事例名称 |
過酢酸製造装置における過酸化水素水のオーバーフローによる爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1988年09月12日 |
事例発生地 |
神奈川県 山北町 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
過酢酸製造装置の過酸化水素計量タンクにおいて、不注意でオーバーフローさせた。オーバーフロー分がセパレータータンクおよび真空ポンプ用バッファータンクへ流れこみ爆発した。作業員がバルブを若干開のままで持ち場を離れたためのオーバーフローが原因と考えられる。 |
事象 |
過酢酸製造装置の過酸化水素水タンクから90%過酸化水素水を計量タンクに移送する。移送方法は、真空ポンプにより、計量タンクを真空にして吸引させる。この真空ポンプ吸引側にある真空用バッファータンクが突然爆発した。過酢酸は90%過酸化水素と氷酢酸を混合して製造する。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
仕込 |
単位工程フロー |
図2.概要図
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化学反応式 |
図3.化学反応式1
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物質 |
過酸化水素(hydrogen peroxide)、図4 |
事故の種類 |
爆発 |
経過 |
90%過酸化水素水を真空ポンプで減圧吸引して過酸化水素水タンクから計量タンクへ移送する作業中に、係員が他装置の作業に行くためバルブ開度を調整して現場を離れた。10分後に戻ってくると、計量タンクへは過酸化水素がよけいに張りこまれていた。係員は余剰分をセパレータータンクへ移送し、計量タンクの容量を調整した。調整終了後、すでに真空ポンプ吸入側にあるバッファータンクから白煙が出ていて、まもなく爆発した。 |
原因 |
計量タンク(500L)からセパレータータンクへオーバーフローし、さらに、通常流入しない真空ポンプ用バッファータンクへ流れ込んだ。バッファータンク内の異物と反応して過酸化水素が異常分解し、分解ガスによる急激な圧力上昇によって爆発に至ったものと考えられる。過酸化水素水の移送はタンクの気相を減圧して吸引している。計量タンクからの蒸気相の液同伴分はセパレータータンクで分離され、さらに下流のバッファータンクへは過酸化水素液の流入はないことになっているらしい。 |
対策 |
当該施設は廃止されたが、今後設置許可申請がある場合は、異常時の対応設備について、警報・緊急遮断・圧力開放等、制御装置の強化および配管・タンク等の適正材質の選定を行う。 |
知識化 |
強力な酸化剤である過酸化水素が、それの使用や貯蔵を想定していない容器に混入するような設備構成は非常に危険である。 |
背景 |
1.バッチで移送している間に持ち場を離れた。2つ以上の並行作業を同時に行うことは、事故の原因になりやすく、原則禁止の操作方法である。ヒューマンエラーといえようが、教育・訓練の問題かも知れない。 2.バッファータンクに過酸化水素液が流入する危険性の意識が薄かったか、あってもHAZOP(ハゾップ)などでの検討が不十分で、設備対応を取ることに気が付かなかった。少なくとも計量タンクの液面警報や張り込み流量の自動計測と警報程度は必要だったが、見落とした。 3.バッファータンクにサビ等の異物があった。バッファータンク設計上の、あるいは運転上の前提は過酸化水素水の流入がないことであろう。ただし設備的には誤作業があった場合は流入があり得る。この様な場合を想定し、平常から過酸化水素が爆発しない環境を作る必要がある。 上記を総合的に考えると、90%過酸化水素水を扱うには、取扱いと設備対応に問題があったとも考えられる。 |
よもやま話 |
この事故の原因の一つは、同時並行作業にある。同時並行作業による事故例は多数に上り、ときに注意を要する行動様式である。 |
データベース登録の 動機 |
設備検討不備にずさんなオペレーションが加わった例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不注意、注意・用心不足、取扱い不適、無知、知識不足、思い込み、計画・設計、計画不良、設計不良、定常操作、誤操作、誤った操作、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、12名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額1300万円
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情報源 |
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1989)、p.183
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例100(1991)、p.19-20
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.47
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負傷者数 |
12 |
物的被害 |
鉄筋コンクリート一部3階建て建物の壁体や間仕切壁が倒壊.窓ガラスが吹き飛ぶ.貯蔵タンク破裂 |
被害金額 |
推定1300万円(自治省消防庁) |
マルチメディアファイル |
図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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