失敗事例

事例名称 製油所のオフサイト配管の保全工事ミスの重なりによる硫化水素ガスの漏洩
代表図
事例発生日付 1995年05月30日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 製油所
事例概要 1995年5月30日、神奈川県の製油所において、一部装置の定期修理中のオフサイト工事で、硫化水素ガス漏洩事故が発生した。調節弁下流側元弁の取外し工事が行われていた。これと同時に調節弁作動用空気の工事も行われており、作動用空気圧力はゼロになった。このため調節弁が全開になり、上流側の元弁も開になっていたため、下流側元弁の点検をはじめた瞬間、管内硫化水素が漏洩した。多数の死傷者を出した。なお、硫化水素が流れている部分と工事箇所を遮断するための仕切り板の挿入が絶対条件だが、取り外す元弁のフランジに挿入したため、意味がなかった。
事象 製油所の定期修理工事中のオフサイト配管工事で、連絡ミスにより幾つかの工事計画の齟齬が重なった。そのため、硫化水素ガスが漏洩し多数の死傷者が出た。図2参照
プロセス 製造
単位工程 設備保全
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
物質 硫化水素(hydrogen sulfide)、図4
事故の種類 漏洩
経過 1. 定期修理期間中のオフサイトにある硫化水素配管の工事があった。
 対象配管は硫化水素が流れている状態であった。ただし、この配管が生きているとの目印があったことは確認されていない。
2. 同配管からフレアスタックへ導く圧力調節弁下流側元弁の取外し補修をするため、下流側元弁の上流側フランジに仕切り板を入れた。上流側元弁は開であった。
3. 同じ圧力調節弁の作動用空気線工事のため、計器作動用空気線への空気の供給を止めた。
 同調節弁は空気圧がなくなると全開の設定であったため、調節弁は全開になった。
4. 調節弁下流側元弁を取り外し始めた。仕切り板は2.で示したように、その弁のフランジを利用して取付けられていたため外れた。
5. 仕切り板が弛んだ瞬間に配管は開放状態になり、硫化水素が大気中に流出した。
原因 1.仕切り板挿入位置を間違えている。取り外すバルブフランジに仕切り板を取り付けたら、バルブを取り外せば、仕切り板も外れる。何故この位置に挿入されたかは不明である。
2.同一配管上で行われる2つの工事の連絡が不十分であった。計器用空気線の工事と元弁の取り外しは別の担当者であったが、何故、同じ時期に行われたか不明である。
3.元弁取り外し時に調節弁一つでの遮断する状態になる。調節弁は洩れるので絶対に避けるべき遮断方法である。
4.根本には、配管が、しかも有害性ガスの配管が生きていることの意識が徹底されていない。
図2参照
対処 1.調節弁の閉鎖
2.手動元弁の閉鎖
対策 1.教育の徹底
2.安全管理体制の強化
3.危険作業への取り組みの強化
4.縁切り管理基準の策定
5.情報の共有化
6.安全に関する専門委員会の設置
知識化 1.調節弁は遠隔操作弁であり、いつ開閉されるか不明でもある。また、通常の調節弁は全閉しても漏れる。したがって、調節弁の閉だけを前提にする工事計画は立ててはいけない。
2.オフサイト配管は定期修理工事中でも生きている(内容物が残っている。)ことが多い。プラントの工事以上に注意深い工事計画と連絡が重要である。
背景 1.定期修理中に生きた配管の工事をする体制になっていない。
 生きている配管の表示があったか不明確なこと、関連する工事の担当が異なり、その間の連絡調整が上手くいっていないことがそれを示している。
2.調節弁を閉めることで流れが遮断できると思っていると推定できる。
 調節弁は特殊な要求をしない限り、全閉でも必ず洩れるし、遠隔操作のため誤って開になることがあるので、絶対に調節弁だけで縁切りをしてはならない。教育不十分か、運転員の思い違いによるのだろう。
4.仕切板の挿入位置の指示または確認を失敗した。
 通常仕切り板挿入位置は担当運転員が自分一人では決めてはならない。安全確認をして、運転担当グループの長の責任で決定するべきであろう。その責任体制が弛んでいた可能性がある。
5.これだけヒューマンエラー的要素があると、工場運営上の何らかの欠陥があるのでは思われる。
よもやま話 事故後のいくつかの新聞記事に、会社、事業所の幹部の発言が出ている。これらを読むと、事故はヒューマンエラーの固まりだが、現場の担当者より幹部のヒューマンエラーの感じがしてくる。新聞記事が発言を全てを正確に報道していない可能性もあるが。
データベース登録の
動機
コントロール弁での閉を前提にした工事計画の失敗例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全管理・教育不良、不注意、理解不足、リスク認識不足、使用、保守・修理、工事計画不良、誤対応行為、連絡不備、不連絡、二次災害、損壊、漏洩、身体的被害、死亡、4名中毒死、身体的被害、発病、44名中毒
情報源 松尾茂美、危険物事故事例セミナー(1997)、p.25-31
化学工業における爆発・火災防止対策指針策定委員会監修,千葉労働基準局監修、化学工業における爆発・火災防止のためのガイドライン(1996)、p.80-82
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1995)
消防庁、危険物に係る事故事例-平成7年(1996)、p.26、502-503
死者数 3
負傷者数 44
マルチメディアファイル 図2.漏洩状況図
図4.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)