失敗事例

事例名称 医薬品製造装置の硫酸ヒドロキシルアミンの回収工程において温度上昇による反応槽の爆発
代表図
事例発生日付 1974年09月06日
事例発生地 兵庫県 尼崎市
事例発生場所 医薬品工場
事例概要 1974年、兵庫県尼崎市の医薬品製造工場で、製造工程から出る廃液中の硫酸ヒドロキシルアミンの回収工程で、発熱反応による出火、爆発が発生した。そのため、反応槽上部が飛び、工場屋根などを壊した。
事象 医薬品製造装置の廃液の回収部で発熱反応による発火、爆発が起こった。廃液は、硫酸ヒドロキシルアミンと微量のカルボン酸の混合物にメチルイソブチルケトン(MIBK)を作用させて得られるMIBKオキシムであった。
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸発
単位工程フロー 図2.単位工程フロー1
化学反応式 図3.化学反応式1
物質 硫酸ヒドロキシルアミン(hydroxylamine sulfate)、図4
硫酸(sulfuric acid)、図5
メチルイソブチルケトンオキシム(methyl isobutyl ketoxime)、図6
事故の種類 爆発
経過 医薬品製造装置の廃液から硫酸ヒドロキシルアミンを回収するため、反応槽に廃液と希硫酸を仕込み、反応(加水分解)、冷却の後放置した。翌日、70℃・減圧下で濃縮、加熱停止後減圧下で30分放置した。内部がゼリー状だったので再度加熱し始めたところ、シューという音がした。急いで、ジャケットに冷却水を注入したが、爆発した。反応槽上部が飛んで、工場屋根などを壊した。
原因 廃液に希硫酸を加えて加水分解すると、硫酸ヒドロキシルアミンとMIBKが得られる。減圧濃縮中の反応器内壁に、廃液に存在するMIBKオキシムが付着していたと考えられた。最後の加熱により空間部分が100℃になったため、オキシムと硫酸を加熱したことによりベックマン転位が生じ、この発熱反応による高温で硫酸ヒドロキシルアミンが発火したと推定される。
対策 問題となった作業中に絶対に100℃以上にしない。他作業時でも100℃以上にする必要がなければ、熱源を100℃以下のものにするといった対策を取る。また、警報類を考え、100℃近くになったらアラームを出す。可能なら、反応器内壁へ付着しないようにする。
知識化 1.ある温度以上になると危険であることがわかっているならば、その温度以上にしない、させないが安全の基本である。
2.内部に液のない部分では、加熱時の壁面温度は液温より上がることがある。付着物のある場合はその場所に注意する必要がある。
背景 100℃以上にするとベックマン転位を起こし、発熱することを知らなかったか、または、運転マニュアルでその指摘を怠ったと推定される。
データベース登録の
動機
危険な温度範囲に突入させて事故になった例
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、反応の勉強不足、価値観不良、安全意識不良、教育・訓練不足、加水分解反応、計画・設計、計画不良、運転指示書不明解、定常動作、不注意動作、途中で中断、不良現象、化学現象、発熱・発火、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失
情報源 田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.161
負傷者数 1
物的被害 反応蒸留器破損
被害金額 2000万円(損害保険料率算定会)
マルチメディアファイル 図4.化学式
図5.化学式
図6.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)