴木総合食品自身での始業時・終了時・ほか1回/日の点検と保安教育は実施されていなかった。 1992年6月26日に貯槽に充てん、同月27日、28日に使用した後、7月2日に(株)ほくさん苫小牧物流センターのローリーが2000 m3充てんした(充てん後の液量は標準状態の気体換算で2800 m3)。8月28日の発災までの61日間は使用していない。 通商産業省は全国9千箇所に液化窒素貯槽が設置されているなど、本件事故の社会的な影響が大きいことから、1992年9月1日に高圧ガス保安協会内に「液化窒素貯槽事故調査委員会」(委員長 小林英男 東京工業大学教授、委員4名)を設置し、事故原因の究明、再発防止対策の検討等を行った。 |
原因 |
原因を解析した結果を以下に示す。 (1)時期は未確定であるが、最後の定期検査時(1991年9月)以降のいずれかの時点でばね式安全弁が作動し、あるいは作動しないままばね式安全弁の元弁が人為的に閉止された。その後、時期は同様に未確定であるが、破裂板が破裂し、破裂板の元弁が人為的に閉止された。その結果、貯槽は完全な密封状態となった。 (2)密封状態で外部からの侵入熱によって液化窒素の圧力が経時的に上昇し、内槽の破裂圧力(7 MPa程度)を超えるに至った。なお、これに要する期間は50日~80日程度と推定される。 (3)圧力上昇により内槽の破裂に引き続いて外槽が破裂し、内槽・外槽と附属設備が飛散した。なお、飛散した内槽・外槽の破片飛翔距離から推定した破壊圧力も上記(2)と同程度である。 破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図を図9に示す。貯槽の破裂のイベントツリー図を図10に示す。 |
対処 |
不活性ガス(窒素、アルゴン、炭酸ガスなど)の液化貯槽については、従来、一般的に安全な設備であると考えられ、冷凍、ガス置換などの多様な用途に幅広く利用されており、高圧ガス保安法令上も、他の製造設備に比較して一部の規制が緩和されている。しかしながら、不活性ガスの液化貯槽についても取扱いを誤れば甚大な事故につながる可能性を有している。 したがって、不活性ガスの液化貯槽に関係するすべての者が従来の認識を改め、保安確保に万全を期す必要がある。 |
対策 |
(1)保安意識の高揚 ばね式安全弁と破裂板の元弁が閉止されていたのは、工場の従業員が液化窒素貯槽に関する十分な保安意識がなく、安全弁等の元弁は常時開放という基本的な知識が欠如していた。また、日常点検をしておらず、定期検査もメンテナンス業者に全面的に委託しているなど、事業所の保安意識の欠如も問題である。 (2)マニュアルと弁類の配置の改善 安全弁等の作動時の対応と、供給業者への連絡等についてマニュアルが不完全である。また、弁類の配置が煩雑で、かつ使用しにくい。 (3)ガス供給事業者の支援 ガス供給事業者が上記の(1)と(2)について、液化窒素貯槽事業者を支援する必要がある。 |
知識化 |
安全弁の元弁は常時開放という基本的な知識を再確認する必要がある。工場では当たり前の知識が、一般社会では当たり前とならない。人は長期外出の際に、都市ガスの元栓を閉じ、電源を切る。安全弁の機能についての知識がなければ、安全弁の元栓も閉じた方が安全だと勘違いする。コールドエバポレータが一般社会で広く使用されている現状を踏まえ、知識の普及を考え直す必要がある。 |
背景 |
コールドエバポレータは工場以外に、一般社会で広く使用されるようになった。特に、液化窒素は冷凍用に、液化酸素は医療用に使用されている。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、思い込み、誤判断、狭い視野、未経験・不慣れ、定常操作、誤操作、誤った操作、安全弁の元弁閉止、使用、運転・使用、機器・物質の使用、液化窒素貯槽、不良現象、熱流体現象、熱現象、侵入熱、液化窒素の圧力上昇、破損、大規模破損、破裂、二次災害、損壊、破片の飛散
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情報源 |
(1)液化窒素貯槽事故調査委員会 報告書、高圧ガス保安協会、平成5年8月 (2)小林英男、長崎孝夫、大谷英雄、和田有司、吉岡照夫、堀 昭夫、液化窒素貯槽(CE)の発災事故解析、日本機械学会論文集(A編)、60-572(1994)、1100-1107
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
CE 1基、加工工場、周辺の工場の窓ガラス、シャッターなど、車輌39台。 |
被害金額 |
4億3575万9千円 |
全経済損失 |
不明 |
社会への影響 |
下記によって、社会への影響が大であった。 (1)過去に例のない飛散距離である。 (2)同種のコールドエバポレータが全国約9千箇所の事業所に設置されている。 (3)同種のコールドエバポレータが病院で液化酸素用に使用されている。 (4)他の同種のコールドエバポレータも事故発生の可能性がある。 (5)コールドエバポレータは届け出の手続きで設置でき、保安検査と定期自主検査の義務付けのない第二種製造者が使用する。 |
マルチメディアファイル |
図2.貯槽の概要
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図3.被害の状況(その1)
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図4.被害の状況(その2)
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図5.被害の状況(その3)
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図6.内槽(ステンレス鋼)の破裂状況
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図7.外槽(炭素鋼)の破裂状況
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図8.外槽上部鏡板の破片
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図9.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
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図10.貯槽の破裂のイベントツリー図
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備考 |
WLP関連教材 ・化学プロセスの安全/化学プロセス安全の概論 |
分野 |
材料
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データ作成者 |
小林 英男 (東京工業大学)
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