失敗事例

事例名称 多目的医薬品製造装置で委託生産時の反応槽への仕込量過剰による爆発・火災
代表図
事例発生日付 1991年03月17日
事例発生地 三重県 四日市市
事例発生場所 化学工場
事例概要 シアノノルボルネン製造装置で、ジシクロペンタジエンとアクリロニトリル混合液を攪拌しながら加熱、反応させた。しかし、過剰な仕込み量により攪拌が不十分なためアクリロニトリルが局所的に高濃度となり温度が更に上昇し、重合反応が開始した。その反応熱が蓄熱して、暴走反応となり反応槽の内圧が上昇し、数分で最も弱い反応器ショルダー部に亀裂が生じ、内容物の蒸気が噴出、爆発した。飛散した反応液に引火し火災になった。火源は静電気の火花着火と推定された。なお、発災した運転は新規の委託生産の2バッチ目で、十分な情報の伝達が行われたか、運転基準が確立されていたか、など不明確である。
事象 工業薬品の中間体であるシアノノルボルネンを製造のためジシクロペンタジエン、アクリロニトリル及びハイドロキノン(安定剤)を反応槽に仕込み、温度が164℃、圧力0.8MPaGで反応中、突然大音響とともに爆発した。噴出した反応液に引火し、プラント全体が火災となった。同装置は農薬中間体、工業薬品などの生産を目的とする多目的生産設備だった。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
化学反応式 図3.化学反応式1
物質 ジシクロペンタジエン(dicyclopentadiene)、図4
アクリロニトリル(acrylonitrile)、図5
シアノノルボルネン(cyanonorbornene)、図6
事故の種類 爆発、火災
経過 1991年3月16日23:00頃 反応槽にジシクロペンタジエン、アクリロニトリルおよび安定剤のハイドロキノンを仕込み、窒素置換をした。
3月17日06:00 水蒸気加温を開始。155℃まで加熱後水蒸気を停止した。
 15分後に160℃となったので、冷却水を流し冷却を開始したが、さらに温度上昇が続いた。
09:15分頃 164℃、0.8MPaGで反応中、大音響とともに爆発・火災となった。
 なお、今回の製造は3月15日から17日にまでの3日間の予定であり、発災事故は2回目の反応途中であった。
原因 反応槽に原料であるジシクロペンタジエンとアクリロニトリルを予定量以上の多量を仕込んだ。反応を開始するため、液温を上昇させた。当然であるが液比重が小さくなり、容量が増加した。そのため、同反応槽上部で攪拌機による攪拌不足が起こった。反応槽上部に、より危険性の高いアクリロニトリルの高濃度相が局所的に発生するとともに、反応槽上層部での冷却作用がなくなった。その結果アクリロニトリルの重合が起こり、重合反応熱の蓄熱により更に暴走反応に移行した。反応槽内の急激な温度上昇に伴ない内部圧力が上昇し、槽の耐圧強度以上の圧力となり上部付近に亀裂破断が生じた。これにより瞬時に反応層内の圧力が急激に低下し、蒸気爆発を起こした。反応槽内の内容物が飛散し、この飛散時に静電気が発生し、その火花により着火したものと推定する。
ちなに、1バッチ目の仕込み量は合計約1,700kgに対し、発災した2バッチ目の仕込み量は約3,100kgであった。また、温度計が下部にだけ設置され、上部にはなかったため、上部の温度を捕らえられなかった。
対策 1.新規開発における物質の物性の調査
2.運転管理の充実
知識化 1.開発段階の装置では、安全面の諸条件が完全に把握できていないし、計装や計量が十分とは限らない。このような場合は、攪拌や冷却と言った機能は、本プラントより大きな能力も持つのが基本である。また、運転も習熟していないので、特に発熱反応では、暴走反応に対し適切な設備、操作を考えるのが必要である。
2.多目的の生産装置は、特定の物質の生産に対し最適設計はされていない。専用設備以上に運転に対して注意を払わねばならない。
背景 1.仕込み液の温度による比重の変化を予測していなかったようである。反応槽の構造に比べて、仕込み量が多すぎた。また、撹拌についても理解していないように見受けられる。一般的な撹拌翼の場合、翼の上下に翼巾と同じ程度しか十分な撹拌はできない。撹拌機付きの反応槽の取扱いについて十分な理解がなかったことが考えられる。
2.この事故になったバッチを含む一連の生産シリーズが委託生産の最初であった。委託先からの反応に関する的確な情報が不足していたか、運転側の生産マニュアルが不適切であった可能性が考えられる。
3.生産の委託元のデータに基づき運転が行われたようであるが、委託元は十分な条件を示さずに委託していた可能性がある。化学プラントでは研究者、開発者でなければ、本当の危険性を理解することは難しい。どこまで安全確保に関する情報が伝えられたかを考える必要があろう。
データベース登録の
動機
仕込量過多による暴走反応例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、事前検討不足、条件変動時の反応危険への配慮不足、付加反応、計画・設計、計画不良、設計不良、定常操作、誤操作、供給過剰、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、重傷者2名
情報源 高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.203-204
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.34
危険物保安技術協会、危険物事故事例セミナー(1996)、p.78-79
消防庁、危険物に係る事故事例-平成3年(1992)、p.30、76-79
負傷者数 2
物的被害 JFCプラント1棟全損.計器室,事務所等7棟小損.ストレート,フランジ等が東105m,南100m,西135m,北36m飛散.シアノノルボルネン4784kg,チオグリコール酸オクチルエステル6680kg,1.4-ジオキサン16000kg,ターシャルブチルクロライド3200kg,リン酸48kg,ナトリウムボロンハイドライド250kg,モノエタノールアミン150kg,塩化カルシウム50kg被害.
被害金額 約6億円(危険物に係る事故事例)
マルチメディアファイル 図4.化学式
図5.化学式
図6.化学式
備考 WLP関連教材
・化学反応の安全/付加反応
分野 化学物質・プラント
データ作成者 古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)