事例名称 |
フェノール樹脂反応釜の異常反応による破裂 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1965年12月03日 |
事例発生地 |
愛知県 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
フェノールとホルムアルデヒドを反応させてジヒドロキシジフェニルメタンを製造する反応釜に、前日の夜に原料を仕込み、当日触媒を投入して所定の80℃に加温した。所定の温度に到達したので、加温を停止した。しかし、温度上昇が続き、冷却を試みたが、反応が暴走し、内圧が上昇した反応釜が破裂し、作業員1名が負傷した。原因は特定できないが、加温途中で攪拌を始めた、コンデンサーの冷却水配管の詰まりによる蒸気圧上昇、初期に温度を上げすぎた、などが考えられる。 |
事象 |
フェノールとホルムアルデヒドを反応させてジヒドロキシジフェニルメタンを製造する反応釜に、1965年12月2日の夜に原料を仕込み、3日に触媒を投入して所定の80℃に加温した後、加温を停止した。しかし、異常反応により温度上昇が続き、冷却を試みたが、反応が暴走し、内圧が上昇した反応釜が破裂し、作業員1名が負傷した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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反応 |
重合・縮合 |
化学反応式 |
図2.化学反応式
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物質 |
フェノール(phenol)、図4 |
ホルムアルデヒド(formaldehyde)、図5 |
ジヒドロキシジフェニルメタン(dihydroxydiphenylmethane)、図6 |
事故の種類 |
破裂 |
経過 |
1965年12月2日23:40~翌3日01:40 三番方の作業員が反応釜に原料のフェノールとホルムアルデヒドをそれぞれ1140kg、760kg仕込んだ。 07:30頃 一番方の作業員が縮合反応を促進するための塩酸の投入を行い、攪拌と蒸気による加温を始めた。約17分後反応釜内の温度が所定の80℃に達したため、加温を停止し、コンデンサーに水を通した。 しばらくすると釜の内部温度が反応熱で95℃程度に上昇した。 ところが、泡立ちがいつもより少なく、内圧が上昇して塩酸注入口のゴム栓を押し上げるとともに液面が上下し始めた。作業員は異常反応が起こったと判断し、ジャケットに冷却水を流し、釜内の温度を下げようと試みたが、内圧はますます上昇し、コンデンサー付近でシューと音がした。 危険を感じた作業員は退避しようとしたとき反応釜が破裂し、作業員1名が重傷を負った。 |
原因 |
原因は次の3つが考えられる。 1.反応槽の攪拌を忘れ、加温途中であわてて攪拌したため反応が急激に進行した。 2.コンデンサーの管が詰まるなどして凝縮が不十分となり、反応槽内の蒸気圧が上昇した。 3.反応槽の加温の際、少し高めに加温した。 |
対処 |
異常反応と判断したときジャケットに冷却水を流して反応槽内の温度を降下させることを試みたが成功しなかった。 |
対策 |
1.攪拌装置が稼動していることの確認が確実に行えるようにする、できるならばインターロックをつけ、攪拌装置が稼動していない場合は加温できないようにする。 2.コンデンサーや排気管等の機器・設備の点検を定期的に行う。 3.加温には蒸気ではなく温水を使う。 4.非常用冷却水の注入装置を設ける。 5.破裂板などの圧力解放装置を設置する。 |
知識化 |
1.操作ミスが事故につながるところでは、ヒューマンエラーに対するハード面のバックアップシステムが必要である。 2.反応装置には万一反応暴走が起こっても反応槽などが破裂しないように破裂板等の圧力解放装置を設置する。 3.バッチ反応の立ち上げは難しい。温度上昇を例に取れば、最初の温度、加熱面の表面温度、温度上昇速度などが一回毎に変わる可能性があり、それに応じて反応の熱履歴も異なる。どこまで制御できるかで反応の安定性が決まる。 |
背景 |
1.安全よりも収率を上げることを優先した運転条件となっている可能性がある。 2.運転操作を作業員に頼っているため、ヒューマンエラーが事故に結びつく危険性が高い。 3.もっと基本的にはバッチ方式の発熱反応に対して設備面(とくに温度制御の基本的方法である撹拌と冷却)あるいは運転面での十分な検討が必要である。1965年と古い時代であるが、わかっていて良かったことであろう。 |
データベース登録の 動機 |
保全不備や作業管理など安全管理の不備による事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、無知、知識不足、勉学不足、縮合反応、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、点検不十分、定常操作、誤操作、条件設定ミス、不良現象、化学現象、異常反応、破損、大規模破損、破裂
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情報源 |
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.32
労働省安全衛生部安全課、バッチプロセスの安全、中央労働災害防止協会(1987)、p.42-43
労働省労働基準局、工場災害の事例と対策、日刊労働通信社(1969)、p.527-528
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負傷者数 |
1 |
物的被害 |
反応槽等大破 |
被害金額 |
約8万円(損害保険料率算定会) |
マルチメディアファイル |
図4.化学式
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図5.化学式
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図6.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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