失敗事例

事例名称 クロロホルム製造装置の反応塔内における異常反応による塩化水素ガスの漏洩
代表図
事例発生日付 1983年05月22日
事例発生地 山口県 徳山市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1983年5月22日の事故である。クロロホルム等製造装置の運転中に圧縮機の切替操作を行った。そのときに塩素供給量を所定流量まで減量しなかったので、反応を阻害する塩化鉄混入量が増大し、反応が抑制された。そのため、反応器圧力が低下し始めた。塩素供給量調節弁を「手動」にしていたため、反応器の圧力低下に対応できず塩素ガスが過剰に反応器に流入した。その後、反応率が回復したため、蓄積していた塩素が急激に反応した。その際、生成した塩化水素ガスにより圧力が急上昇して、反応器のフランジ部から塩化水素ガスが噴出し、工場敷地外の市街地に流れ、市民から数十件の苦情があった。
事象 クロロホルム等を液相反応で製造する装置の運転中に、塩素ガスを供給する圧縮機の切替操作を行った。圧縮機切換に伴う運転操作が不適切であったため、反応器のフランジ部から塩化水素ガスが噴出し、工場敷地外の市街地に流れ、市民から数十件の苦情があった。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
反応 ハロゲン化
物質 塩素(chlorine)、図3
事故の種類 漏洩、健康被害
経過 交替勤務の前の直から二次反応器供給塩素圧縮機のB機のグランドからの塩素ガス漏れ量が増加していることが申し送られた。
1983年5月22日09:00 当直班長は、塩素圧縮機B機の塩素漏れ量の増加を係長に報告し、A機への切替の指示を受けた。
10:00 B機からA機に切替えるためにA機の暖機運転を開始した。
13:44 圧縮機切替時には塩素量が変動するため、塩素供給流量調節弁を「自動」から「手動」に切り替えた。
13:46 A機の暖機運転、昇圧が完了したので、負荷をB機からA機に切替える操作を開始した。
13:48 B機からA機に負荷が移る過程で反応器の圧力が低下したので、A機への負荷の切替えを中断して、負荷をB機に戻した。同時に反応器圧力調整弁を「自動」から「手動」に切替えた。
13:50 塩素供給量が大幅に増加したことに気づき、塩素供給量調節弁を手動で操作して塩素量を絞り、13時55分に所定の流量に調節した。
13:59 突然反応器圧力が上昇したため、反応器圧力調節弁を全開にした。しかし、圧力上昇が止まらないため、除害搭行き放出弁を全開とした。
14:00 緊急遮断装置が作動し、原料供給が停止した直後に安全弁作動と同時に反応器フランジ部より塩素が噴出した。
原因 塩素ガス供給圧縮機の切替操作時に塩素供給量を所定流量まで減量しなかったので、反応抑制用の塩化鉄混入量が増大し、反応が抑制されたため、発生する塩化水素ガス量が低下し、反応器圧力が低下し始めた。塩素供給量調節弁を「手動」にしていたため、反応器の圧力低下による塩素供給量調節弁の差圧上昇により塩素ガスが過剰に反応器に流入した。その後、反応率が回復したため、蓄積していた塩素が急激に反応した。その際に生成した塩化水素ガスにより圧力が急上昇して、反応器のフランジ部から塩化水素ガスが噴出した。
対策 1.運転標準の見直しと整備.を行う。
2.設備面の改善対策
 (1)塩素の供給を圧縮ガス供給から液化塩素の気化供給方式に変更し、塩素ガス流量の変動を防止する。
 (2)警報機を重要度に応じて差別化し、異状の際、警報が多発しても重要な警報は認知できるようにする。
知識化 異常時対応において複雑な操作や計器の数値のチェックを要求すると、その信頼性は通常時に比べて大幅に低下するため、十分対応できなくなる。
背景 1.作業基準が不備であった。そのため、塩素ガスの減量操作が行われなかったり、反応温度低下で作動する緊急停止装置の設定値が不適当であるなどのヒューマンエラーが生じた。
2.塩素流量増加などの異常を知らせる警報装置が不十分である。
データベース登録の
動機
異常時に運転員に複雑な操作や集中力を期待すると発生するヒューマンエラーの事例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、ハロゲン化反応、計画・設計、計画不良、設計不良、非定常操作、緊急操作、機器切替に伴う操作、不良現象、化学現象、異常反応、破損、大規模破損、漏洩、二次災害、環境破壊、環境汚染
情報源 高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.146-148
物的被害 二次反応器胴体フランジ部の変形.ガスケット損傷.
社会への影響 市街中心部に塩化水素ガス流入。
マルチメディアファイル 図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)