失敗事例

事例名称 ニトロベンゼンのスルホン化反応中の冷却水の漏れによる反応器の破裂
代表図
事例発生日付 1963年10月24日
事例発生地 東京都 板橋区
事例発生場所 化学工場
事例概要 m‐ニトロベンゼンスルホン酸製造装置で、ニトロベンゼンのスルホン化反応槽で反応温度を30℃に保つための冷却用コイルに通水したところ、コイルの腐食部から水が漏洩した。水と反応槽内の発煙硫酸が接触して反応液の温度が上昇し、暴走反応が起こり、内圧上昇により反応槽が破裂した。設備の点検の不備および圧力放出等の反応槽破裂防止設備の不備によって起こった事故である。
事象 m‐ニトロベンゼンスルホン酸製造装置のスルホン化反応槽で、反応中に冷却用コイルに水を流したところ温度が急上昇し、反応器が破裂して12名が負傷した。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
反応 スルホン化
化学反応式 図2.化学反応式
物質 m-ニトロベンゼンスルホン酸(m-nitrobenzenesulfonic acid)、図4
(発煙)硫酸(fuming sulfuric acid)、図5
ニトロベンゼン(nitrobenzene)、図6
事故の種類 破裂、漏洩
経過 m‐ニトロベンゼンスルホン酸製造装置で反応槽に25%発煙硫酸1670kgを仕込み、ニトロベンゼン600kgを投入して攪拌をして反応を開始させた。反応温度を30℃に保つための除熱用コイルに水を流した。反応液の温度が急上昇して暴走反応が起こり、内圧が急上昇して反応槽が破裂し、12名が負傷した。
原因 除熱用の冷却コイルの底部が腐食していたため、コイルに流した冷却用水が反応槽内に漏出して硫酸と接触して発熱したため温度が急上昇した。そのため暴走反応が起こり、反応槽の内圧が急上昇して容器が破裂した。
対策 1.反応槽等の設備の点検を強化する。
2.万一暴走反応が起こっても反応槽が破裂しないように、強度を高めるか耐圧以下に内圧上昇を抑えるための圧力放散設備を設置する。
3.冷却媒体が漏れても、異常発熱をしない設備にする。または材料の再選定と構造の再検討で漏れない構造とか漏れても直接接触しない構造にする。(根本対策)
知識化 1.反応装置については反応暴走に至るシナリオを検討し、反応暴走に結びつく欠陥事象の排除に努める。
2.万一反応暴走が起こっても反応槽等が破裂しないような安全対策を講じる。
背景 1.反応槽の点検不備のため、冷却用コイルの腐食を発見できなかった。
2.万一暴走反応が生じた場合に備えた圧力放出設備等の安全設備が不備であった。
3.漏れたら必ず発熱する反応器の設計には問題がある。水の代わりに漏れても安全な冷媒例えば灯油などを使って、さらにその灯油を冷却するような手段を使えばよい。コストが上がるが、一度はそこまで検討すべきだろう。また、冷却パネルを反応器外壁に張付て二重構造にすることもできる。当時(1963年)では検討困難かも知れないが、現在なら検討可能であろう。
よもやま話 ☆ 発煙硫酸を使って反応させている冷却用にコイルで水を流すだけというのは、余りにも無謀な設計であろう。腐食や割れ等により簡単に水漏れするだろう。1963年当時の安全対策はこんな程度だったのかも知れない。
データベース登録の
動機
設備・機器の点検不良、および異常反応に対する対策不備の事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、情報連絡不足(絶対洩れてはダメの情報)、スルホン化反応、使用、保守・修理、検査不良、計画・設計、計画不良、設計不良、破損、減肉、腐食、不良現象、化学現象、異常反応、破損、破壊・損傷、破損、大規模破損、破裂、身体的被害、負傷、12名負傷、組織の損失、経済的損失、工場全壊
情報源 田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.104,108
東京消防庁予防部、危険物実務の知識(1972)、p.156-157
労働省安全衛生部安全課、バッチプロセスの安全、中央労働災害防止協会(1987)、p.64-65
負傷者数 12
物的被害 工場全壊
マルチメディアファイル 図4.化学式
図5.化学式
図6.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/仕込み
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)