事例名称 |
カルボキシメチルセルロース製造中に計器誤作動により大過剰の酸化剤が供給されて爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1971年03月13日 |
事例発生地 |
兵庫県 姫路市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
CMC製造装置で、自動計量器を制御するコンピューターの不調により過酸化水素水が反応槽に規定量の20倍仕込まれたところに、水酸化ナトリウムが添加された。その結果、大量の酸素が発生した。イソプロピルアルコールと可燃性混合気を形成した(推定)。反応器ジャケットにスチームが流れこみ、反応器内壁を暖めた。その熱で付着していた有機過酸化物または酸化ナトリウムと有機物の混合物などが発火(推定)、爆発した。 |
事象 |
粉砕パルプにイソプロパノールと過酸化水素水と水酸化ナトリウムを加えて反応させる、カルボキシメチルセルロース(CMC)製造の反応槽が運転中突如爆発した。 CMC: 飲料などの粘度増量剤等に使われる。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
仕込 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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化学反応式 |
図2.反応プロセス図
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物質 |
過酸化水素(hydrogene peroxide)、図4 |
苛性ソーダ(sodium hydroxide)、図5 |
モノクロロ酢酸(monochloroacetic acid)、図6 |
事故の種類 |
爆発 |
経過 |
CMC製造装置の反応予備槽に、パルプの90%イソプロパノール水溶液スラリーをつくり、次いでスラリーに30%過酸化水素水をコンピュータ制御の自動計量器で供給した。気が付いたら、規定量以上を供給したことを示す警報のパイロットランプが点灯していた。過酸化水素水の供給を手動に切り替え、供給を中止した。これを反応槽に移し、冷却してから水酸化ナトリウムを加えて反応させ、さらにモノクロル酢酸を加えて撹拌した。攪拌中に温度が上昇し、突然爆発が起こった。 |
原因 |
1.過酸化水素水が自動計量機を制御するコンピュータの不調により、規定量の20倍も仕込まれた結果、水酸化ナトリウムの添加により大量の酸素が発生、溶剤のイソプロパノールと可燃性混合気を形成したと考えられる。 2.着火源ととしては、反応槽ジャケットに何らかのミスでスチームが流入したため、反応槽内壁温度が上昇して、以前から付着していた低発火点物質(たとえば有機過酸化物またはNa2Oと有機物の混合物等が考えられる)が発火した可能性が考えられる。 |
対策 |
(1) 酸素過剰雰囲気の形成を防止する設備的対応を行う。 (2) 過酸化物の仕込みにミスのないよう設備面で措置を講ずる。 (3) 作業工程を全面的にコンピュータ制御にまかせるのは危険である。 安全上重要な箇所については、作業者の監視や当該コンピュータシステムと独立の自動警報装置、自動開閉バルブの設置等の措置を行う。 [具体的防止対策] (4) 反応槽に酸素濃度計を設置するとともに、管理範囲を超えた濃度で直ちに警報が鳴るようにする。 (5) 酸素濃度が管理範囲を超えた場合、直ちに窒素等不活性ガスを系に導入できるようにする。 (6) 反応槽ジャケットへのスチーム漏れ込みを防止するため、スチームラインの仕切バルブを二重にするか、ジャケット入り口バルブの閉止中その手前でスチームをバイパスさせるなどの措置を講ずる。 (7) 酸化剤の添加量の異常の表示があった場合は、事態を究明し、安全を確認してから次の作業にかかる。 (8) 工程のコンピュータ管理の採用については、安全上重要な箇所には、作業者がチェック、または当該コンピュータと別系統のシステムによりバックアップを行えるようにする。 |
知識化 |
今後ますます、コンピューターに頼ることが多くなると思われるが、コンピューターの故障に備え、冗長性を高めるとか、故障を自動的に知らせ人間が介入できるシステムなどを考慮する必要がある。 |
背景 |
1.コンピュータの過信。規定量オーバーのパイロットランプが点灯していたが、無視していた様子がある。パイロットランプの点灯直後に添加を停止すれば、20倍もの量は供給されなかったであろう。コンピュータを過信したか、注意力の不足であろう。 2.安全設計が不足している。酸化剤である過酸化水素の過剰注入が危険であることは理解されていたであろう。そのような場合、間違っても一定量以上には添加できないように専用の添加用容器を用意し、物理的に危険な量を供給できないような、本質的安全対策を取ることが必要である。反応の安全性確保に対するプロセス設計の問題があったと推測する。 3.大量の過酸化水素が供給されているにもかかわらず、次のステップに進んでいるように見える。運転の規律が確立されていないように思える。 4.反応器ジャケットにスチームが流入した原因は分からない。多分通常なら少々のスチームが漏れ込んでも問題は起こらなかったと推定する。作業上のミスと言うより、バルブには内漏れがあることを意識していなかったと考えられる。 |
データベース登録の 動機 |
計器の誤作動により起こった暴走反応の例 |
シナリオ |
主シナリオ
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誤判断、誤認知、勘違い、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、酸化、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、運転・使用、コンピュータ故障時の運転、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、事故死1名、組織の損失、経済的損失、直接損失1.5億円
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情報源 |
日本火災学会化学火災委員会、化学火災事例集(2)(1974)、p.148
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.53
労働省安全衛生部安全課編、バッチプロセスの安全、中央労働災害防止協会(1987)、p.48-49
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負傷者数 |
1 |
物的被害 |
反応器大破 |
被害金額 |
1億5千万円 |
マルチメディアファイル |
図4.化学式
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図5.化学式
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図6.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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